第67話 アポ取り成功
屋上の隅に陣取っていた『招き女』を消し、階段を下りて4階廊下の家鳴りを脅し、2階女子トイレの赤紙青紙になりかけの怪異も消して、更にその前の洗面所の鏡も怪しかったから浄化する。
2年5組のお化け屋敷に至っては本物が若干紛れ込んでいた。
取り敢えず脅かすだけで害は無さそうだから基本放置とする。
「随分とまあいるもんですね」
「今年は多いな。でもまあこれだけやっておけば明日以降は楽だろう」
「何でまた多いんですかね」
「さあな。怪異の都合なんてわからんよ」
だよな。
そう思いつつ準備室に帰る途中だった。
渡り廊下へと曲がった処で見覚えある奴が前方から歩いてくるのに気づいた。
まずい。
すかさずUターンしようとする俺を大和先輩が捕まえる。
「何だ。何かあるのか」
「いやちょっとトイレに……」
「専門教室棟の方が空いているだろう」
あ、これ、大和先輩気付いているな。
何で俺がUターンしようとしていたかについて気付いているかは不明。
だが少なくとも俺が直進したくない事は間違いなくわかっている。
こうなれば素知らぬ顔で通り過ぎよう。
奴が気付かない事を祈るだけだ……
本屋に行っていた筈の
若松や板谷といったいつもの面々も一緒だ。
ああ、これは……
「よっ、真鍋。発表の準備の方はどんな調子だ?」
木田余の視線がそう言いつつ大和先輩の処で止まる。
そしてにやりとして、俺の方を見た。
何だこの反応は。
次に若松が聞いてくる。
「一緒にいる方は同じサークル?」
「先輩」
俺としては務めて最小限の台詞で逃げる方針だ。
だが大和先輩がそれを許さなかった。
すっと後ろから俺のズボンのベルト部分を掴んだまま、余所行きの笑顔と声であいさつする。
「2年1組の大和と申します。真鍋君と同じ研究会です。どうぞよろしく」
おいおい自己紹介なんてするなよ。
「ど、ども初めまして。俺は真鍋君と同じ1年1組の若松です」
「同じく板谷です」
「木田余です」
何せ同じクラスの女子以外と話さない連中だから微妙にぎこちない。
「それでは失礼します」
大和先輩はよそ行きの声と笑顔のままそう言って俺のベルト部分を突っつく。
挨拶終わり、前に進めと言う事だろう。
ここで戦う訳にはいかない。
今は一刻も早くこの場を立ち去ることに集中すべきだ。
そんな訳で俺は逃げるようにその場を去る途中。
「あとで査問会な」
すれ違いざまに木田余、とんでもない事を言いやがった。
おい待てこれはただの先輩でどちらかと言えば敵役なんだ。
そんな釈明をしたいが出来ない。
完全にすれ違い終わって少し歩いた後。
「楽しそうだな、査問会」
大和先輩めそこまで聞こえていやがったか。
「勘弁して下さいよ」
「別に私は嘘を言っていない」
確かにそうだけれどさ。
「ただ、あの左端にいた彼、ちょっと何か感じなかったか」
えっ。左端といえば木田余だけれど。
「まあ確かに
「あの彼、木田余と言ったか。魔力とはまた違うが何かを感じたような気がする」
それは感じた事は無かったな。
「確かに木田余は天才ですけれどね。それ以外はナイーブな只の高校生ですよ」
「異常な学力というのもまた力の顕現のひとつだぞ」
そう言われてもなあ。
「何なら後で調べてみるか」
「調べる方法なんてあるんですか」
「一応な。手っ取り早いのは本人を呼んできて前に座らせて、香織にカードを使って確認してもらう方法だな」
確かにそれならわかるかもしれない。
「でも一般人をうちの研究会に呼ぶのはまずいでしょう」
「理由は何とでもつければいい。例えば文化祭で占いをやっていてお試し実施中だとかな。それに悪いが一般人なら私の魔法でも簡単な記憶操作位出来る」
