第74話 文化祭の終わりに
「ここからは私に任せていただけますでしょうか」
翠先輩の台詞。
俺としてはどうしようもないので、ただ頷くしかない。
「あと、このカメラごと持って行った方がいいですわ。向こうでパソコン内にファイルをコピーしておけば。帰りの集合までには
俺のその辺の目的も知っていたのか。
確かに翠先輩も全知に近い処にいるようだ。
「わかりました」
俺はカメラを手に立ち上がり、鍵を開けこの部屋を出て引き戸を占める。
中から鍵がカチッとかかった音がした。
結局何がどうなっているのか微妙に解らないままだな。
そう思いつつ俺は廊下を階段の方へ向かって歩き出す。
そんな訳で準備室へ到着。
「お、カメラごと借りて来たか」
「まあちょっと、色々あって……」
先程の状況をちょっとばかり事情説明。
「そんな訳で、とりあえず木田余は翠先輩に預けてきました」
「ならこっちでする事は何もないな。じゃあカメラからファイルをコピーして我々の舞台を確認しようではないか」
という訳でカメラからメモリカードを抜いてパソコン内にコピー。
動画ファイルがいくつかあったが更新日時から午後の公演っぽいのを選択。
動画プレイヤーを起動する。
「桜ちゃんも愛梨ちゃんも香織先輩も可愛いよね……じゅるり」
こら有明透子妙な反応するんじゃない。
「でもメイド3人はよくやっているよな、実際」
「よかった。ちゃんと出来てた」
無事ろうそくに火がついていよいよ俺、連行される。
「こうやって見るとやっぱり正利って女顔だよな。違和感が無い」
「でもうちのクラスの連中は皆すぐわかったって言っていますよ」
「そりゃ正利の顔を知っていて、なおかつ出る事もわかっているからな」
「そうそう。これはこれで結構美味しいわ……」
だから有明透子、お前の反応は色々怖いんだよ。
「それにしてもこのボールペン投げ、1発くらいは当てても良かったな」
大和先輩もとんでもない事を言う。
「やめてください冗談じゃない」
「どこかの新聞も言っていただろう。一発だけなら誤射かもしれない」
「投げている本人がそう言っている時点で誤射じゃないですから。それに誤射だろうと何だろうと当たると大怪我ものですよ」
「正利なら当たると気付いた時点で避けられるだろう」
「手錠を引きちぎってですか」
「それはそれで見ものだよな」
「別のショーになるじゃないですか!」
まあ冗談なのだろうけれど。
もちろん冗談で済まない人もいる。
俺が今度は箱に入れられ手足を手錠で拘束されるシーンで有明透子が一言。
「やっぱりこういう際の被害者アシスタントはハイレグ水着の方が良かったわ」
多分これ、間違いなく本心で言っている。
「俺がそんなの着れる訳ないだろ」
「大丈夫大丈夫、股間パットというものがあるから」
何でそんな事知っているんだ!
「あ、でもあえてそのままでも美味しいかも……じゅるっ」
教室と違ってここだと変態を隠さないよな、有明透子。
そんなこんなで一通り流して見た感想はというと。
「緊張したけれど良かった、ちゃんと出来ていて」
「いや実際なかなかいい出来じゃないのか、このショー」
「及第点」
「そうですね。お客さんも楽しかったと思います」
「やっぱり真鍋君はハイレグの方が……」
変態1名を除いてこのショーは成功だったと思っているようだ。
ただ、俺は違う意見だ。
「もう少し種や仕掛けがあるように見せた方がよかったんじゃないですか。これじゃ本当に種が無いってバレそうで洒落になりません」
箱を斬る前、有明透子が虚空から剣を取り出したシーンなんてどう見ても普通じゃない。
「大丈夫よダーリン。本当の魔術だなんて絶対みんな信じないから」
「同意」
「科学的じゃないよな、魔術なんて」
よりにもよってお前らがそう言うかと思う。
「でも木田余は種が無いって見破りましたよ」
「それは全知の持ち主だからでしょ」
「そうそう、心配いらないって」
「そうだな。気にする必要は無いだろう」
本当だろうか。
まあやってしまった以上もうどうしようもないのだけれど。
「さて、のんびり見ていたらそろそろ集合時間だな」
午後3時に展示も出し物も全て終了して午後3時半には出席確認の集合だ。
「今日はこのままでいいだろ。片づけは明後日にやればいいから」
明日の月曜日は今日の代休。
火曜日は文化祭の片づけの日だ。
だから今日急いで片づける必要は無い。
「それじゃカギ閉めて帰りますか」
「だな」
「ダーリン、帰りも一緒ですからね」
「はいはい」
そんな事を話しながらそれぞれ片づけ始める。
◇◇◇
体育館へ行くと既に結構皆さん集まっていた。
馴染みの連中の近くへとりあえず腰をおろす。
「あーあ、結局彼女は出来なかったな」
「そんなのうちの文化祭に期待する方が間違っているだろ」
「でもひょっとしたら近くの他の高校の女子が来て……って事だってあるかもしれないだろ」
若松と板谷がいつもと同じようなしょうもない話をしている。
「でも2人ともほとんど文化祭参加して無いだろ」
「それでもいつもよりは出会える可能性があるじゃないか」
「そうだ! リア充の真鍋にはわからないんだ俺達の気持ちは」
「とは言ってもうちの文化祭、しょぼいしな」
「漫画に出てくるようなイベントが起こりそうな気配もねえ」
まあそうだよな。
所詮うちの文化祭なんてそんなものだ。
模擬店のような金銭を扱う関係は不許可。
学園物の漫画にあるような後夜祭とかそんなものも無い。
単なる進学校の学校行事のひとつ。
そこまで盛り上がる事のないまま終わりを迎える。
まあ高校生の本分は勉強だからそれでいいんだけれどさ。
「それにしても木田余、静かだった今日は」
列の前にも後ろの方にも木田余はまだいない。
意識を失ったままなのだろうか。
「あの真鍋の処の魔術ショーの時しか見なかったな、そう言えば」
「そう言えば真鍋の女装ショー、あれなかなか美人だったぞ」
「せめて本人を知らなければなあ」
おいおい。
「でもその辺は先輩から参考になる話を聞いた。●工大に行った先輩だがな。ああいった女子がほとんどいない大学は、クリスマスの時期とかになると何故か校内に女子が増えるんだそうだ」
「他から入ってくるのか」
「いや違う。足りない女子は自らの手で作り出すんだ。具体的にはその辺にいる女装の似合いそうな男子学生を……」
「ああやめて、お尻が汚れる」
「だからちゃんと遺伝子がXXな彼女が欲しければ難易度ではなく環境で大学を選べだと。具体的には憑馬大のような周りに何もなく文系学部がちゃんとある大学がいいそうだ」
「ふむ、何故だ」
「周りに遊ぶ場所が全く無いから3つのSが盛んだそうだ」
「何だその3つのSとは」
「
「なら俺、憑馬大志望にしようかなあ」
本当しょうもない話ばかりだ。
時間ギリギリになってやっと木田余がやってきた。
返すつもりで持っていたカメラを奴に紙袋ごと渡す。
「木田余悪い。あのショーの映像を見たくて借りていた」
「あ、ああ」
木田余は心ここにあらずと言う感じで頷きカメラを受け取る。
そしてふと何かに気づいたように小声でこそっと俺に告げた。
「悪い、ちょっとこの後いいか」
何だろう。
取り敢えず頷いておく。
「さて、それでは出席を取るぞ。2回呼んで返事をしなかった奴は早退扱いな」
前で先生が出席を取り始めた。
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