第50話 合宿最後の日

 昨日は食べ過ぎた。

 全員やっとの状態で自分の個室に辿り着いた感じだ。

 なお片付けと清掃は先生の式神5体が行ってくれた。

 そして気がつけば合宿最後の朝だったりする訳だ。

 まず朝一番で元の姿への変身をやってみる。

 今度はあっさり成功した。

 やはり魔力が不足していたようだ。


 それにしても女性の身体になったらもっとエロい興味で色々見たくなるかと思ったらそうでもなかった。

 どうも自分の身体だと認識するとエロい興味もなくなるようだ。

 それに風呂で皆さんのを心ならずも拝見してしまったしな。

 状況が状況だから鮮明に覚えているわけではないけれど。


 2階の洗面所で顔を洗い歯磨きをして下へと降りる。

 皆さんもう起きているようだ。

「おはようございます」

「おはよー。あ、ダーリン、戻ったんだ」

「寝て魔力が戻ったしな」

「残念、戻っちゃったか」

「女子が増えたみたいで楽しかったですけれどね」

 有明透子はともかく桜さんまで。

 

 本日は昼までのんびりバカンスだ。

 時差の関係で昼に此処を出ても学校に着くのは朝方だから。

 そんな訳で朝食後は海でのんびり遊ぶ。

 小屋の前の海は環礁の内側向きでいかにも南国らしい色で綺麗だ。

 白い砂浜と明るい色だけれど透明感のある海。

 日差しはそこそこ厳しいけれど風があるから日本の夏より過ごしやすい。

 本当は勉強をしなければならないんだけれど、まあいいか。

 そう考えるのは堕落かな。

 でもいいや、明日から本気を出そう。

 そんな事を思いつつのんびりする。


 今は浮き輪に乗っかって環礁の内側を散策中。

 俺一人ではなく愛梨、桜さんと一緒だ。

 なお有明透子は別行動。

 同じく浮き輪で食料調達の旅に出ている。

 奴は帰った後の食料費節約の為大型の魚狙いで別方面へ。

 切り身やサク等にして冷凍し、あの見かけより量が入るディパックに入れて持ち帰るつもりとのこと。

 小遣いのエンゲル係数低下の為だそうである。


「大きいのが見つかったら透子さんに持って帰りましょうね」

「そうだね。もし透子さんが持ち帰れないようなら私が持ち帰ってもいいし」

「愛梨さんは一人暮らしでしたね」

「そう。でも一軒家だから結構広いよ。冷蔵庫も大きいのだし」

「夏休み中に遊びに行ってもいいですか」

「大歓迎だよ。ダーリンもどう? 何ならお泊まり会をやってもいいし」

「楽しそうですね」

 同級生の女の子の家にお泊まりなんて、精神的に色々悪そうだ。

 実態はこの合宿と大差無いとしても。


 さて、獲物探しは別としても海は綺麗だ。

 小さい派手な魚なら探すまでも無くあちこちに群れている。

 海なのに透明度が高くて水中眼鏡なしでも底までみえたりする。

 浮き輪に乗って進んでもシュノーケリングをしても楽しい。


 おっと、そこそこ大きな魚の群れがいた。

 でもこれはちょっと遠慮しておこう。

 前の合宿でも今回も捕ったあの尾っぽの長い銀色に近い魚だ。

 腹身は美味しいんだけれど他は微妙に骨が多いんだよな。

 あの群れで泳いでいるシマシマの魚は少し小さいかな。

 そんな邪念たっぷりで魚を観察するのも面白い。

 無論サンゴとか貝とかも綺麗だが、貝には毒針を発射する危険な奴もいるらしい。

 だから近寄らず見るだけに留めておく。

 あとウツボやウミヘビも注意と先生が言っていたな。

 サメは何もなければ人を襲うことはまず無いので大丈夫だとも。


「よし、あの大きいの行くよ」

 群れで泳いでいる5匹ほどが動きを止めた。