おいおいそんなヤバい魔法まで持っているのかよ。
「何か考えたようだから言っておくが記憶操作とか暗示とかは亜人や能力者の基本能力だからな。正利だって本当は使える筈だぞ」
そうなのか。
しかし読み取ったようにこっちの思考を察知するよなまったく。
まあその辺はいつもの事なので今更気にしないけれど。
「香織は今日は忙しいみたいだから、やるとすれば明日だな」
そうですかもう決定事項ですか。
まあ深くは考えまい。
本日はこの後ギリギリまで準備室で勉強して、後は明日考えよう。
◇◇◇
午後3時50分、本日終わりの集合は体育館だ。
気が重いながらも体育館へ。
案の定、木田余一派に捕まった。
「さて、査問会の時間だ。あの綺麗な先輩とはどんな関係なんだ。一緒に回っていたようだが愛梨ちゃんはどうしたんだ。有明とあわせて三つまたなのか。吐け!」
「単なる研究会の先輩だ。それ以上じゃない」
それ以上俺としては答えようがない。
「ならあの先輩、付き合っている人とかはいるのか」
木田余がメインで尋問する模様だ。
「知らないが平日は大体放課後研究会にいるな」
「いない可能性が高い、と」
「それにしても真鍋の研究会は女子ばかりだな。しかも把握している限り可愛いとか美人とかばかり。確か真鍋以外全員女子だったよな。ひょっとしてあの研究会、真鍋のハーレムか?」
「残念ながらハーレムじゃない」
そんないいものではないのは確かだ。
「ところで今日は結局本屋か」
俺は話題変更を試みる。
「まあな。こっちの方も一応ささっとだが展示を確認したけどさ。正直華やかさには欠けるよな。模擬店とか禁止だし」
「そこ、尋問中だ」
俺と若松の会話は木田余に遮られた。
「でも尋問しても仕方なくないか」
あれ若松、いつもと調子が違う。
「どうした若松、らしくないな」
思わず尋問される方の俺がそう尋ねてしまった。
「いや、何かな」
あ、これはアレだな。
俺は気付いた。
西洋民俗学研究会は能力者や亜人等の対象者以外が入らないよう様々な認識阻害をかけている。
その効果が若松と板谷に出ているのだろう。
「吾輩は納得せんぞ。ただでさえ愛梨ちゃんと有明を侍らせておきながらあんな綺麗な先輩といちゃいちゃするなんて、神は許して俺は許さん!」
この様子だと木田余には認識阻害の影響は出ていない模様だ。
何故だ。
そう思ってそして気付く。
これはひょっとしたらチャンスかもしれないな。
木田余に『何かを感じたような気がする』のが気のせいか本当に何かあるのかを確認する為の。
ならばちょっと手を打っておこう。
「木田余、明日は何か用事があるか?」
「いや。また抜け出して本屋でも行くか、図書館でも籠ろうかと思っているが」
「ならちょっとだけ付き合ってくれないか」
「男と付き合う趣味は無いぞ」
「いや、ちょっとうちの研究会で占いをやっていてさ。そのテストに付き合って欲しいんだ」
「お、ついに真鍋のハーレムの実態に迫れる訳か」
木田余、にやりと笑う。
「いいだろう。これは乗り込まずにはいられまい。何なら研究会の女子全員首実検をしてやろう。板谷、若松、付き合え」
いや付き合われると困るけれどなと俺は思ったのだけれども。
「俺はいい」
「俺も」
2人ともあっさり断った。
やはり認識阻害は有効に作動しているようだ。
そして木田余には効果が無いと。
とすると木田余、やはり亜人か何らかの能力を持っているのだろうか。
「それでは1組、出席を取るぞ」
担任の松井先生の台詞で話を中止し、前を向く。
木田余の件、後で大和先輩に連絡をしておこう。
そう思いつつ俺は出席確認の俺の番を待つ。
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