第8章 新規|迷宮《ダンジョン》の攻略

第56話 新規|迷宮《ダンジョン》の攻略法

 翌日の集合は朝8時に第一化学準備室。

 今回は色々新規でやる事が多いから事前説明があるそうだ。

 学校内に入るのでスラックスにポロシャツの夏制服で登校する。


 8時ちょうど。

 廊下側にホワイトボードを出して先生が説明を開始した。

「今日は完全新規の迷宮ダンジョンで地図も作る予定です。それで2年生以上の方にはおさらいになりますが、新規迷宮ダンジョンを探索する標準的な手法について説明します。

 まず探索にはこれらの道具を使用します」

 大机の上には、

  ○ 黒色のプラスチック製境界杭

   (長さ40センチ、本体が黒色で上面が赤色、赤色部分に黒字で番号記載)

  ○ 小型のディパック

  ○ タブレットパソコン(12インチ大、アンドロイド)

が置かれている。


「まず|このタブレットパソコンを起動します。この中には迷宮探索専用のソフトが入っています。ソフトを起動して入口に入る直前、開始ボタンを押します。そうする事によってGPS信号によって入口の場所が記録されるとともに地図作成モードが開始されます。

 なおこのソフトは他の端末と連動するようになっています。ですのでスマホをお持ちの方は後程ソフトをインストールして下さい。アンドロイド用、iPhone用のソフトが用意されています。数台の端末が連動することによって、より精度の高い地図情報が取得できるようになっています」

 なかなかハイテクな仕組みだなと思う。


「次に迷宮内の入った場所にこの杭を打ち込みます。普通は入口に1番の杭を打ち込みますね。この杭を打ったらこのタブレットでも連動している他の端末でもいいので『地点番号入力』を押して下さい。そこで杭の番号を打ち込めば作成中の地図に反映されます。

 あとは外への出口や分岐があるたびに杭を打ちこんで杭の番号を入力します。

 迷宮ダンジョン内はGPS信号が届かないので慣性、つまり加速度等により方向と距離を測定します。無論誤差が出るので数台の端末で補正する仕組みになっています。

 また地点番号杭にはUHF帯のICチップが埋め込まれていて、番号を打ち忘れた際に警告が出るようになっているとともに、既に打ち込まれた番号杭の近くに来た際には端末に付近地図と地点番号が表示されます。ただスマホはこのICチップに対応していない機種がほとんどなのでこの機能は使えませんけれど。

 この地点番号杭は新規の迷宮ダンジョン捜索を公式に依頼された際、宮内庁から所属組織経由で、このディパックに入った状態で99本送付されてきます。上の荷室に入った状態になっていて、意識せずに取り出せば自動的に一番若い番号から取り出せるようになっています。無論意識すれば途中の番号からも取り出し可能です。

 またこのディパックは上の荷室も下の荷室も特殊収納ケースになっています。上は番号杭専用ですが下は自分の荷物を入れられますよ。なお探索が終わった際は私物を取りだしてこのディパックごと返却する事になっています」

 つまり持って歩いて簡単な操作をするだけで基本的に地図が自動作成される訳か。

 しかも新規の際は消耗品である番号杭が送られてくると。

 かなりハイテクなシステムだ。


「次は分岐や外への出口があった場合の処理です。

 外への出口があった場合は、まず番号杭を打ち込み番号を端末に入力します。次に外に関係者以外がいない事を確認して、連動している端末を持つ1人が外へ出ます。その方はGPS信号を受信して位置を確定した後に戻って来て貰います。これで迷宮ダンジョン内の出口の番号と実際の世界の出口の場所が記録されます。この場合は外へ出た1人が戻ってくるまで探索は一時停止です。ただし人数が充分にいる場合は、迎えの人員を残して先に進む場合もあります」

 つまり端末によって自動的に地図に迷宮ダンジョン内に対応する外の世界の位置も記録されると。


「次は分岐があった場合です。

 まずはやはり番号杭の打ち込みと端末の入力です。

 次ですが、人数が少ない場合は分岐の本道で無さそうな側は基本無視して進みます。まず本道と思われる通路を確定させ、その後に分岐の通路を探索するのがセオリーです。細い通路は割と出来やすいものなので、新規地図作成時には重要視しません。余裕があったら探索という形になります」

 そういえば昨日の迷宮ダンジョンでも新規通路とかあったしな。

 そういう意味では合理的な方法論なのだろう。


「今回はうちと土子園どこぞの高校の2班編成ですので人員にかなり余裕があります。ですので片方の班は最初の分岐で別れて独自に探索を行う事になります。この場合分岐側の班は地点杭は100番からの番号を使います。今回はうちがメインの通路担当、土子園どこぞの高校が分岐側担当になる予定です。

 また迷宮ダンジョン内ではあまり電波の飛びが期待できません。ですので最低1時間に1回は最寄りの出口から外へ出て、情報を同期させる事がに推奨されています。通常は毎時5分から10分までの間、通信をするというのが慣習です。今回もその予定ですね。

 メイン通路班はメイン通路が終わった後は、反対側から分岐する未探索の通路を調べます。片方の班が探索した場所は地点杭か情報の同期で確認します。これで全ての通路を探索するか、探索開始から6時間経過するか早い方の時間で新規迷宮ダンジョン捜索は終了させ外へと出ます。

 最後に探索に参加した全端末を同期させ、データを陰陽寮のデータベースに送信したら一日の探索は終了です」

 なるほど。

 色々自動化された便利なシステムだ。

 まさか迷宮ダンジョンなんて世界にこんな現代ハイテクが使われているとは思わなかった。


「ところで何故6時間なのでしょうか」

 桜さんが尋ねる。

「法律で決まっているんです。『新規未確認の迷宮ダンジョンを調査する場合、基本的には1日の探索時間を6時間以内とすること。なお休憩時間を含むとする』って。例外もありますけれど、その場合は構成員全てが討伐資格1級以上人員4名以上のパーティで行い、事前に陰陽寮に申請することとなっています」

 うーむ。

 そんな法律もある訳か。

 ん、待てよ、ちょっと疑問が。


「それなら討伐試験の、長時間迷宮ダンジョン内にいるとか、2級のように道迷いがあるなんてのはあまり必要じゃない訳ですか」

「あれはあれで必要なんですよ。万が一中で通信機器が故障したり何か異変が起きて迷宮ダンジョンが大幅に変わっていたり。そういう場合でも事故なく帰還できる能力を見ているわけです。3日もあれば大抵救助隊が来ますしね」

「了解」

「なるほどね」

 俺以外も1年生の皆さんは同じ疑問を持ったようだ。

 今の先生の説明にうんうん頷いている。 

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