第53話 強力な敵と秘密兵器
ヤバい。
奴と目をあわせるとやられる。
そう感じるがとっさに身体が動かない。
奴はゆっくりと俺の方を振り返ろうとする。
次の瞬間。
パチチチチチチッ!
俺と奴の間に火花が散った。
有明透子がお札を開封して投げたのだ。
黒い影の動きが止まる。
「逃げるよ。今の私達じゃ無理!」
確かにそうだ。
俺も愛梨も通路を戻る。
奴の気配は追いかけてこない。
お札が効果を発揮しているようだ。
通路を曲がる。
奴は追いかけてこない。
ほっと一息つく。
「あとは応援を待つだけね」
「待つほどのことはないですわ」
有明透子の台詞に被さるように聞き覚えのある声がした。
この声は……
ふっと姿を現したのはやはり翠先輩だ。
「いきなり強力なのにあたって運が悪かったですわね」
「本部の応援って翠先輩だったの?」
愛梨の台詞に先輩は歩きながら頷く。
「ええ。私以外にも大学生スタッフとか先生とかいますけれどね。私が一番移動が早いので、ここみたいな遠方を優先的に担当しているのですわ。
さて、それではレイスを退治致しましょうか」
翠先輩はそう言って歩いてレイスと呼んだ怪異の出た通路との交差点へ。
怪異と正面に向き合うように立つ。
「アテー、マルクト、ヴェ・ゲブラー、ル・オラーム・アーメン」
そう唱えながら両手量指をスッスーッと動かす。
こちらからレイスと先輩が呼んだ化物の方は見えない。
でも一瞬、強烈な光を感じる。
次の瞬間、あの怪異の気配は感じなくなっていた。
「今回の怪異はレイス、日本だと悪霊とか霊体なんて呼ばれているものです。属性が闇で能力が吸収ですので、特性的に正利君と被ってしまいます。ですので正利君ですと有効な攻撃が出しにくいのですわ。
次回以降レイスと戦うのなら、透子さんの聖属性魔法を収束率を上げて撃つのが一番効果的だと思われます。もしくは愛梨さんに光魔法を覚えて貰うかですわね」
なるほど、だから奴に俺の攻撃があまり効かなかった訳か。
「あと、そちらに新しく出来た通路については私の方から本部に報告しておきます。ですのでこのまま地図にある通路の探索の続行をお願い致しますわ。
それではまたお目にかかりましょう」
緑先輩は台詞終わりと共にすっと姿を消す。
「やっぱり強いね、翠先輩」
愛梨の台詞に俺を含む全員が頷く。
「あっさりという感じだったな」
「そうですね。ところであの唱えていたのは何だったのでしょうか」
「あれはカバラ的な十字切りだよ。心霊たる真の自己、物質たる我が顕現、光と闇の調和を願わん、位の意味かな。大雑把な意訳になるけれど」
おいおい。
「愛梨さんってそういた事に詳しいんですか?」
「邪視の事を調べた時に色々文献を読んだからね、少しは知っている程度」
なるほど、それで知っている訳か。
「それじゃ気を取り直してあの通路を調べましょうか。もう気配は無くなった感じですけれど」
「そうだね」
再び桜さんと有明透子を先頭に歩き始める。
レイスが出てきた地図に無い通路を一応メモして、先へ。
桜さんや有明透子の魔法で片付いたらしく怪異の気配は全く感じられない。
あっさり通路の反対側へと辿り着いた。
左に曲がって、更に隣の通路へ。
「今度は私の番だね」
愛梨と俺先頭へと交代。
通路の入り口で愛梨は立ち止まる。
「さっきの桜さん達とおなじように、雑魚を一気に片付けるよ」
愛梨の場合は一気に魔法を通す方法では無いようだ。
単発の魔法の気配が連射くらいの早さと勢いで感じられる。
「目で確認してものを単発の魔法や邪視で片付けているんですね」
「うん。この方が万が一大物がいても怒らせないで済むかなと思って」
通路にあった気配がだだだだっと消えて行く。
「とりあえずこんなものかな。一応注意して行こう」
今度の通路は余分な脇道も無いし妙な気配も無い。
何も無ければ精々200メートル位の通路。
あっさりと終わってしまった。
「これでだいたい3分の1ですね。もうすぐお昼ですけれどもう少し進めておきましょうか」
「そうね。何が出るかわからないから出来るだけ早めに回っておきたいし」
「確かにそうだな。それに事務所遠いしさ」
「それじゃまた先頭交代で」
桜さん達に先頭チェンジ。
「それではさっきと同じようにおびき出して一気に片付けましょう」
再び桜さんが熱波を放つ。
◇◇◇
そんな感じでどんどん片付けていって、残りは南北の通路1本と東西の端の通路だけになった。
「ここはちょっと厄介ね」
有明透子が言う通り明らかに大きめの気配が感じられる。
先程のレイスと同じ程度の強さだ。
気配の質も似ているような気がする。
「今回は愛梨さんにお願いしましょうか。その方があの強そうなのを刺激しないで済むでしょうから」
「わかった」
愛梨が強力そうな奴以外をバシバシと片付けていく。
あっという間に気配は強力なもの1つになった。
「どうする?」
「さっきと同じ位の気配だし、正体を確認してから応援要請ね。お札もまだあるし」
「そうですね」
「ならちょっと試してみたい魔法があるけれどいいかな」
愛梨がそんな事を言う。
「いいけれど無理しないでね」
「大丈夫。ただちょっと危険かもしれないから、この通路からちょっと外してて」
そんな訳で愛梨は通路入口付近、俺達は通路入口からちょっとだけ外した場所で待機。
有明透子は念の為何時でもお札を投擲できるようにしているし、桜さんは緊急呼び出しボタンを押せるようにしている。
「それでは試してみます。光魔法、『準備室でくすねてきたマグネシウム粉!』」
おいなんだその呪文!
そう突っ込む間もなく通路側が強烈な光に包まれる。
おっ、みるみる怪異の気配が弱まっていく。
呪文はアレだが効果はあったようだ。
綺麗さっぱり気配は消えた。
「愛梨さん凄いです」
「凄いけれど……何なの今の魔法は。単なる光魔法では無い感じだし」
俺も有明透子と同意見だ。
「さっき翠先輩が光魔法が有効って言っていたよね。それを聞いてそういえば川口先輩に闇属性を退治するのに使える道具を分けてもらっていたのを思い出したの。だからそれを使いつつ、更に魔法で光と熱を加えまくった訳。思った以上の威力だった」
おい。
「それじゃあの『準備室でくすねてきたマグネシウム粉』というのは」
「うん、そういう訳だよ。厳密にはマグネシウム粉と硝酸カリウムを混ぜたものだけれど。川口先輩は2級試験で一緒のパーティだった
「それって魔法なのか?」
単なる化学反応というか燃焼のような気がするけれど。
「熱を魔法で加えるし、魔法で力を上乗せするから魔法だよ。何も無しで魔法を起動するよりこういった媒体があった方が数倍強力になるしね」
理屈はわかる。
俺達は準備室の鍵を持っているので薬品入手も簡単だ。
でもそうなると他の疑問というか疑念も思い浮かぶ訳で……
「まさかと思うけれど、他に危険物を隠し持っていないよな」
「今と同じマグネシウム粉はあと1回分、あと高熱魔法用にアルミ粉を使ったものを2回分持っている。どっちもキムワイプで包んだ後更にラップで厳重に包んであるから熱を加えない限り大丈夫だよ」
うーむ。
まあ魔法として有効だからいいのだろう。
俺としては何か納得出来ないものを感じるけれど。
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