第49話 夕食宴会実施中

 夕食の前に翠先輩から挨拶がある。

「初めての人は初めまして、そうでない方はお久しぶり。民俗学研究会部長の並木翠です。まもなく英国留学から帰ってくる予定ですが、3年生ですのであまりこちらには顔を出せないかと思います。どうぞよろしくお願いいたします」

 そう言えば有明透子と翠先輩は初顔合わせだったな。

 さっき一緒に料理を作っていたから自己紹介くらいはしたのだろうけれど。

 俺は2回目なのだけれど性別が変わっているし、同一人物だと気づくだろうか。

 まあ無理してアピールすることもないだろうけれど。


「それでははじめましょうか。いただきます」

 夕食がはじまる。

 ただちょっと、いや大分量が多すぎるような……

 天ぷらと刺身だけで既に1人当たり3人前以上はあると思う。

 それに海老のお吸い物とサーターアンダギーとバナナの天ぷら。

 白いキャラメル位の怪しい塊多数は置いてある場所から見ておやつの分類。

 ドリンクは自家製ココナッツミルクだ。


 全部食べきるのは無理そうなので、少しずつ、出来るだけ全部味わうように頂く。

 久しぶりの天ぷらはやはり美味しい。

 葉っぱ系のをさっと汁をくぐらせて頂くのが俺的には好みだ。

 刺身はまあ、一切れずつ。

 美味しいのだが種類も量もあるのでその程度。

 鯛っぽいのが結構美味しい。

 あとこの白いイカみたいなのは多分ココナッツだな。

 前の合宿で食べたからわかる。


 そんな感じで食べると全品最小単位で食べただけでもうお腹いっぱい。

 揚げ物系おやつまではとても手が回らない。

 白いキャラメル大のものだけつまんでみる。

 あ、結構美味しい。

 香りは違うが味はキャラメルよりチョコレートに近い感じ。

 舌触りがちょっとざらっとしているけれど。


「この白いのは何ですか」

 思わず聞いてしまう。

「ココナッツで作った代用チョコレートと言ったところですわ。熟して茶色くなったココナッツの果肉を魔法で粉砕してやや乾かして、脂分が多めになった処で砂糖をカラメル状にして混ぜあわせて冷やして固めるんです」

 翠先輩が説明してくれた。

 なるほど、結構手間がかかっているんだな。

 しかも魔法をガンガン使わないと調理できないと。


「ところで女性の姿のままなのは何か理由があるのでしょうか」

 翠先輩に聞かれてしまった。

 どうやら先輩は俺が以前見た男子だとわかっているらしい。

 外見で見分けられたのだろうか、それとも他に見分ける方法があるのだろうか。

「魔力不足で元に戻れないんです。明日になれば戻れると思いますけれど」

「そうでしたか。すみません、妙な事を聞いて」

 先輩は軽く頭を下げた。


「ところでダーリン、天ぷらも大分残っているけれど食べないの?」

 愛梨に聞かれる。

「流石にお腹いっぱいかな。元々あまり食べる方じゃないし」

「なら貰っていい?」

「どうぞどうぞ」

「ならいただきますね」

 何故か愛梨と反対方向からも箸が伸びてきた。

 有明透子だ。

 お前らの胃袋は宇宙かよ。

 俺には脅威としか感じられない。


「そういえば皆さん、今年の試験おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「3級の方はお札2枚のみで怪異全滅通過と聞きました。今年は随分攻撃力がある組み合わせなのですね」

亜人デミ4人編成だからな。今は全員魔法を使えるから更に攻撃力が凶悪だ」


「先輩達はどうだったんですか」

「こっちも4人編成なんだが私以外は普通人だからな。アイテム使いまくりだ。翠先輩みたいなチートは使えないしな」

「どんなチートなんですか」

「翠先輩は3級試験も2級試験も1人挑戦で合格しているんだ。中の怪異も実力を見せるために強めの1匹と集団でくるの1回だけ倒してあとは素通りだな」

「体質上、気配の完全隠匿と自由移動を使えますから。あの試験には向いた能力ですから仕方無いですわ。それにあの狸先輩も1人挑戦でしたから」

 確かにその能力を使えたら『通り抜けたら合格』式の試験だと最強だよな。

 でも何やかんや言って怪異は倒しているから攻撃力もあるのだろう。

 あと狸先輩というのはきっと安浦先輩の事だな。

 どうも色々ライバルというか敵対意識があるようだ。


「ところで2級試験で一緒だった土子園どこぞの高校の人達はどういう能力を持っていたんですか」

「小松が直接攻撃特化で富士崎が支援特化だ。小松はまあストレートな剣道バカで日本刀で岩でも霊体でもひたすらぶった切る。シンプルだが直接攻撃力だけは洒落にならない。富士崎は色々な薬品を使って攻撃したり回復させたりする感じだ。味方にしておくと色々便利だな」


「薬品で回復って、薬の効果とは違うの?」

 愛梨の質問。

 確かに俺も疑問に感じた。

 大和先輩は頷く。

「香織がカードや刃物の力を引き出すのと同じで、薬品の知名度や開発努力や治癒実績を力にして行使する訳だ。ヨードチンキで外傷一括回復とかロキソニンで短時間痛覚遮断を全体にかけるとか。テルミット反応連射なんてなかなか恐ろしいぞ」

 リアルとファンタジーの合いの子みたいな能力だなそれは。


「男子ですか女子ですか」

 これは有明透子の質問。

「2人とも高2男子だ。成績も優秀らしいし一見どちらも爽やかな青少年風。ただ嗜好がヤバすぎて誰も手だししない状態だな。何せ2人とも記憶の伝承とか遺伝とか一切無いのにこの世界に入ってきた化物だ。顧問の天川先生曰く『気違いと刃物の組み合わせですが女性には興味がなく安全です。宜しくお願いします』ってさ」

 うわっ。

 気違いに刃物ではなく気違いと刃物か。

 何となく状態が想像できそうな処がちょい笑える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る