第65話 文化祭前に
切って貼って組み立てて色を塗って。
大道具小道具の類は文化祭前に余裕をもって完成した。
まあ大道具は俺が入る箱と俺が貼り付けになる箱2個ずつ。
小道具はロウソクとロウソクを立てる台と手錠2つだけだけれど。
後は黒い遮光カーテンを3組、それぞれ化学実験室と物理実験室から外すだけだ。
俺自身としてはしたくないが宣伝というか告知もした。
愛梨が可愛い絵のポスターを描いて準備室のカラープリンタで量産し、そこここの掲示板へと貼り付け。
生徒会のパンフ用の原稿を提出したし小ホールの時間も決定した。
衣装合わせもした。
残念ながらサイズはOKで衣装変更にはならなかった。
ただ安物だけあって衣装のつくりや布地はちゃちかったけれど。
一着千円程度だから仕方ない。
シナリオも出来たし役も決まった。
俺が基本的に犠牲者的アシスタント担当。
愛梨が術者兼アシスタントその1で、蝋燭の列に魔法で火をつけたり有明透子が斬った箱を集めた後布をかけて魔法をかけて復活させる役。
川口先輩と桜さんがアシスタント2と3担当で、蝋燭を並べたり俺を板に張り付けたり箱に閉じ込めたりバラバラになった箱を集めたりするサポート役。
大和先輩がナイフ投げならぬボールペン投げの担当。
有明透子が俺の入った箱を滅多切りして中に誰もいない事を見せる役だ。
音楽も最初は『オリーブの首飾り』を流しっぱなしにする予定だった。
でも当日音楽を流す担当をお願いした翠先輩が、
「それじゃ美しくないですわ」
という事でわざわざ自分でピアノを演奏して効果音を作成してきた。
しかもシーン毎ににテーマ曲があって切り替えて流すそうである。
流石に曲そのものはオリジナルでは無く一応既成の曲らしい。
ちょっとテンポは速いがなかなかいい感じの曲だ。
ただその曲が何の曲だかは教えてくれなかったけれど。
舞台上での動きとかも話し合って、曲を流しながら何度かリハーサルもしてみた。
「これで後は実際にやるだけだよね」
「でも何度か動きの練習はしておきましょう」
「私は結構動きがあるんだよね。心配だなあ」
「いざとなったらアドリブで大丈夫よ」
そんな感じであとは基本的に本番を待つのみの状態。
ちなみにクラスの方はと言えば……
「木田余は文化祭、何かやるのか?」
「クラス参加の合唱以外は見て回るだけだな」
この学校の文化祭は模擬店等は禁止。
だからクラス単位で参加が強制されている合唱以外は特に参加するものはないという生徒も多い。
俺もそうだったら勉強時間がかなり確保できたのに。
そう思うと非常に残念である。
「それよりお前のところ、魔術ショーやるんだってな。有明さんや愛梨ちゃんはどんな役なんだ。服装はやっぱりバニーなのか」
おいおいおい。
「バニーガール姿で許可なんか出る訳ないだろう」
「何ならスクール水着でもいいぞ。授業で着ている奴もいいが旧スタイルの紺一色のスタンダードなのも捨てがたい。でも本当は逆バニーなんて最高なんだが」
「完全にアウトだ」
何を考えているんだ
「ポスターには絶世の美女が的にされ閉じ込められ切り刻まれるとあるが、その美女役は誰なんだ。やっぱり有明さんか。それとも女子の先輩なのか他に隠し玉がいるのか。もしその美女役が有明さんで無いなら彼氏はどうなんだ今はフリーなのかフリーなら好みのタイプはどんななんだ。吐け! 吐くんだジョー!」
その美女役本人としては色々勘弁してほしい。
「期待しなくていいぞ。あと見に来なくてもいい」
「有明さんに見に行くと約束したからな。2回とも見に行くぞ」
「大したショーじゃない。だから期待するな」
「お前以外は全員女子なんだろ。見に行かないでどうする。何なら裏方を手伝ってもいいぞ。そして誰か女子と仲良くなって……」
「残念ながら足りているから心配するな」
何だかな
成績と趣向や台詞が一致していない実例だ。
こういうのが紙一重というのだろうか。
いずれにせよ色々と憂鬱である。
早く文化祭、終わって欲しい。
何なら来る前に終わってもいい位だ。
他にもちょっとしたイベントがあった。
夏休みに注文した戦闘服等がやっと届いたのだ。
自宅に届くと親に説明するのが面倒なので学校配達。
俺や愛梨、桜さんはまあ想定通りかつ無難な黒戦闘服上下。
「案外着やすいし動きやすいよね」
「ポケットにナイフも仕込めますしちょうどいいです」
俺の方も文句はない。
あとは剣を収納できるポケットをベルトに増設すればいいだろう。
食料や他荷物等を入れる大型収納ポケットを装備すれば万全だ。
だが1人依頼を放っている奴がいる。
「ほぼ予想通りね。革鎧より軽くて着装しやすいしいい感じ」
本人はそういうけれど周囲は評価しづらくて困っている。
見た限り愛梨の家で選んだものに更に変更が加わっている模様。
どうやらあの後自宅でもカスタマイズしたらしい。
黒い硬質プラスチック製の胸部が微妙に強調されたボディプロテクター。
同じく黒い硬質プラスチック製の肘から手首までのプロテクター。
膝も同様の黒色プロテクターだ。
外側黒、内側が青紫色のマントの上にやや大型の肩ガードにがつく。
そこまでで充分おかしい。
でも問題はその下に着用しているのが水着風ハイレグ衣装である点だ。
何故にそうなる!
「何というか独自路線だな透子は」
あの大和先輩すらそれ以上何も言えない模様。
「透子さんそれで防護は大丈夫なんですか?」
桜さんがごく真面目にそう尋ねる。
「上半身がハードシェルだとやっぱり気分的に安心よね。このボディスーツもケブラー繊維混紡でそこそこ強度があるしマントもケブラー繊維で防刃防熱だし。
それに革鎧と比べて圧倒的に軽くて丈夫なのがいいよね。剣も自在に振るえるしマント裏に空間拡張型収納がいくつかあるから色々物も入るし」
いやハイレグの下半身はどうなんだと言いたいが何も言えない。
まあ本人が便利で使いやすい戦闘服だと思っていればそれでいいのだろう。
それ以上は追及する必要は無いしするべきではない。
多分皆さんそう思った模様だ。
敢えてそれ以上の追及をする者はいなかった。
何はともあれ文化祭を迎える準備はほぼ完了。
しかし実は文化祭の後に文化祭以上に大事な行事が待っている。
文化祭一週間後の業者テストとその翌日からの中間テストだ。
中間テストは順位が張り出されるし業者テストは全国での順位がわかる。
打倒木田余は無理としても今度こそ有明透子に勝ちたい。
そんな訳で勉学にも一段と力が入る。
今度こそと思いつつも特に苦手な英語を中心にちまちま単語やイディオムを暗記したり続ける。
何せ英語は前回愛梨にも負けたしな。
なお有明透子も俺が見る限り愛梨も特に勉強をしているような様子はない。
だからここで宣言しよう。
今度こそ有明透子に勝つ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます