第55話 アルバイト1日目終了

「今のは真鍋君の能力よね」

 有明透子に言われてしまう。

「ダーリンあまり無茶しないでね」

 愛梨まで。

 どうも皆さん今のに気付いていたようだ。

「いや、愛梨のあの攻撃で効果が無いなら、俺の能力が効くかなと思って。何となく手ごたえもあったから、つい」

「確かに鬼とか生物に近い怪異には正利のエナジードレインの相性はいい。でも無理はするな。他のパーティメンバーを危険にさらしかねない」

 あ、いつの間にか来ていた大和先輩にまで言われてしまった。

 見ると大和先輩、川口先輩の他知らない女子2人の4人パーティが背後にいる。


「気をつけます。ところでいつの間に来たんですか」

「すぐ近くの新しい通路の探索を終えたところだったんだ。そうしたらここで通報ボタンが押されたって聞いたから飛んできた訳だな。ところでここは確か本来の持ち場じゃないよな。朝はかなり遠くに行っていたようだし」

「探索が遅れている場所があって、そこの捜索を追加依頼されたんです」

「なるほど。それじゃ私達は先に事務所に戻るな」

 大和先輩と川口先輩、あと知らない多分先輩2人のグループはそう言って通路を事務所出口方向へ歩いて行った。

「さて、こっちも残りを終わらせましょう」

 残りはこの通路1本、長さ約200メートル。

 しかもほとんどの怪異は愛梨が始末済みだ。


「それじゃ愛梨ちゃん、またお願いね」

「はいはい、それじゃ行くね」

 再び愛梨が歩きながら邪視で確認していく。

 5匹程度まだ気配がある小怪異がいたが邪視であっさり片づけて。

 あっという間に作業は完了した。

「それじゃ戻ろうか。そろそろ他も終わっていると思うし」

「そうですね」

 ここの区画自体は事務所から近い。

 なので5分もしないうちに事務所に戻る。

 今度は結構皆さん戻ってきていた。

 大和先輩達も先生もいる。


「まずは領収書を書いた方がいい」

 川口先輩の助言に従って領収書の受取人欄を作成。

 渡すだけ状態にしておく。

「それにしても今年の1年は攻撃力過多だよな。レイスや鬼なんて普通の3級は倒さないぞ」

「基本的に滅殺型」

「攻撃力なら既に2級以上ですわね。あとは迷宮ダンジョンで経験を積んで色々な怪異とその対処方法に慣れれば」

 先輩3人にそんな事を言われた。


「教師側としては少し心配ですね。なまじ攻撃力が強力で大抵の怪異を倒せきるからこそ、本当に危険な怪異や倒してはいけない怪異等に当たってしまった時に大丈夫か、不安になったりもするんです。並木さんは移動のスペシャリストですし川口さんはそういった存在には絶対近寄らない、大和さんは本来は倒すより逃げたり躱したりするタイプですので比較的安心なのですけれどね」

 なるほど、皆さんどちらかというと戦わない派なのか。

 それにしては皆さん攻撃力が大きい気がするのだけれど。


「明日はこことは違って小規模な場所になります。人員もうちの部員7人と土子園どこぞの高校の4人、それに私と土子園どこぞの高校の天川先生の合計13人だけになります。ですので此処とかなり勝手が違うと思います」

「今度はどんな場所ですか」

「少し田舎の方の市営墓地です。元々は民間資本の公園墓地だった場所になります。ですが十数年前に経営母体が破産して以降しばらく管理が行われていませんでした。一時は樹木葬部分はほぼ雑木林化した状態で、一般墓地の方も雑草が生い茂るままになっていました。

 問題になったので市の方で土地を収用して、新たに市営墓地として整備することになり、今年度から草刈り等の整備が始まりました。ですが霊的管理の方があまりなされていなかったので、この度清掃作業を実施しようという事になった訳です」

 なるほど。


「ここと違い迷宮ダンジョンの地図もありませんので、地図を作る作業も同時進行します。未知の迷宮ダンジョンを探査する経験としては結構役に立つのではないでしょうか。

 ただここより時間も手間も若干かかります。その割にはアルバイト代が変わらなかったりしますけれど、アルバイトの金額は協定で決まっていますのでそれは勘弁してください」

 なるほど。

 でもちょっと疑問がある。


「そういう費用は市の方で出しているんですか」

「こういった霊的清掃事業の場合は助成金が出ます。勿論清掃する対象が何処の所有か営業形態はどうなのかで変わりますけれど。

 例えばここ都営霊園の場合は東京都が5割、国が5割です。市町村立霊園ですと市町村3割、都道府県3割、国4割の負担率ですね。民間の墓地ですと経営母体の態様によって変わります。その辺は宗教法人法施行令や宗教法人法施行規則に定められていますね。施行令や施行規則は存在すら関係者以外に公開されていませんけれど」

「公開されていない法律は無効と言うことで無視されたら」

「霊的に無視できないような状況が起こるだけです」

 なるほど。

 それ以上は何か恐ろしい話になりそうなので突っ込むのはやめておこう。


「さて、皆さんの領収書を集めましょうか。そろそろ終わりの時間ですから」

 先生に受取人欄を記載した領収書を渡す。

 先生は集めた領収書を受け取り、受付へ。

 代わりに小封筒を受け取って戻ってくる。

「それでは今日のアルバイト料です。ただ1年生はこのアルバイト料は明日のアルバイト料とあわせて装備、特に防護装備に使う事をお勧めします。万が一の際でもそれなりに霊的防護されている戦闘服を着用していればかなり被害が抑えられますから。今は高品質のものが助成金で安く買えますしね」

「つまり今私と香織が着ている奴だな。まあ細かい注意点は後で色々言うが」

「でもよく見ると微妙にデザインが違いますね」

「香織は色々道具を使うからオプションのホルスターやポケットが充実しているんだ。逆に私は道具を基本的に使わないから引っかかりそうな部分は最小限だな」

 体型的にもひっかかりが少ないけれどな。

 ふいそう思ってしまいボールペン3本を受け取る羽目になってしまう。

「投擲用ボールペンは常に装備しているんですね」

「これは内ポケットに入るからな」

 そうですか、はい。


 おっと、前の方で動きがあった。

 坂田氏が再び前に出てきたぞ。

「現在時、本霊園の最後の区画の清掃が終了致しました。本日はこれで終了になります。まだアルバイト料を受け取っていない方は代表者または代理の方が受取人記載済みの領収書を持って事務担当のところまでお願い致します。

 本日はどうもありがとうございました」

 おっと、終わったようだ。

 それにしてもこれで3万円とはかなりいいアルバイトよなと思いかけて気づく。

 いやいけない、うちの学校は本来アルバイト禁止。

 そして高校生の本分は勉強だ。

 最近色々あってついそれを忘れがちになる。

 ここは気を付けないといけない。

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