第7章 最初は清掃アルバイト

第51話 今日はアルバイト

 8月17日土曜日の朝9時、校門前。

 先生のランクルは7人詰め込んだ状態で発車した。

「今年も八●霊園ですか」

 大和先輩の質問に先生は頷く。

「ええ。あそこはどうしても色々集めやすいみたいですから。東京都の施設なのでその分こういった清掃作業のような管理を確実に行っているという理由もあるのですけれどね」

「八●霊園というのは千葉県●●市にある都立の霊園。ネットで『八●霊園 怪談』と検索する山ほどヒットしてしまうというまあ曰く付きの場所だ。東京のうしとらの方に位置するのが悪いのか、怪談で有名になったのが悪いのかは別として色々怪しいのが住み着きやすい場所でも迷宮ダンジョンもある。しかも新たな通路が出来たり新たな怪異が住み着いたりする状態だ。そんな訳で年に数回大規模に掃除をする」

 

 説明に微妙に矛盾を感じたので聞いてみる。

「何で千葉県に都立の霊園があるんですか」

「東京のこっち側に霊園を作ろうとしたけれどさ、ちょうどいい土地が都内になかったかららしい」

「これでも大正時代に都立となったので、多磨霊園より古い霊園なんですよ」

 千葉県にある都立というのは聞き違いでは無かった模様だ。

 学校裏から短絡路に入り、そんな話をしているうちにもう外に出ていた。

 周りは木々に囲まれ、下は平らに均された土の場所。

 他に既に数台車が停まっている。


「ここは八●霊園の北東側にある作業用の場所です。一般の方に見えないよう、立ち入り禁止になっているこの場所を拠点としています。今日は都立霊園8箇所の他、あちこちの霊園や某地等で清掃日になっています。例えば牛●浄苑等も今日ですね。土子園どこぞの高校の皆さんは牛●浄苑に行っている筈ですよ」

 プレハブ前、他の車と並ぶように車を停める。


「それでは行きましょう」

 プレハブのいかにも仮設という感じの事務所へ。

 受付と紙が貼られている長机の処で先生が紙を提出する。

「今回の名簿です」

 ちらっと見ると全員の名前、住所、討伐の級が書かれたリストだ。

「都和様以下8名ですね。受け付けました。こちらが資料になります」

 そう行って係員が大封筒を先生に渡す。

 えっ、8名?

 そう思ったところでふっと列に1名加わった。

 本来の西洋民俗研究会部長である翠先輩だ。

「翠先輩、留学は終わりですか」

「ええ、つい先日日本に戻って参りました」

 なるほど、今日はうちの研究会全員参加という訳か。

 そんな事を思いながら中へ並べられたパイプ椅子に腰掛ける。


「今回の資料だって」

 愛梨から封筒が回ってきた。

 『第7班 真鍋正利殿』と上に書いてある。

 中を見ると

  ○ 園内の案内図らしいもの1枚

    (数カ所に赤いマーカーでチェック入り)

  ○ 迷宮ダンジョンの地図と思われる図面1枚

    (赤いマーカーで囲まれた部分あり)

  ○ 任務と予想される怪異一覧、とある紙

  ○ 第7班名簿とあり、俺、愛梨、桜さん、有明透子の名前が記載された紙

  ○ 受取人欄が空欄で3万円額面の領収書

が入っている。

 任務は迷宮ダンジョンのマーカーで囲まれた部分を巡回し

  ○ 新しい通路が出来ていないかを確認

  ○ 小怪異の討伐

  ○ 大怪異の捜索と一時対処

を行う、と記載されていた。


 怪異一覧にはお馴染みのヘビやコウモリの他、いくつかの怪異が写真入りで説明されている。

 そのうち小怪異と分類されている

  ヘビ型、コウモリ型、カエル型、小鬼型、霊体型、火球・光球型

は3級所持者の武器や魔法で倒せるようだ。

 それ以外の

  人型、大光球型、鬼型

は配布されるお札で対処した後、本部に応援要請するようにとある。

 つまり3級程度の腕では危険だという事らしい。

 

 周りを見て見る

 他にはだいたい俺達と同じような引率付き高校生風のグループ5組。

 大学生風の単独参加者10名程度。

 何名かは知り合いの模様。

 先生や大和先輩や川口先輩、翠先輩が挨拶したり話したりしている。


「お知り合いですか」

 桜さんの質問に大和先輩が頷いた。

「前のテーブルは園編そのへん高校、右前のテーブルは卒茅野そっちの高校の同じような部活の皆さんだ。能力者の次世代を育てる為にこういった仕事は高対連や青対協付属、つまりなりたて対魔討伐者に回るようになっているからな。だから引率者以外はだいたい3級か2級といった初級者が主だ。業務上の都合で例外もいるけれどな」

「それぞれ高校対魔討伐者連合会と青年対魔討伐者協会の略」

「大学生も高校でこういった活動をしていた方が多いですわ。うちのOBは今回いませんけれど」

 先輩達の解説でだいたいどういう面子が集まっているか理解できた。


 更に1組4名と単独2人がやってきた処で10時になる。

 前に係員らしい中年のワイシャツ姿が出てきて頭を下げた。

「本日はお集まりいただきありがとうございます。本日の八●霊園霊的清掃を担当します宮内庁陰陽少允、高対連及び青対協理事の坂田と申します。今回も会員育成作業を兼ねて、清掃作業を実施させていただきます。宜しくお願い致します。

 さて、本年も怪談シーズンや墓参等を通じまして当霊園の霊的環境はかなり荒れているところです……」

 長いので話半分に聞いておく。

 要は色々あって、結構霊的に荒れていますのでよろしくね。

 仕事内容は渡した資料の通りですよ。

 みなさん新米だから無理をしないでね。

 そんな感じだ。


「休憩は適宜取っていただいて結構です。こちらにお弁当とお茶を用意してあります。また14時30分の時点で指示された区画に未確認部分がある班は本部に連絡をお願い致します。それでは各班に別れ、班員が揃いましたら清掃作業を始めて下さい」

 うちは1年生の4人で同じ班だからその辺は楽だ。

「それじゃ行こうか」

「そうですね」

 霊園の全体図を見ながらプレハブ横にある『入口21番』とある場所へ行き、

「短絡路と同じような入口だね」

 なんていいながら中へ入る。

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