第46話 追い詰められた末に

 結局愛梨と桜さんだけであと4回ずつ戦闘をした。

 2人とも氷、風、岩、水、熱と色々な魔法を一気に使えるようになったらしい。

「これで私のアドバンテージもほぼ無くなったかな」

「でも透子さんとは経験が大分違いますから」

「そうそう。透子さんはどんな相手でも安定して戦えるしね」

 確かに有明透子はまだまだ経験的に上だし魔法も回復も直接戦闘も出来るしな。


「やっぱりゲームでも何でも魔法というもののイメージがあれば身につけるのは早いよな」

「同意。でも羨ましい」

「でも香織先輩のあの召喚魔法、凄いじゃないですか」

「道具1個につき1日1回しか使えない。準備も必要」

 そんな話をしながら全員で後ろに向かって歩くと出口の扉が見えた。

 大和先輩を先頭に扉をくぐるとあの小屋の1階、脱衣所だ。


「夕御飯まで時間があるし、なんならひとっ風呂行こうか」

 大和先輩がとんでもない事を言う。

「そうですね。色々魔法を使ってちょっと疲れましたから」

「そうだね。ここで一服するのもいいかな」

「同意」

「私もそうしようかな。今日の夕食はお腹いっぱい食べられそうだし」

 俺は反対だ。

 この前のオープンな風呂の状態を見ているだけに。

 謹んでご辞退申し上げる。


「それじゃ俺は2階の寝室で本でも読んでいるよ」

 ゆっくりと上へ逃げようとしたのだけれど。

「ダーリンも一緒に入ろう。汗はお湯で流した方が綺麗になるし気持ちいいよ」

 いや愛梨さん、混浴はまずいだろう。

 そう思うのだけれども確か全員問題は起きない派だったんだよな。

 先生も含めて。


「とりあえず準備は手伝え」

 大和先輩がそう言うならば仕方ない。

「準備だけですよ」

 そういう事で取り敢えず風呂の準備だけは手伝うことにする。

 あくまで準備だけだぞ。

 そう思いながら。


 そう言っても準備そのものは簡単。

 既に1階リビングの一角にビニールシートを敷いて、巨大ビニールプールを展開している区画がある。

 そこに魔法でお湯を入れるだけだ。

「今日は魔法を使えるのが大勢いるから直接魔法でお湯を入れるぞ。温度は40度ちょいを目安にしよう」

と大和先輩が言うのでその通りにする。


「水魔法、40度のお湯、出るだけ!」

「風呂水充填!」

 適当な魔法名を言いつつお湯を魔法で出しまくる。

 この魔法名を言うのもそれなりに意味がある。

 何でもいいから言った方がイメージを集中しやすいのだ。

 でも……


「思ったより魔力を使いますね、これ」

 桜さんの台詞に大和先輩は頷く。

「何もない処から物を出す魔法はそれなりに魔力を食うからな。でもここで魔法を使うのも訓練になるぞ。使えば使うほど魔力は上がるからな」

 そういう意図もある訳か。

 そんな事を思いながらとにかく魔法でお湯を出し続ける。


 先生と川口先輩を除く5人で魔法を使いまくった結果、何とか適温のお湯がビニールプール8分目くらいまでたまった。

「今日は草津の湯にしましょうか」

 先生がそう言いながらやってきて、缶入りの温泉の素を1缶まるごと入れる。

 いかにも温泉、という感じの匂いがする濁り湯が完成した。


「さて、入るとするか」

「そうですね」

 大和先輩と先生、いきなり脱ぎ出す。

 おい待て早い。

 俺は慌てて二階に逃げようとするが……

「甘いな」

 足が動かない!

 何だというか、台詞からして間違いなく大和先輩の仕業だ。


「どうせなら今のうちに慣れておいた方がいい。だから風呂から遠ざかる方には動けないという呪いをかけてもらった。香織が道具を使った呪いだから魔法での解除は不可能だ」

「諦めるのが肝心」

 川口先輩の仕業かよ。

「そうそう真鍋君、諦めが肝心……じゅるり」

 川口透子お前絶対エロい事考えているだろう!

