第60話 夏のアルバイト終了

 休憩の後は迷宮ダンジョンの脇道確認だ。

 一度車の処に戻って、最初に入ったところから迷宮ダンジョンへと入る。

「もう大物はいないようなのでパーティを2つに分けます。私と川口さんと高津さんと有明さん、この4人でメインの通路から見て北西側を、並木さんと大和さんと殿里さんと真鍋君で南東側を確認して下さい。片側が終わりましたらメイン通路の終点から反対側の確認をお願いします。おそらく1時間かからないと思いますが、午後2時5分近くになったら一度近くの出口から外へ出て下さい」

「わかりました」

 3番の分岐点で先生達と別れる。


「隊列ですが先頭は愛梨さんと正利君の2人固定で行きましょう。私を含む正利君以外の皆さんは能力に使用回数制限がありますから、基本的に正利君のエナジードレインで全部倒す形で。それで危険な怪異が出た場合は大和さん、お願いしますわ。愛梨さんは正利君の見逃し等が無いように確認していただく方向で」

「わかりました」

 翠先輩の指示で隊列を変更する。

 確かに普通の魔法は使用回数に魔力の制限があるからな。

 俺のエナジードレインは能力だから意識がある限り使えるし。


 そんな訳で見つけ次第エナジードレインという感じで進んでいく。

 出てくるのは小物、主にカエルの化物ばかりだ。

 何回か倒した後、分岐に出た。

 緑先輩が51番という番号杭を打ち込む。

「ここは右に行きましょう。どうせすぐ行き止まりだと思いますから」

 言ってみると言葉通り1分も行かないうちに行き止まりだった。

 戻りながら翠先輩に尋ねる。

「こうやって脇道を調べている場合のセオリーというのはありますか」


「特に無いですわ。私は外周を調べたいので普通は右手法とか左手法、今回ですと右手法で行きますけれど。ただ迷宮ダンジョンが充分に大きくて1日で調べきれないような場合は中心通路から近い方優先で調べる場合もあります。その方が翌日の探索が行いやすいですし、途中で探索を中断したままになっても作った地図が後々まで役に立つことが多いですから。中心から遠い場所はどうしても変化しやすいので」

 なるほど。

 特に決まりはないけれど、その時その時で後にやりやすい方法でやるって訳か。


「でもこうやって完全新規の迷宮ダンジョンに潜る機会なんての、1年に1回あるかどうかだけれどな」

 確かに大和先輩の言う通りだな。

 川口先輩も2回目とか言っていたし。

 戻って分岐を今度は左へ。

 どうもこの分岐は先程までのメインと平行に進んでいるようだ。

 そんな方向へ歩いていると今度は十字路があった。


「これも右からですね」

「それでお願いしますわ」

 これも少し行くと行き止まり。

 戻ってさっきの通路を右、つまり元々から見て直進方向へ。

 メインの通路より怪異が少ないが脇道分を考えると同じ位の速度かな。

 でもそれなら2時間近くかかるよな。

 そう思いつつ進んでいく。

 基本的に通路は右側に行き止まりの分岐があるか十字路。

 それが延々と続く感じだ。


「メインに平行にずっと続いている感じですね」

「霊園の通路があるだろ。多分あの通路とほぼ同じように走っているんだと思うぞ。人が通る道筋に近い部分にこういった道が出来やすいからな」

 なるほど。

 そう言えば霊園の地図には北東から南西に向けて平行に2本メインの太い歩道があったなと思い出す。

 ほぼそれに対応するようにこっちの迷宮ダンジョンも出来ている訳か。

 ならば先生達の方は行き止まりの分岐ばかりだよな、きっと。

 もし先輩の考えが当たっているならば。

 なら向こうはかなり先にメインの終わりまで達して戻ってくる筈だ。

 確かにそう考えれば広さ的に1時間あれば充分確認が終わるだろう。


 そんな訳で右へ行って行き止まり、戻って進むを繰り返す。

 出てくる怪異はほぼカエルのみ。

 いい加減飽きてきたなと思った頃だ。

 スマホがピローンと通知音を均した。

「まもなく先生達と合流ですわ」

 なるほど、他の班と通信出来たという通知音か。


 ほどなく何度目かの分岐に先生達が現れる。

 向こうの先頭は桜さんと川口先輩という格闘戦型だ。

「この向こう側は終わりましたわ。北西側は行き止まりで短い通路ばかりでした」

 地図に今までなかった部分が表示される。


「あとはメインとこの通路を結んでいると思われる6本だけですわ」

「でしたら並木さん達はこの通路を戻る方向、私達はメインの通路から残りの分岐を確認しましょう。お互い通路で出会う可能性が高いので射程と威力が大きい魔法は使わない方針で。

 最初の入口付近まで行ったあたりでちょうど連絡の時間になると思います」

「了解ですわ」

 そんな訳で俺達は今の通路を戻っていく。

 さっき怪異を退治したばかりなので何もいない分、進むのが速い。

 通路6本もメインとこの道を結ぶせいぜい50メートルクラスのものだけ。

 なので結構あっさりと終わって3番の分岐に辿り着く。

 先生たちともちょうど合流できた。


「あと5分で連絡時間ですのでこのまま車の処まで戻りましょう。あとは土子園どこぞの高校の進み具合次第ですけれど、向こうもおそらく終わり近いと思います」

 まっすぐ進んで車の影にある出口に出た。

 程なくスマホから通知音が流れ、地図の新しい部分とともにメッセージが入る。

「残り10分程度の見込みなので待っていて下さい」

「一度迷宮ダンジョンの中に戻りますか」

 何せ外は暑い。

 8月の太陽が猛然と照りつけている。


「座る場所が無いですから車で待っていた方がいいと思いますわ。私は一足先に学校に戻っておりますから」

「そうですね。それでは並木さんには先にこれを渡しておきます。いつも通り名前を書いておいて下さい」

「わかりました」

 翠先輩はスマホを操作してソフトを終了させた後、ふっと消える。

 あの能力は羨ましいよな。

 本当に任意で世界中移動出来るらしいから。

 短絡路はある程度歩く必要があるし、場合によっては何かが出る可能性もある。


「それでは並木さん以外は車の中で待ちましょう。大和さんお願いします」

「了解です」

 魔法を使った気配。

 何かと思えば車の中がひんやりしている。

 確かに夏の日中に停めたままの車は普通すぐ乗り込むことは出来ないよな。

 この辺は魔法様々だ。

 車で休んでいると案外すぐに土子園どこぞの高校の皆さんが出てくる。

 向こうも同じように魔法か何かで車の温度を下げ、全員乗り込む。

 先生だけがこっちの車の横に来た。

「それではこれで終了したいと思います。本日はお疲れ様でした」

「お疲れ様でした」

 挨拶をして、そしてすぐ車は発進。

 いつも通り短絡路経由で学校の裏へ。


「最後にいつもの準備室で領収書の受取人欄を書いていただきます。それが終わったら引き換えできょうのアルバイト代をお渡しして、夏のアルバイトは終了です。皆様お疲れ様でした」

 こんな感じで実質半日を2回で6万円の収入という、なかなか率のいいアルバイトは終了したのだった。

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