第54話 今度は第13区画

 担当区内の通路を全部確認して戻ってくると一時半過ぎだった。

 事務所で終了を報告した後、お弁当とお茶を貰って休憩する。

 なおお弁当はご飯の量も多めで案外色々入っていて美味しそうだ。

 有明透子には足りないだろうけれど。

 そう思ったら、奴め自分のバッグからタッパーを3個程取り出した。

 足りないというのは想定内らしく追加の肉を持ってきている訳だ。

 いつものタッパーなので中身が鶏ハム2枚と焼豚1塊なのも見える。

「いただきます」

 小声で唱和してお弁当開始。


「結構色々な怪異がいたよね」

「でも全部魔法で片付けてしまったので今一つ手応えがわからないです」

 桜さんは魔法も使えるが基本的には肉体派の模様。

 見かけは小柄で華奢なんだけれど基本的には狼女だしな。


「でも最後の愛梨ちゃんの魔法、凄かったね」

 確かに有明透子の言う通りだ。

 有明透子の絶対オミノ浄化プリフィカと性質は似ている。

 でも威力は数倍以上だった。

「やっぱり媒体があると全然威力が違うみたい。ただ化学反応で強化しやすいのは熱か光か爆発で、他はあまりいいのが無いとも聞いた。あと爆発系の薬品は最近色々うるさいからあまり使わない方がいいとかも」

 確かに危険だよな。

「熱と光だと俺の苦手な分野だよな」

 つまり俺が使うには適さない。

「私が必ずダーリンと一緒にいるから大丈夫」

 いやそれはそれで面倒なのだけれど。


「ところで先輩達はまだ仕事中かな」

「みたいね。ここにいないし」

 現在ここには朝集まったうちの4分の1程度が戻ってきている。

 皆さんお弁当を食べているので、多分うちと同じように食事休憩無しで一気にやった班なのだろう。


 大学生とか先輩達の組はある程度迷宮ダンジョン内に配置されているのだろうか。

 翠先輩を含め姿が見えない。

 先生方も同様だ。

 指示担当が2人、画面を見ながら時々何か能力を使っている模様。

 気配で能力を使っているのはわかるがどんな能力かはわからない。

 まあ指示をするのだから伝達テレパス系の魔法なり能力なりだろうけれど。


「あとは待ち時間だし食べ終わったら書類を書いておこうか」

「そうね。領収書だけだけれど」

 領収書の受取人欄に見本と同じように俺の名前と住所を書く。

 持ってきたはんこを押せば完成。

 そう思ったときだ。


 指示担当2人のうち1人が立ち上がった。

 何か動きがある模様だ。

 中央に立ってこっちを向く。

 俺達の視線も自然にそちらの方へ。

「探索終了した3級の方にお願いします。現在いくつかのブロックで討伐事案が多発しており、このままでは時間までに作業が完了しない場所が出てきそうです。

 そこで申し訳ありませんが、これから何組かお呼びいたしますので通路の確認作業をお願いいたします」

 なるほど、場所によっては大変なところもあったわけか。

 俺たちの担当場所はあの2体を除けば割と簡単だったしな。


「それでは第7班の方」

 いきなり呼ばれた。

 とっくに弁当+αを食べ終え暇そうにしていた有明透子が立ち上がって前へ行く。

「こちらの地図にマーキングした13区画の通路2箇所をお願いいたします。近道になる通路は清掃済みですので、進入禁止を気にせずに通って大丈夫です」

 有明透子が渡された地図を持って戻ってくる。

「ここから割と近い場所よ。お弁当はもう食べ終わっているよね」

 一番遅い俺がちょうどたべ終わったところだ。

「それじゃ片付けていきましょうか」

「そうだね」

 なお俺たち以外も何班か呼ばれている。

 飲みかけのお茶をザックに入れて立ち上がり、ゴミ箱へ空の弁当を捨てて外へ。


 出るとむっとする暑さが襲ってくる。

 でも迷宮ダンジョンに入ってしまえばそこそこ涼しい。

 行きは通らなかった『3級討伐者は通らないでください』通路を通る。

「確かにここ、ちょっと色々気配がするよね」

 片付いているのはわかるのだが、討伐後の残り香みたいな空気が感じられる。

「こういうところは先輩達や先生なんかの仕事なのかな」

「でしょうね。あのレイスより強力な怪異がいたような感じがしますし」

 しかも何箇所も地図にない通路があったりする。

 それらの通路はコーンや看板が中央においてあり『閉鎖予定・通行禁止』なんて書いてある訳だ。

 この辺はやはり色々危険な箇所らしい。


「こういう処の地上部分が怪談とかになりやすいのかな」

「色々怪異がいるから怪談になるのか、怪談になるから怪異が引き寄せられるのか、その辺は微妙よね」

 そんな事を話しながら歩いていくと新たな探索場所の通路に出る。

 ここは俺たちが最初に担当した区画の通路と同じくらいの雰囲気だ。

 つまりそこそこ怪異がいそうで、運が悪ければレイス級も出そうな雰囲気。


「どうする? 一気に片付ける?」

「近くに他の人がいると危ないから進みながら少しずつ片付けた方がいいかな」

「わかった。じゃ基本歩きながら私の邪視で対処するね」

 いつもの隊形、つまり俺と愛梨先頭で歩き始める。

「結構いるね」

 そう言いながら愛梨は見つけつつ片付けている。

 基本的にヘビの怪異とカエルの怪異が多い感じだ。


 一本目の通路を通り抜け、続いてその左に続く通路へ。

 そこで愛梨が立ち止まった。

 理由は俺にも他の2人も多分気づいている。

 大物の気配だ。

 しかもレイスとは明らかに異なる気配。


「透子さん、御札用意しておいて。さっきと同じマグネシウム使うけれど、効かない可能性もあるから」

「了解よ」

 俺も一応技を出す準備をしておく。

「あと一応呼びかけ。そこにいるの、討伐関係者じゃ無いですよね。これから5秒数えて反応がなければ攻撃します。5、4……」

 気配は動かない。

 いや、こっちに向かって動き始めた。

 でも返答は無い。


「0。それじゃ攻撃します。準備室でくすねてきたマグネシウム粉!」

 愛梨が例の塊を投擲して魔法を唱える。

 冗談みたいに激しい閃光と熱の気配。

 俺達は思わず目を瞑る。

 でも敵の気配は消えない。

 多少弱まったが確実に近づいてくる。


「エナジードレイン!」

 俺も今現在の最強魔法を展開。

 更に有明透子が投擲した御札が光を放つ。

 おっ。

 今度は俺の魔法も手応えを感じる。

 御札の威力もあるのかもしれない。

 でも確実に敵の力を吸い取っているのを感じるのだ。


 閃光がおさまった今、敵がはっきり見える。

 俺達よりも一回り程度大きい鬼だ。

 そして明らかに苦しんでいる。

 それは御札の力のせいか、俺の魔法の効果もあるのか。

 奴は俺の方を見る。

 俺も奴をにらみ返す。

 その間は数秒程度だっただろうか。

 そして鬼は砂のように崩れていき、残骸も見る見るうちに消えて行った。


「消えたね」

 愛梨がそう言って周りを見回す。

「完全に退治できたみたいね。生きている気配が感じられない」

 



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