第66話 文化祭の見回り

 登或とある学園高等学校の文化祭は11月の第一金曜日からの3日間で行われる。

 俺達の魔法マジックショーは日曜日の午前10時からと午後1時から。

 クラス対抗の合唱コンクール予選は金曜日の朝10時から。

 それ以外の時間は暇だ。

 だから合唱コンクールに我が1年1組が敗退した後すぐいつもの準備室にこもり、教科書と参考書を広げる。

 今日は真面目に勉強をやるつもりだ。

 愛梨は弁当を一緒に食べた後、合唱コンクール準決勝へと向かった。

 1年3組は合唱コンクールで準決勝へと進んだからだ。

 いつもこの部屋にいる川口先輩も今日は何故かいない。

 つまり邪魔者無し。

 ああ予習の英訳が捗る。


 非常に調子よく教科書4ページ分の翻訳を終えた処だった。

 何の前触れもなくいきなり準備室の扉が開く。

「やはりここにいたか、正利」

 大和先輩だ。

「特に回りたい場所も無いですしね。義理のある研究会とかもありませんし」

「クラスの方の友人とか何かないのか」

「知り合いは何もしない主義者が多いですから」

 例えば木田余は学校から脱走して駅前の本屋で立ち読みしている筈だ。

 本人が合唱コンクールの後そう言っていたから多分間違いない。

 俺も誘われたのだが研究会の発表準備があるという事で断った。

 無論準備なんてなくただここで勉強するだけだ。


「まあ正利がいたのはちょうどよかった。出番だ」

「先輩1人でどうにでもなるでしょう。俺より強いですし」

 勉強の邪魔だ。

「残念ながら私を含め皆さん色々忙しくてな。常に時間がある訳じゃない。それにお祭りごとなんてのは古来怪異も集まりやすいものだったりする訳だ。

 まあお祭りだから大した事のないいたずら程度は大目に見る。だが危険を伴いそうなときは何とかしなくてはならないからな」

 なるほど、言っている事は理にかなっている。

 でも俺は勉強に専念したいんだ。


「何をするんですか」

「主に見回りだ。見回っているぞと周知させておけば大抵の怪異もそうヤバい事はしない。それでもヤバそうなのがいたら払うなり倒すなりするんだがな」

「それなら先輩1人でも何とかなりますよね」

「1人でうろうろしているとボッチみたいに思われるからな。だから諦めて付き合え。断るなら魔法で操ってもいいがな」

 それは流石に勘弁して貰いたい。

 でも俺は更に抵抗する。


「でも先輩と2人じゃ愛梨に怒られそうで」

「愛梨には先ほど事前許可をとった。『そんな用件なら仕方ないですね』との事だ」

 そこまで手を回されては仕方ない。

 俺はいやいやながら教科書を閉じ、席を立つ。

「1周程度だけですよ」

「安心しろ。愛梨と交代してやるから」

「俺と愛梨を交代するという意味ですよね」

「2人で回れと言う事だ。何なら透子もつけてやっていい。桜は明日明後日と安浦先輩が来るからその時に見て回ってもらう予定だ」


「何か予定とか当番とかあるんですか」

 そもそも学園祭の見回りそのものが初耳だ。

「実は無い。本当は何もする気は無かったんだがな。思ったより色々怪異が出ているようだから急遽仕方なく見回ることにした。ただ今日は皆忙しそうで捕まらなくてな。そんな訳で暇そうな正利君を誘った訳だ。明日は安浦先輩が来るというから桜と見回ってもらう予定だ。日曜は私達はショーがあるから基本的に先生が面倒を見てくれることになっている」

 なるほど。

 一応色々理屈は通っている。

 仕方ないな。

 準備室を出て鍵を閉める。


「どんな感じで回るんですか」

「今日は一般教室棟中心だな」

 今日は1日目だし平日だからそれほど大したものはやっていない。

 商売禁止だから他校のような模擬店なんてのも無い。

 研究会のパネル発表とか全学級参加の合唱コンクール等が中心だ。

 娯楽物は漫研や文芸部の同人誌配布、雑工作愛好会の段ボール迷路、料理研の試食会くらいだろうか。

 研究発表や作品みたいなパネル展示は基本的に教室を使っている。

 机を片づけたりするのが楽だから。

 だから配布物の課外活動も賑やかな一般教室棟を使うのが普通だ。

 だからこそ静かで勉強も捗ったのだけれど。


 渡り廊下を通って階段のところで最初の怪異発見。

 何だかよくわからないが階段全体にもやがかかっている感じだ。

「これは大丈夫な部類ですか」

「まあそうだな。いわゆるお化け階段という奴だ。階段の段数を数えると上りと下りで段数が変わるという奴だな。こいつそのものの害はその程度だが、これが出ているという事は今年は他の怪異も出易くなっているという事だ。

 取り敢えず上から確認しに行くぞ」


 階段を一気に屋上まで……えっ!

 一瞬屋上の踊り場の先に更に階段が続いているように見えた。

 もう一度見たら無くなっていたけれど。

 ただちょっともやのようなものが残っているようにも見える。

「見回りに来て正解だな。ここにもいたか」

「今の上に続いているように見えた奴ですか」

「ああ。天国への階段Stairway to Heavenという奴でな。間違ってのぼった人は行方不明になるという奴だ。念のため退治しておこう」

 一瞬ガッとフラッシュみたいな閃光が広がったような気がした。

 気が付くともやみたいなものが消えている。


「こんな歴史の新しい私立学校にもいるんですね」

「一般社会に住みにくくなった分、学校とか出易い場所に増えている訳だ。しかも今日は祭りだからな」

 なるほど。

「さて、次は屋上だな。あそこも色々と怪異が多い場所だ」



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