 服を脱ぎつつ俺の方をガン見、しかも舌なめずりまでしてやがる。

 この困難を乗り切るにはどうすればいいか……


 確か先代部長の安浦先輩は女性に化けて誤魔化したんだよな。

 なら俺も変身を試してみるとするか。

 確か変身能力も不死者ノスフェラトゥの能力にあった筈だ。

 それ以外この場を逃れる術は無いような気がする。

 よし、覚悟を決めたぞ。

 まずは魔法の力を回転させて練って、更に回転させて加速して……

 変身、女性になれ!!!


 全身が燃えるように熱くなる。

 ふっと一瞬意識が途切れる。

 すぐに意識は戻るが今のは何だったんだろう。

 何か視界が変わったような気がする。

 他にも何か変わったような気がする。

 でもそれが何なのかすぐにはわからない。


 取り敢えず……ん?

 髪が伸びている。

 手が心なしか細くて華奢なような。

 変身成功か?

 鏡が近くに無いのがもどかしい。

 胸は確かにあるようだ。

 では肝心の股間は……無い。

 少なくとも服の上から触った限りでは無い。


「まさかそういう悪あがきをするとは思わなかったな」

 大和先輩が若干呆れたような声で言う。

「でも似合っています」

「でも顔は変わっていないよね」

「同意」

「元が割と女顔だったんだな」

「確かに違和感無いですよね」

「そうね……じゅるり」

 何か有明透子がヤバそうな反応をしている気がする。

 でもとりあえず無視。

 さっさと服を脱いで近くのソファーに置き、自分も他人も極力見ないようにして風呂スペースの方へ。


 取り敢えず身体を洗おうかと思った処で。

「髪が長いからまとめた方がいいと思うよ」

 こら愛梨、全裸で寄ってくるな。

「そうそう、手伝おうか」

 愛梨が近づく危険と有明透子が近づく危険はまた違う気がする。

 有明透子の方は貞操の危機だ。

「いいよ。自分でやる」

「でもタオル持ってきていないじゃない。ほらこれ使って」

 だってタオルを取りに行く余裕なんてなかったからな。

 風呂から遠ざかる方へは歩けない状態だったし。


「いいよ、どうせ変身を解いたら元に戻るし」

「駄目、髪がお湯についちゃうし洗いにくいでしょ。でもこの長さだとゴムかピンが無いと難しいかな」

「私のを使えばいいわ。私は慣れているから髪だけでまとめられるし」

「すみません透子さん。ゴム借りちゃって。それじゃダーリン、腰をかがめて」

 愛梨に言われた通り腰をかがめる。

 言う通りにしないと何をされるかわかった物じゃないから。


 それにしてもだ。

 後に全裸の愛梨と有明透子がいると思うと非常にやばい気分になる。

 危うく勃ちそうな状況だが、肝心なモノが無いのでセーフ。

 なお2人は俺の髪をひっぱったり伸ばしたりしている模様。

 最後にタオルでささっと巻かれる。

「これで身体を洗っても髪が濡れないから大丈夫」

 どうやらこれで解放の模様だ。


 それじゃ身体を洗おうか。

 ちなみに椅子も蛇口も無いので、洗面器で浴槽からお湯を汲んで洗う方式だ。

 皆さんと出来るだけ離れて座る。

 しかしだ。

 わざわざ右横に有明透子、左横に愛梨が座りやがった。


「ボディソープ使うでしょ。私の使っていいよ」

「何なら背中を御流ししましょうか」

「いいよ自分で洗うから」

 有明透子の背中流しは邪念の香りがたっぷりするので断る。

「でも背中、手が届かないでしょ。やってあげる」

 おい待て勘弁してくれ。

 というか助けてくれ。

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