第61話 バイト代の末路
19日月曜日朝10時過ぎ。
心ならずも今まで遊びまくった分、がっつり勉強に専念する筈だった。
だのに何故、ここでこうしているのだろう。
俺の横では桜さんと愛梨と有明透子、それにアドバイザーと称した大和先輩と川口先輩がノートパソコンを囲んでいる。
「やっぱり戦闘服は基本シンプルな黒上下がお勧めだな。肘や膝にパッドが入っている方がいいか入っていない方がいいかは好みだ。私は無しで、香織は両方あり。ポケットが数必要ならタクティカルベストを着ればいい。モールシステムがついているから好みのポケットとかつけ放題だ」
なるほど。
本日はバイト代をどう使うか、装備を揃えるなら何をまず購入しようか。
そんな目的で半ば強制参加で集まっている。
ちなみに実施場所は愛梨の家。
アップライトのピアノが片隅にあり、ソファーセットとテーブルがあるといういかにもな広いリビングだ。
「家族誰もいないから皆集まっても平気だよ。パソコンも光回線きているし」
との事で本日はここで集合して開催という訳だ。
この家に元々あるパソコンは愛梨が普段使っている1台。
だが有明透子が自分のタブレットパソコンを持ち込んできた。
なおそのタブレットは愛梨宅の無線LANに接続して有明透子が独自の視点で装備を探すのに試用している。
「うーん、やっぱり革鎧は高いわね。鎖帷子だと重いしやっぱり高いし」
「鎧とか特殊な服装だと
「そういう意味では迷彩柄じゃなくて黒一色の方がいいんですね」
「青とか紺とか一般的な色でもいいけれどな。普段着で迷彩柄なんて着ている奴も希にいるだろ。迷彩柄を選ぶとそっち系の趣味の人かと思われてしまう」
なるほど。
「となるとお勧めはこの辺の戦闘服でしょうか」
「ああ。ただポケット有り無し、防刃素材か否か、対炎処理の有無、パットはありかなしか後付けで入れるポケットがあるか。そんな感じで色々オプションがある訳だ。
あと透子、鎧が高いならプロテクター系はどうだ。あれなら少しは鎧に近いかもしれない」
有明透子がタブレットを操作している。
「プロテクターね、了解。うーん、確かに大分近づいた感じ。値段も大分ましになったし。ただ一枚整形じゃないと受け流しが使えないかなあ」
「ならフルアーマードジャケットで検索してみるか」
その凶悪な響きにちょっと好奇心をそそられ、俺も背後からのぞいてみる。
何か核戦争後の世紀末に乱暴者が着用しそうなものが色々出てきた。
「あ、確かにこれが一番近いかも。ソフトシェルだけだとどうしても気分的に安心出来ないから中にプレート入っているの嬉しい。表面につなぎ目が無いから受け流しも使えるし」
何と言うか……少しはましな世紀末と言うべきか。
肩パット、肘パット部分がこれみよがしに変形している凶悪なデザインだ。
流石に鉄の鋲とかトゲトゲとかはついていないけれど。
「ねえダーリン、ダーリンはどんなのにする? 私とお揃いにする?」
お揃いと言っても戦闘服ではムードも何も無いだろう。
そう思いつつ愛梨のパソコンの方へ。
「愛梨は決まったのか?」
「基本路線は戦闘服のパッドなし防炎防刃タイプかなあ。私は武器は特に必要無いし。あと色をどうするか今考え中。必ずしも黒でなくてもいいみたいだし。マウンテンパーカー風に着るならちょい色付きでもいいかなって」
こういう場合は経験者に相談だ。
「先輩達は何故黒にしたんですか」
「何処でも無難だからだな。墓場とか寺とか霊場とかへ行く時にあまり派手だとまずいだろ。まあそのたびに着替えるというのも手ではあるし、実際翠先輩は現場か現場至近で着替える派だしな。あとオプションの色は黒かカーキ、濃緑が標準だからな。そういう意味で一番無難な黒にした」
確かに翠先輩のあの戦闘服はありとあらゆる場所で場違いだろう。
「なら上をピンクに、下を黒するのはどうかな」
「戦闘服スタイルにしたときに、ズボンの上がいきなりピンクで面白い絵になるな。それが嫌なら戦闘服は上下同じ色にしておけ」
「なるほど」
となるとどうするかだ。
無難なのは黒か濃緑。
つまり先生達の戦闘服か先輩達の戦闘服かだ。
あととりあえず有明透子は放っておこう。
何やら怪しい世紀末ファッションにカスタムをはじめたようだから。
「オプションの色に合わせると黒かカーキ、濃緑だね」
「でもオプションって使うかな」
「なかなか便利なオプションもあるぞ。例えばこれだ」
大和先輩が別のタブを開きちょいちょいと操作する。
「こればあればザックがいらない。モールシステムにこれをつけるだけで荷物も全て持ち運べる。まあ最大サイズは高いけれどな」
一見ちょっと幅広のポケット。
だが『霊的別空間技術を応用した収納庫ポケット。大サイズは武器庫としても使用可能』と説明がある。
ポケットの大きさは同じだが内容量が10
、30
「凶悪な値段ですね」
「でも10
確かに。
「四次元ポケ●トみたいなものですね」
「値段で容量が変わるところがせちがらいけれどな。ちなみに戦闘服のポケットにも収納庫ポケットをオプションでつけることも出来るぞ。ちょい高くなるけれどな」
「私はそうしている。ナイフもカードも包丁も入っている」
なるほどな。
「ならやっぱり黒でいいかな。色々無難だし」
「そうですね」
「俺もそうするか」
結局俺、愛梨、桜さんの3人は無難路線、黒色戦闘服にまとまる。
愛梨がパットなしポケット胸2個のみで。
桜さんが肩、肘、膝パッド入りポケット4箇所。
俺が肘、膝パッド入りポケット胸2個バージョンだ。
なお全員防刃対炎仕様。
一番安い愛梨の仕様で3万円台半ば。
一番高い桜さん仕様で4万5千。
俺のが4万円いかないかな位だ。
「あと私は魔法杖が欲しいかな」
「私も自分用のナイフが欲しいですが買えるでしょうか」
俺は左腕用のアーマープレートを追加したいかな。
以前借りていたバックラーの代わりに。
他に手袋とかもあるけれど、今回は武器まで含めて全部は買えないだろうな。
少しは参考書や問題集代に回したいし。
そういえば有明透子はどうなっただろう。
ちょっと移動してタブレットの方を覗き込んでみる。
全然他の3人と格好が違った。
上半身を肩までガードする黒色のプロテクター。
更にその上から表が黒色、裏が青紫色の防刃対炎マントを羽織る形だ。
いや、袖があるからマントじゃなくてロングケープか。
フードもついているけれど。
何だか非常に怪しい格好だ。
中世の邪悪な冒険者というか闇の戦闘司祭というか。
少なくとも現代のセンスでは無い。
うん、見なかったことにしよう。
俺は自分の装備についてだけ考える異にした。
さあ、片手用の剣は買えるかな。
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