第68話 木田余調査作戦

 帰りの出席確認後の準備室。

 いつも通り研究会の面々が何となく集まっている。

「そんな訳で文化祭の中に結構怪異が混じっているからそこそこ注意してくれ。今日は私と正利である程度掃除しておいた。明日は安浦先輩が桜と回るそうだから桜、ついででいいからよろしく頼む」

「わかりました」

 桜さんは頷く。

「ただ食事なんかも一緒に行く予定なので学校を開ける時間が出来ちゃうと思いますけれど」

「1回も回れば十分だ。それに今日ある程度回っておいたからそう問題も起きないと思うしな」


「ごめんなさい。私も当番外で回る際に何かないか見てみるから」

「透子は何か文化祭でやっているのか?」

「料理研究会の手伝いをしているの。ちょっと頼まれて」

 なるほど。

 頼まれてか頼んでか本当の処はわからないけれどな。

 料理が上手かつ大食いだから。


「さて、実はあと一つ問題がある。正利の友人にどうも一般人と違うような気配がある奴がいる。でも私では今ひとつよくわからん。だから明日、香織に診てもらいたいと思うのだが香織、大丈夫か?」

「明日は一日中出店。でも来てくれれば問題ない」

 出店?

「何か展示を出しているんですか?」

「占いの館」

 おいおいそれって洒落にならないだろ。

「コンピュータ占いと星占い、手相と易占と黒魔術の合同出店。カードや水晶玉を鍛えるにはちょうどいい機会」

 なるほどそういう事か。

 洒落にならないのは変わらないけれど。


「正利の方はどうだ? 誘い出せそうか?」

「とりあえず明日は暇らしいし占いだと言って木田余を誘い出せそうです」

「出来れば10時の開店前がいい。それなら混まない」

 混むのかよ。

 まあ占いの実力は間違いないだろうけれどさ。

「そういえば何かよく当たるジプシー占いがあるって聞いたけれど、あれって先輩なんですね」

「私も聞いたわ」

 桜さんと有明透子は噂で聞いていた模様。

 

「それじゃ明日、朝の集合が終わったら行きます。場所は何処ですか?」

「2年2組教室」

「私も行こう。様子を見たいからな」

「ダーリンがいるのなら私も」

 おいおい愛梨と大和先輩が一緒かよ。

 また木田余に誤解されそうだ。

 でも木田余を誘い出すにはちょうどいいのかな。

 そう思い直す。

「じゃ明日、朝の集合が終わったら体育館の南側出口の外で待ち合わせでいいか」

「わかりました」

「私も」

 それにしても木田余が能力者か亜人の可能性がある訳か。

 確かに変な奴ではあるけれどそんな事態は想像しなかったな。


「じゃあ今日他に話し合う事はあるか?」

「私は無い」

「私もないわ」

「俺も無いな」

「同じく」

「私も無いです」

「それじゃ今日の会議終了だな」

 となると後は雑談だ。


「で、その対象って木田余の事なの?」

 有明透子は同じクラスだから当然木田余の事を知っている。

「そうらしい。俺は何も感じなかったけれどな」

「私も今まで特に何も感じなかったわ。でも私はあまり話したことないしね」

「木田余って私知っているかな?」

「俺の前の席にいて、良く俺が話している奴」

「ああ、あのちょっと残念そうなイケメンね」

 うーむ、正しい。

 木田余は身なりを整えて黙っていればイケメンだし家は金持ちだし頭もいい。

 ただ毎朝寝癖が残っていたり鼻毛が見えていたり彼女が欲しいと言っているくせに女子に話し掛けられなかったり、更に話題も……

「よく見てるよね愛梨ちゃん」

「ダーリンの友人関係位は一応」

 うーんそこまで把握しているのか。

 洒落にならないな。


 ◇◇◇


 そんな訳で翌日。

 やる気満々な木田余と共に体育館の外で待ち合わせ。

 ほどなく愛梨も大和先輩もやってきた。

「すみません。本日は協力よろしくお願いします」

 大和先輩は余所行きモードだ。

「じゃあ行こ、ダーリン」

 愛梨はいつも通り。

 俺と木田余を愛梨と大和先輩で挟む形になる。

 おっと木田余、やっぱりいつもと大分違うな。

 がちがちに緊張しているだけではない。

 よく見ると髪型もいつもよりは整っているし髭もちゃんとそっている。

 奴なりに色々と気を配っているようだ。

 

 なお俺としては木田余に研究会に参入して貰えると大分助かる。

 男1人だと色々と肩身が狭かったりするのだ。

 大和先輩をはじめ皆さん俺が男子だという事を何も気にしていない様子だから。

 あと上手く行けば今俺が有明透子と愛梨とで二股かけているなんて疑惑も消せるかもしれない。

 だから俺としては木田余を応援したい。

 応援してどうかなる問題では無いけれど。


 3階の一番端の教室入口に『占いの館』という立て看板が出ている。

 中へ入ってみると

  〇 コンピュータ総合占い

  〇 西洋占星術

  〇 タロット・水晶占い

  〇 手相

  〇 易占

  〇 黒魔術占い・呪い専科

 なんてブースが段ボールで区切られて並んでいる。

 タロット・水晶占いは右側一番奥のブースだった。

 どこかの教室から借りて来たらしい暗幕で囲まれ怪しい空間になっている。

 机上もよくわからない模様のテキスタイルで覆ってありそれっぽい。

 テーブルには箱に入ったままのタロットカードが5種類とピンポン玉くらいの大きさの水晶玉が載っている。

 ただ占い担当者の恰好がちょっとそこまでの雰囲気と違う。

 見覚えのあるメイド服だ。

 魔術ショー舞台用のメイド服をそのまま使ったな。

 確かにこの服装も怪しいけれど怪しいの方向性が違うような……


「それじゃ座ってくれ。香織、頼む」

 大和先輩によって木田余は椅子に座らされる。

 川口先輩は頷いた後、やや上目遣いで木田余の方を見て口を開く。

「それではまずカードをお選びください。この4種類のカードのうち、どれが自分を表現するのに適切と思われますか」

 あ、これ結構威力が大きいかも。

 川口先輩、こういう表現は好きじゃないけれど典型的ロリ系美少女だ。

 しかもかなり胸もある。

 それがちょい胸を強調するようなメイド服を着て上目遣いでなんて見たりすると……

 案の定木田余はガチガチ状態だ。


「じ、じゃあこれで」

 台詞も指先も緊張でか震えている。

「あなたが選んだのはライダー・スタンダード。神秘学者アーサー・エドワード・ウェイトが、秘密結社黄金の夜明け団ゴールデン・ドーンの解釈をベースに画家パメラ・コールマン・スミスに描かせたタロットカード。今では世界でもっともメジャーかつスタンダードなカード。

 これを選んだ貴方は広い知識を持っていて、かつ本質的には常識人。例え普段の外見や言動がどうであろうとも」


 いきなりそんな処から既に占いと言うか判断がはじまるのか。

 そう思いつつ俺達は状況を木田余の背後で見守る。

 

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