第57話 現場到着

「さて、それじゃ着替えるか」

との事で俺は例によってささっと隣の部屋へ。

 体操服ジャージ下とTシャツに着替える。


「着替え終わったよ」

 服装は1年生は全員俺と同じくジャージ下とTシャツ。

 2年生2人は黒い戦闘服のズボンとTシャツ。

 先生は緑色の同じく戦闘服ズボンとTシャツ。

 そして翠先輩はフリフリのブラウスの上に灰色のジャンパースカートだ。

 リボンとかもついていてクラシックなデザインというか何と言うか……


「翠先輩の服、可愛いですね」

 桜さんは相変わらず色々ポジティブだなと思う。

「これも戦闘服なのですわ。今日は新規の迷宮ダンジョンですので念の為これを着てきましたの。現場では更にこの上にこのコートを羽織りますわ」

 同じく灰色のクラシックなケープ付きコートを広げて見せてくれる。

 クラシックというかゴシックというか……

 少なくとも現代のデザインで無いことは確かという奴だ。


「こういった戦闘服もあるの?」

「属性にあわせて色々と揃っていますしオーダーも出来ますわ。格好が自分にあっている方が能力を引き出せるという事もあるのです。もっとも今では撫子さん達のように実用本位な戦闘服の方が主流ですけれど」

「並木さんのような特殊仕様の戦闘服は値段も高くなります。だから最初は基本の戦闘服で揃えて、後に自分に合った特殊仕様を買い足したりするのがお勧めですね」

「ただ今日一緒に仕事をする土子園どこぞの高校の小松や富士崎は最初から特殊仕様だけれどな」

「あの2人は色々特殊」

 先輩達と先生がそれぞれ説明してくれる。


「参考までに土子園どこぞのの先輩達ってどんな服なの?」

「それは見てのお楽しみですわ」

 うーん怪しい。

「あと上着も一応持って行けよ。どうせ中は涼しいから」

 大和先輩の台詞でそう言えば聞こうと思っていた疑問を思い出す。

迷宮ダンジョン内ってだいたいあんな感じで涼しいんですか」

 気になったので聞いてみる。

「普通はそうだな。特殊な場所だと常に氷点下とか40度以上なんてのもあるらしいけれどさ」

「普通は大体15度前後ですわ」

「試験の迷宮ダンジョンはやや低め。昨日の場所が普通」

 なるほど。


「あと昨日は皆私服だったのに今日は戦闘服なんですね」

「昨日みたいに整備されている迷宮ダンジョンではないですからね。汚れる可能性もありますし、万が一という事もあります」

「でも翠先輩のその戦闘服汚れたら大変そうですよね」

「私のこの服は魔法効果で汚れないようになっているのですわ。その分魔力を使いますけれど元々が魔法生物的な存在で常に魔力を放出しているので問題無いですわ」

 なるほど。


「それではそろそろ行きましょうか。車は7人乗りなのですみません、並木さんは頃合いを見て合流して下さいね」

「わかりました。それまでここで待機していますわ」

 俺達は部屋を出る。

 今日はまだ夏休み期間なので先生の車は専門教室棟裏に横付けしてあった。

 つまり階段を降りてすぐの場所だ。

 先生のランクルは7人詰め込んだ状態で発車。

 でもすぐに短絡路に入り、すぐに抜け何処かに到着。

 見ると砂利敷きの駐車スペースだ。

 先生は何かを探すかのようにちょっと車を旋回させてから停める。


「今日の現場はここになります。土子園どこぞの高校が来るまでもう少し車の中で待ちましょう。外は暑いですから」

 先生はそう言ってタブレットパソコンを出して操作する。

 俺も自分のスマホを出して入れたばかりのソフトを確認。

 画面にこの辺りの地図が表示されている。

『探索用親端末と接続しました』

 正常に作動しているようだ。


 ちょっと気配が動いた気がして顔を上げる。 

 駐車スペース内にもう1台、銀色のハイエース4WDが出現した。

 その車もゆっくり駐車スペース内を回って、この車の後方にちょうど直角になるような形で停める。


「それでは行きましょう」

 車を降りるとむっと暑さが押し寄せて来た。

 これはたまらない。

「挨拶は中に入ってからにしましょう」

 妙な車の停めかたをした理由は降りるとすぐにわかった。

 2台で入口を隠すようにしていたのだ。

 ちらちらと見えている入口からすぐに中へと入る。

 中はこの前と同じような迷宮ダンジョンだ。

 ただ昨日や試験の時の迷宮ダンジョンと比べると微妙に荒れている感じだ。

 下が平ではなく多少凸凹していたり、天井高や通路幅が所々一定じゃなかったり。

 ただ涼しいのはありがたい。

 視界の端で翠先輩がどこからともなく現れ、地点番号杭を地面に押し込む。


「さて、ここまちょっと混むからこっちへ」

 5メートルほど出入口から離れて待つ。

 すぐに若い大人女性とともに知らない生徒風が5人入って来た。

 これが土子園どこぞの高校の皆さんだろう。

 生徒は女子2人と男子2人だ。

 女子は1人は大和先輩と同様の黒い戦闘服、1人は体操ジャージ。

 先生は津和先生と同様の緑色戦闘服姿だ。

 だが男子2人は1人は剣道の道着、1人は白衣。

 これがきっと先輩達が言っていた小松先輩と富士崎先輩だな。

 確かに独自スタイルだこれは。

「先輩、暗視魔法御願いします」

「はいはい」

 道着の男子に応えて背の高い女子が魔法を発動する。


 むこうの教師風がこっちを向いた。

「1年生は初顔合わせだから自己紹介しましょう。私は天川、土子園どこぞの高校の文化史研究部の顧問で授業は社会科関係、主に地理を担当しています。

 あとは板谷さんから順に学年と名前、種別の自己紹介ね」

「3年で部長の板谷です。神道系の術士です。よろしくお願いします」

 背の高い女子が最初に挨拶する。

「2年の小松、剣士です。よろしくお願いします」

 これは剣道着に帯刀している細マッチョ系男子。

「同じく2年の富士崎、錬金術師とでも言えばいいのかな。よろしくお願いします」

 これは細身の白衣を着た男子だ。

 そして最後はやや小柄な体操服姿の女子。

「1年の宍塚です。猫又です。よろしくお願いします」

 続いてこっちも自己紹介。

 なおいつの間にか翠先輩が合流していた。


「それでは今日はこちらがメインですので先行しましょう。天川先生、次の分岐まで後衛をお願いします。うちは2列で先頭が私と並木さん、次が大和さんと川口さん、次が真鍋君と殿里さん、最後が有明さんと高津さんで」

 つまりほぼ学年順だな。

 なお土子園どこぞの高校の方も列順を指定している。

「それでは津和先生お願いします」

「では探索を開始しますね」

 ゆっくりと歩き始めた。

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