第45話 訓練空間その2

 愛梨や桜さんがガンガン魔法を使い出した辺りで雲行きが怪しくなってきた。

 どうやらまた雨が降りそうだ。

「ここはいい場所なんだけれど、必ず午後には大雨が降るんだよな」

 大和先輩の台詞で全員小屋へと帰還。

 小屋へ入って一息ついた頃、外で大雨が降り始めた。

「どうしようか。まだ夕食作るには早いよね」

 タヒチの近くという事で昼食時に腕時計を19時間遅らせている。

 その腕時計が示している時間は午後2時ちょうどだ。


「ならちょっと訓練でもしてみませんか。先程皆さんで魔法の訓練をしていたようですから」

 先生がそう言ってにこっと笑う。

「今度のアルバイト場所に準じた設定で訓練空間を作ってみました。ただ実際の場所よりも怪異が多く出るように設定を変えています。お風呂の入口が訓練空間の入口です。良ければ全員で入ってみて練習した魔法を試してみてはどうですか。2年生2人も指導を兼ねて一緒に」

 なるほど、確かに試してみるにはちょうどいい。


「確かにいい訓練になるな。どうだ?」

「同意」

「了解です」

「お願いします」

「私も」

 俺も頷く。

「ならやってみるか。私と香織とで攻撃の見本を見せてやる」

 そう言えば先輩達が怪異と戦っているのを見た事は無いよな。

 そう思いつつ全員で風呂への入口へ向かう。

「今回の訓練空間はエンドレスになっています。終わりにするときは全員で5メートル戻れば出口が出現するようになっています。全員が5メートル以上戻らないと出口は出ませんから注意して下さいね」

 なるほど。

 そう思いながら本来は風呂への入口である扉をくぐる。


 入った先はこの前の試験と同じような洞窟状の場所だった。

「それじゃ最初は私と香織が先頭で行こう。見本というか、まあ参考にでもしてくれ。私と香織が終わったら、後は順番で魔法を試してみればいい」

「私達はこの前と同じ順番でいいかな」

「そうね。愛梨ちゃんが真ん中の方がいいから、それでいいと思う」

 そんな訳で横2人、縦3人の6人隊列で歩き始める。

「どうせすぐ大量に怪異が出てくると思うぞ。先生がああ言ったからにはきっと……おっとやっぱり」

 俺も同時に気づく。

 この前の試験でもお馴染みのコウモリだ。

 厳密には本物のコウモリでは無くコウモリ型の怪異、更にそれを真似た式神なんだろうけれど。

「それじゃトップバッターは私で行くぞ。瞬間高熱魔法、名付けて『一瞬の夏』!」

 じゅわっ。

 焼けたというか消えたというか、大量にいた筈のコウモリの怪異が一瞬で消えた。

 髪の毛が焦げたような異臭だけが後に残る。

「匂うから風魔法でささっと向こうへ向けて風を通して、と。次は香織の番だ」


 歩いてすぐ気配を感じた。

 あのツチノコっぽいヘビの怪異だ。

 それが洞窟の床面を覆うような多数でのたのたと這ってこっちに向かってくる。

 香織先輩はサックから刃物を取り出した。

「刃物の精、通称『包丁さん』!」

 片手に大きめの包丁を持った血まみれの女の子が前方に出現。

 姿形こそ女の子だが、人間で無いのは見てすぐ感じる。

 彼女は包丁を構え、すっと前方向に向けて横薙ぎに振るう。

 次の瞬間ヘビの怪異は全て首を切断された。

 それでもまだ動きが停まらない胴体に、更に包丁が振るわれる。

 ヘビの怪異全てが全身をバラバラにされ動きを止めた。

 血まみれの女の子は軽く頭を下げ、姿を消す。


「今のは召喚魔法みたいなもの?」

 愛梨の質問に川口先輩が答える。

「全ての事物には魂がある。その魂を具現化して戦って貰う技」

「という訳だ。先生の式神と似ているけれどちょっと違う。自分の魔力がない分を物の性質や力に頼る技だな。これでもいつものククリナイフを使うよりはおとなしい技だったりする訳だ」

「あれは血飛沫以外何も残さない。包丁さんの方が少しはまし」

 なるほど。

 微妙に理解しにくいがまあそんな技もあるという事で。


「次は愛梨と正利、どっちが行く」

「じゃあ私から。あえて邪視を使わないで魔法でやってみる」

 数歩歩くとまた前方に気配。

 今度は新顔だな。

「うわ気持ち悪い。という訳で氷雪吹雪アイスストーム!」

 靴サイズのムカデ多数が凍って砕けて大風で向こう側へ散って消えた。


「何か嫌だな。だんだんこれ、怪異が強力になっていないか」

「もしやばければ私か香織が援護する。だから気にせず続けよう」

 大和先輩、先輩らしい事は先輩らしいんだよな。

 そんな訳で仕方無く次は俺の番だ。


 10歩も歩かないうちに前方に気配。

 今度ちょっと大物だ。

 見るとでっかいイボイボな黒いカエルだ。

 パソコンデスクくらいのサイズが5匹もいる。

 仕方無い。

 やるか。


「エナジードレイン!」

 魔力でカエル全体を掴んで引っ張り込む。

 お、何か右手に力がみなぎってくる感じ。

 その一方でカエル5匹は形を崩し、ぐずぐずになって液状化した。

 その液体も泡を出しつつどんどん蒸発していき、最後には消えてなくなる。

「もうすっかり慣れているな、その魔法に」

「体質的に合う感じですね」

 前に水や氷の魔法を使った時よりも使いやすい気がする。

 不死者ノスフェラトゥというか吸血鬼バンパイア的な能力が俺にあっているのだろう。

 確かにこれは使い勝手が良さそうだ。

 使っても力が減るどころかむしろ補充される感じだし。


 交代して先頭が桜さんと有明透子になる。

 カエルでリセットされたのか、今度の怪異はまたコウモリの集団。

氷雪牙アイスファング!」

 桜さんの魔法は低温で出来た氷を多数飛ばして敵全体を引き裂く魔法だ。

 そして最後は有明透子対ヘビの怪異大量。

「神の力をお借りして、絶対オミノ浄化プリフィカ!」

 フラッシュを焚いたように光った後、ヘビの怪異全てが消え去った。


「これで全員か。とりあえず今回はこんな感じでいいか」

「うーん、もうちょっと試してみたいかな。ダーリンはどう」

「俺はいいや」

「私ももういいかな」

「私はもう少し試してみたいです」

 つまり希望者は2人、愛梨と桜さん。

「じゃあ愛梨と桜を先頭にもうちょいやるか」

 そんな訳でもう少し戦闘をする羽目になる。

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