第64話 文化祭準備中

 文化祭は2か月後の、1月初めの3日間。

 魔術マジックショーに向けての準備は着々と進んでいる。

 予算は学校から課外活動の年間活動費として交付されている3万円。

 でも合宿時の補助費用等に使いたいから出来るだけ節約してくれと都和先生には言われている。


「衣装は来週着くんだよね」

「思ったより安く済んだな」

「特価の品で揃えましたからね」

 衣装コスチュームはネットで発注した。

 特価品で揃えた結果、

  〇 大和先輩と有明透子が黒系柄ありチャイナ服

  〇 川口先輩と桜さんと愛梨はメイド服

  〇 俺が赤チャイナ服

に決定。

 なおチャイナ服とメイド服にわかれたのは特価品の在庫とサイズの関係である。

 俺だけ赤チャイナ服なのは『犠牲者が目立つように』だそうだ。

 当初案のブルマー姿よりはましだけれど何だかなあ。

 なお他には俺用にウィッグと胸パットも注文済み。

 んなものいらないと思ったのだがそこは何故か皆さんこだわった。


「残念だな。正利のブルマー姿も見たかったんだが」

「チャイナドレスでも充分怪しいですよ」

「メイド服可愛いければ他の機会にも使えるかな」

「特価品だからきっと布地がちゃちくてそんな回数着れないな。正利と夜の営みのムード上げに使ったら1回持たないだろう」

「でもそれも美味しそう……じゅるり」

「先輩に透子さん何を考えているんです!」


「でも桜も夏休み安浦先輩とあったんでしょ。その時に色々と……」

「残念ながら未だ妹扱いなんです。もう少し進むかと思ったんですけれど」

「でも先輩の下宿にもお邪魔したんでしょ」

「ええ。でも夕方6時に短絡路経由で家に送られてしまいました」

 なんてのが衣装コスチューム決定の際の話し合いの内容である。


 舞台装置は基本的に簡素かつ最小限にした。

 1時間で設営と実演と搬出をしなければならないし予算も節約したい。

 材料は基本的には合板とスタイロフォームと模造紙。

 わざわざ先生が安いホームセンターへ出向いてまとめて購入してきてくれた。

 大道具は

  〇 ボールペン投げの際に俺が貼り付けになる壁

  〇 俺を閉じ込めた後有明透子に斬られる棺桶と言うか箱

がそれぞれ公演毎に必要なので2個ずつ。

 あとは長机に黒色遮光カーテンを被せてろうそくを並べる位だ。

 このロウソク台も一応小道具だな。


 道具の設計は川口先輩が中心になった。

 どうもこの手の工作とか小物とかそういった物事が好きらしい。


「この箱、軽くて細長いから下を何かで固定しないと斬りにくいと思う。搬入の都合があるから舞台の上に置いた後に何かで下に固定できるようにしておかないと」

 早速有明透子からそんな意見が出る。

 確かに斬っている最中に動いたり倒れたりしたら危険だよな。

 中に入っている俺が。


「下は大型台車とクランプで固定。大型台車はこの部屋のを使う事を都和先生了解済み。観客に確認させる際、回したり動かしたりして確認させるのも簡単。箱はスタイロフォームにベニヤ板貼って強化」

「ベニヤ板で補強すると剣で斬る際に斬りにくくならないかな」

「アルネセイザーで斬る分には問題ないわ。鉄フレームでも問題ない位」

 おいおい聖剣を使うのかよ。

 下手すればコウモリ状態の俺もお陀仏だぞ。


「斬っている際に俺が隠れられるような安全地帯が無いと怖いな」

「箱を少しだけ上げ底にする。上げ底なのは奥の部分だけで上を薄いスタイロフォームで隠す。正利が入って蓋を閉められた後、ここを踏み抜いて場所を確保する。あとは変身してここに縮こまるだけ」

 ささっと図を描いて説明してくれる。

 確かにこれなら少しだけ安心かな。


「外側は木箱だが中はスタイロフォームそのまま。明るい色で種も仕掛けもない事が良く見える。隠れ場所は斬りまくった際のどさくさで誤魔化す方針」

 なるほど。

 色々考えている。


「これから設計図を描く。逃げ場の大きさを図りたいから正利、変身」

「わかりました。ちょっと隣の部屋で変身して来ます」

 以前の失敗から着替えの場所を確保しておく。

 隣の部屋のカーテンの陰でささっと変身。

 ぱたぱたとコウモリ姿で飛行して川口先輩の前へ。

「翼を縮めて。サイズを測る」

 あ、この姿で触れられると変な気分になる。

 どう見えているかとか皆さん気付いているかは別として、俺は全裸なのだ。

 だからこの状態で先輩女子に触られていると思うと……

 これはいけない。

 この感触で俺がおかしくなりそうだ。


「コウモリってこうやって見ると可愛いよね。ダーリンだからって訳じゃなくて」

「空飛ぶネズミだよな。見かけ上は」

「毛並みも結構綺麗ですよね」

 こらあまり皆さん注目するな。

 恥ずかしいだろ。

 撫でるな愛梨に桜さん。

 ああ、やばいかも……


「測定完了」

 川口先輩の台詞ではっとする。

 このままではやばい。

 脱出しなければ。

 ゆっくり翼を広げて愛梨や桜さんの手を逃れそのままバタバタと脱出。

 扉の向こうで変身解除して服を着てちょっと一息つく。

 危ない処だった。

 コウモリ状態で撫でられるのがあんなに気持ちいいとは。

 必要ない時にはこの姿に変身しないようにしよう。

 特に皆さんの前では。


「設計図完成」

 川口先輩の台詞が聞こえた。

 取り敢えず深呼吸をして、気持ちを落ち着けてから部屋に戻る。

 

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