第69話 先輩のタロット占い
川口先輩は箱からカードを取り出し、占いには使わないらしい数枚を箱に入れて脇にのけた後、自分の前に置く。
「これがタロットカードの典型的なシャッフルの方法。カードを回すよう広げ、その後両手でかき混ぜる。そのまままとめ、縦になるように自分の前に持って来る」
説明しながらカードを円を描くように広げ、両手でかき混ぜながらまとめていく。
その手つきが妙に鮮やかでちょっと魅せられる感じだ。
「次は貴方の番。私が今やったような方法でもいいし別の方法でもいい。カードをシャッフルして、そしてまとめて」
まとめたカードがすっと木田余の前に出される。
木田余は無言で頷きそして右手をカードの上にのせる。
まだ緊張しているらしく震えた手のままカードを回し、そしてぎこちなく両手でかき混ぜつつ纏めていく。
まとめ終わったところで川口先輩は頷いた。
「カードを展開」
先輩はカードを手に取り7枚ごとに1枚取り出し並べ始める。
「まずこのカードは現在の状況を示す。次は現在の障害……」
最初は中央に十字に、そして木田余からみて上、下というように10枚並べた。
「それでは1枚目、現在の状態をあらわすカードに
2枚目、障害をあらわすカードは
3枚目……」
川口先輩はそんな説明しながら次々にカードを開いていく。
最後まで開いた後、先輩は視線をあげ、真っすぐに木田余を見た。
「まず総論。
悩みはごく近いうちに解決される。
貴方は悩んでいるまたは悩んでいるのを隠している。その悩みは貴方の過去の体験から来ていて、そこを見ないようにしている事が解決からあなたを遠ざけている。普段は絶望と退屈を押し隠している。いっそ狂ってしまえばいいとまで思っても元来の性格がそれを許さない。
だがごく近いうちに問題は解決する。恐れない事だ。そうすれば次のステップに歩き出す事が出来る。援護してくれる人も出来るだろう。
結論は以上。あとはカード毎の細かな読解になるが必要だろうか」
「お願いします」
木田余がいつになく真面目な顔で頭を下げた。
さっきまでの緊張による震えはなくなった模様。
川口先輩は頷く。
「ではカード1枚ごとの解説を並べた順に。
まずこのカードは現在の状況。
次は障害を示すカードで
3枚目本人の意識は戦車の逆位置。今までのカードの流れからみて自信の喪失、あるいは無気力と解するのがいいと判断。
4枚目は無自覚な潜在意識。
5枚目は過去の原因。死、正位置。過去の誰かの死、もしくは別離。ひとつの物語の終わり。2枚目のカードと意味がかぶる。つまり過去の死もしくは別れこそが障害であり原因である。
6枚目は近い未来。
7枚目、現在の本人の立場。愚者逆位置。あえてここは定番の解釈と少し変えてこう読み取りたい。孤独な
8枚目は周辺の環境。
9枚目、問題解決の見込み、力の正位置。定番の解釈なら意志、行動、有言実行。だがここは『恐れるな』の一言で表現するのが多分正解。
最後、このカードが結論。
更に言うとこの中に
以上がカードから読み取った貴方の現在抱えている可能性が高い問題、及びその解決についてとなる。あとここからはおまけ、問題がどれくらいで解決するか」
川口先輩はささーっとカードをシャッフルした後、無造作に7枚並べる。
「面白い程明確な結果。全て正位置。つまり問題は遅くとも数日の間に解決に向かうだろう」
「何かその為に意識することはありますか」
いつになく真面目な調子で木田余が尋ねる。
川口先輩は再びカードをシャッフルし、今度は5枚を取り出す。
「いつも通りでいい。特別な何かをする必要はない。自分が思ったとおり素直に行動するのが正解。ただ疑問を持った場合はそれを無視してはいけない。ふりかえるのを恐れるな。こんな感じだ。
あと、おまけだが最後にメッセージをひとつ」
先輩はさっとカードをシャッフルして1枚だけ取り出し、顔をしかめさらにもう1枚取り出す。
「過去は戻らない。わからない、理解できないというのもまた一つの理解。それを受け入れれば今の壁は壊れる。以上だ」
俺には勿論その
だが木田余には通じたようだ。
「ありがとうございました」
そう言って席を立つ。
その様子が妙に
「おい、大丈夫か」
「何とかな」
そう言って木田余はいつもらしくない薄笑いを浮かべた後付け加える。
「この機会を与えてくれて感謝する。ただちょっと頭の中を整理したい。そんな訳で1人にしてくれ」
本格的にらしくないなと思いながら俺は奴をただ見送った。
◇◇◇
木田余が扉の先へ消えた後。
「で、どうだった?」
大和先輩の問いに川口先輩は頷く。
「間違いないく仲間。詳細は放課後」
おいおい奴はいったいどんな能力持ちなんだよ。
そう聞きたいがここには他の生徒も多い。
少なくとも今は聞ける状態じゃないのは確かだ。
微妙に中途半端な気分のまま部屋を出ようとして愛梨に捕まった。
「せっかくだから香織先輩に占って貰おうよ:」
おいおい。
「いいよ先輩も忙しいだろうし」
「まだ開店前。少しだけ時間はある」
おいおい川口先輩。
「ただ愛梨が占おうとしている事は、占いの結果で変えるような事なのだろうか。もし悪い結果が出ても変えられない事なら占わない方がいい。占ったという観察結果がまた世界を一つ確定へとと進めさせる。
だからそれがもし大事な事で、結果がどうあろうと変える気が無いのなら占わない事を勧める」
「シュレーディンガーの猫みたいなものか。監察結果が世界を確定させる」
大和先輩の台詞に川口先輩は頷く。
「占いもまた一つの観測」
「そうか、なるほどね。香織先輩ありがとう。それじゃ占わないでおく」
「その代わり」
川口先輩は机の下から小箱を取り出して何か青い小さなストラップ状のものを取り出した。
「ナザール・ボンジュウというトルコのお守り。鞄の隅にでも入れておけばいい。大量に作ったから遠慮はいらない」
「ありがとうございます」
「一応私の手製。それなりの効果はある筈」
鉛筆の断面位の小さな円形の透明な青いものの中心に青い目玉のようなものが書いてある。
ひもを通してあってスマホ程度の物にはかけられるようにもなっている。
「作ったんですか」
「全部私の自作」
箱を開けると同じような青い目玉、でもよく見ると少しずつ形や大きさが違うものがいくつも入っていた。
「プラ板とレジンで作った。どっちも100円ショップ」
恐らく占いをした相手に渡すために作ったのだろう。
なかなかマメだなあと思う。
それに聞いた限り材料は安いが物そのものは結構綺麗だ。
「こういった器用さとマメさは私には無いな」
大和先輩がそう言って肩をすくめた。
「せっかくだから桜と透子にも」
「いただきます」
「私も」
平等を期すために1年女子には渡すという事のようだ。
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