第48話 夕食の準備

 弱った。

 女子から男子に戻れない。

 変身能力がなくなった訳では無い。

 どうも魔力というか変身に必要な力が足りない状態のようだ。

 意識して力を増幅させてみても変身するには足りない模様。

 吹雪とかの魔法よりも変身の方が力を必要とするようだ。 

 仕方無いのでぶかぶかの自分の服を着る。

 なお自分の裸は特にエロいとか感じない。

 あれだけクラスメイトや先生の裸を見た後だしな。

 勿論ブラとか女性用下着なんてないけれど気にしなくていいだろう。

 ここにいるのは全員女性だから。


 さて、改めて鏡で自分の姿を見てみる。

 元の俺よりちょい小柄で華奢になっている。

 おかげでTシャツの下にはいたジャージのズボンもぶかぶかだ。

 しかもジャージのズボンは3割方まくらないと裾を擦りそうな状態。

 髪は真っ黒で手を真っ直ぐ下げた状態の肘くらいまででほぼ真っ直ぐ。

 顔は可愛いかどうか自分ではわからないし、よく見れば元と構成要素は全く同じ。

 でも悪い方では無いと自己評価では思う。

 ちなみに胸は某先輩以上某先輩未満、つまり普通サイズだと思う。

 愛梨と同じ位かなと考えてちょいダメージ。

 思い出してはいけない。


 適当に時間を潰し、風呂の水を抜きはじめた音で部屋を出る。

 無事全員服を着ている状態だった。

「あれダーリン、そのまま?」

 愛梨に気づかれる。

「ちょっと魔力が足りないみたいでさ。少し経てば戻せると思うけれど」

「良かった。戻らないんじゃないかと一瞬思っちゃった」


「でもそのままでも結構いけるかも」

 こら有明透子、お前下心全開だろう。

 愛梨もそう思ったようだ。

「透子さんはダーリンに近づかないで」

「いいじゃない減るモノじゃないし」

「あのお風呂での件、あれ反則だからね」

「ちょっと味見をしようと思っただけだから」

 味見って何だよ。

 想像しかけて思い直す。

 深く考えるとエグそうなのであまり考えない方がいいか。


「さて、それではそろそろ料理をはじめましょうか」

 そんな訳で夕御飯の支度を開始。

 愛梨はご飯炊き。

 他は天ぷらなり刺身なり汁なりと適当に別れる。

 有明透子が刺身の方に回ったので俺は天ぷらの手伝いへ。

 なお天ぷらは先生、川口先輩と基本的に平和な面子。

 ただし怒らすと洒落にならなそうな面子でもあるので真面目に手伝うことにする。


「正利、これ凍らない程度に冷却」

 川口先輩が水と卵を入れたボールを持ってくる。

 それ位なら今の魔力でも簡単だ。

「こんな感じでいいですか」

「そのまま持続」

 言われた通り冷やし続ける。

 川口先輩はささっと小麦粉をボールの中に入れ、箸で水の上に出ている小麦粉をつつくように混ぜる。

 ほぼ小麦粉が混ざった処で。

「終了。協力感謝」:

「温度を上げたり普通に思い切りかき混ぜたりすると衣が重い感じになってしまうんですよ。この辺の加減は私もあまり得意ではないんです」

 先生が説明してくれた。

 なるほど、今の作業はそんな理由があった訳か。

 なお先生はもう1種類怪しげな生地を作っている。

「そっちは何ですか」

「後でのお楽しみですね」

 何だろう。


「まずは油、160度位に維持出来ますか」

 160度という温度指定がちょい難しい。

 でも見るとこの鍋、温度計がついている。

 なら見ながらやれば大丈夫かな。

 何とか160度ちょうどにあわせる。

「こんな感じですか」

「ちょうどいいですね。これから種を入れると温度が下がります。ですのであまり下がらないよう調整お願いします」

 なるほど。

 まずは後でのお楽しみの方。

 丸いボール状にして投入。

 膨らんできて、表面に亀裂が入って、綺麗なきつね色になった処で取り出す。

「これってひょっとして、沖縄のあの揚げドーナツみたいなモノですか?」

「そう、サーターアンダギーです」

 いきなり甘い物からか。

 でも油に匂いとかつくからこの順序なのかな。


「今度は油温を170度でお願いします」

 あわせたところでささっと衣をつけて投入。

 なお最初に投入したのはバナナだ。

 それも青い奴では無く日本にもよくある黄色いもの。

「これもおやつ用ですね」

 これも表面がきつね色になったら完成。


 残った具材はやっと天ぷららしい材料だ。

 採取した色々な葉っぱ類、二枚貝だがかなり大きくて口のところがぐねぐねしている奴、買ってきたものらしいエビ、更にあのサンマみたいな魚まである。

 次に投入するのは葉っぱ類のようだ。

「この辺の葉は採ってきたものですよね」

「ええ。この丸っこいのがハマザクロの葉、赤い茎に小さな肉厚の葉がついているのがスベリヒユ、このセリっぽい葉がハマボウフウですね。厳密にはちょっと違う種類かもしれませんけれど、食べ方は同じです」

 入れてしばらくは温度が下がり気味なので意識して魔法で熱を加える。


 葉物から人参かきあげ(先生が買ってきたもの)、シャコ貝、ちょっと温度を上げて20センチくらいある結構立派なエビ(先生が買ってきたもの)、あの細い魚(カマスの一種だと先生が言っていた)と揚げまくる。

 基本揚げるのは先生で、俺は温度調節番。

「いつもは大和さんに温度調節して貰うんですけれどね。今年の1年生は全員魔法が使えていいですよね」

「でも先生や川口先輩も色々使っていますよね」

「私や川口さんは魔力が無いのでお札や道具、儀式や祈祷なんかが必要なんです」

「持続効果付きの力を使うには不向き。自律出来る疑似生物の召喚を除く」

 なるほど。

 疑似生物というのは先生がよく使う式神とか川口先輩が昼の訓練で使った召喚獣みたいなものの事だろう。


 そして全部揚げ終わり、網付きのパッドに揚げた天ぷらを広げた状態になる。

 なおこのB4サイズくらいのパッド、8個もある。

 1個はバナナ天ぷらとサーターアンダギーが載っているのできっとおやつ用だ。

 残り7個に野菜類4種類、シャコ貝、エビ天がそれぞれ2個ずつ、あの細長い魚が半身分のっかっている。

 つまりこれは1個で1人分だな。

 でもこっちにもバナナ天とサーターアンダギーが1個ずつ入っているのは何故だろう。

 どっちにしろ普通なら天ぷらだけでも充分以上の量だと思う。

 でも何せここの面子は食べるからな。

 これプラス刺身プラスご飯プラス汁その他でも食べきるだろう、きっと。

 そして。

「最後にこの状態で200度位にして貰えますか。余分な油が落ちやすくなるので」

 という事でパッドの網に乗った状態の天ぷらをさっと魔法で加熱して完成だ。


 そろそろ皆さん出来たかな。

 見ると刺身の方も、汁物も、その他も出来ているようだ。

 ご飯も既に火から下ろしている。

 ん? 何か違和感。

 1人人数が多くないか?

 1人2人3人……8人いる!

 といっても幽霊ではない。

 見て思いだした。

 本来の部長、並木翠先輩がいつの間にか混じっている。

 どうやらまた能力で英国からやってきたようだ。

 なるほど、確か緑先輩は甘い物しか食べないと言っていたからな。

 バナナ天とサーターアンダギーしか入っていないのはこの人対策か。


「それでは御飯にしましょうか」

 先生の台詞で一斉に用意に取りかかる。

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