 俺がシュノーケル装備で泳いでいって網で回収する。

 体高がちょい高くて鯛みたいな形をしているアジの仲間の魚だ。

「これ美味しかったよね。刺身でも今朝食べた焼いたのも」

 確かにこれは美味しかったよな。

 そう思いつつ網に入れて魔法で冷やしておく。


「あとそろそろ大きいのが色々出てくる場所だよね」

 環礁の外側に通じるやや深い部分に到達。

 おっと、いきなり愛梨の邪視の気配を感じた。

「結構先だけれど大きいの2匹。だいたいこの方向で20メートル」

 愛梨が手で指した方向を見る。

 確かに1メートル以上の魚が2匹動きを止めていた。

 網でも大きすぎて全体を確保出来ない。

 動かないので何とか持ち帰ることが出来たという感じだ。

「思ったより大きいね」

 今までで捕った仲でも最大だ。

「これ、先生がツムブリって言っていた魚ですよね」

「そうそう。ブリの仲間じゃ無いですけれどブリっぽい味で美味しいですよって言っていた奴だよ」

 見かけは確かにブリっぽい。


 さて、そろそろ俺の浮き輪に付けた網が限界だ。

「そろそそ戻るか。大きいの7匹だとさばく時間も必要だろ」

「そうだね。でも完全にさばかなくてもあのディパックに入る程度に切って魔法で氷温状態を維持すれば大丈夫だよね」

「でも冷蔵庫が限界だろ」

「あ、確かに」

 何せ今回は大物狙いだけあってどれも大きい。

 それが7匹もいる訳だ。

「なら帰りは私が魔法を使ってみます」

 ここまでは俺の魔法で水流を作って動いてきた。

 でも帰りは桜さんがやってくれるようだ。


 おっ、豪快に加速をはじめたぞ。

 水流を速くしすぎて愛梨と桜さんの浮き輪が回転しはじめた。

 なお俺の浮き輪は獲物入りの網がついているので大丈夫。

 微妙にコントロール不能になりかけるのを俺の魔法で少しだけリカバリー。

「もう少しゆっくりでいいんじゃないかな」

 愛梨の口調はのんびりした感じだ。

 俺がサポートするだろうと予測していたのだろう。

「そうですね」

 流れがややゆっくりになり2人の回転も止まった。

 あとはもう小屋前の砂浜へ一直線だ。


 到着したら俺の浮き輪は愛梨が持って、代わりに獲物全部は俺が持って小屋へ。

 既にキッチンでは有明透子が奮闘していた。

 何やかんや言って面倒見のいい先輩2人も手伝っている。

 なお翠部長は帰還したらしく姿が無い。


「そっちも捕ってきたか。でも透子の方は多分これで目一杯だぞ」

 見ると俺達以上に大物狙いをした模様だ。

 大アジとツムブリの他、更に大きいサメまでさばいている。

「サメって食べられるんですか」

 サメが人間を食べる方では無しで。

「鮮度さえ保てばアンモニア臭もあまりしないし美味しいぞ。見かけと肉質がちょっと違うけれどな。骨が固くないからさばくのも楽だし、ウロコが無くて皮も力任せに剥がせばいいから処理も楽だ」

 そうだったのか。

 知らなかった。

 でもまあ、こっちも今回は鯛がいないのでウロコ処理は楽だ。

 そんな訳で魚さばき大会が再び始まってしまう。


 結局帰る寸前まで魚の処理がかかってしまった。

 有明透子持ち帰り用のサメとこっちのアジの一部を交換して愛梨用ディパックに詰め込む。

 温度維持の魔法をかければOKだ。

 片付けは式神にやってもらい、ゴミは魔法で高温燃焼。

「それでは帰りましょうか」

 先生のランクルに乗って島を離れる。

 俺達の夏合宿はこうして無事終了した。

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