第44話 力の属性

「さて、まずは正利のお手並み拝見だな」

「覚えたばかりなんだからあまり無理は言わないで下さいよ」

 そんな訳で浜辺、海を前に先生以外全員の前で俺は魔法の実演をする。


「まず最初に説明しながらゆっくりやるぞ。

 最初に尾てい骨の付け根というか骨盤の中心あたり、この辺を意識する。集中するとこの辺を渦巻くエネルギーの流れを感じると思うんだ。この渦巻きを更に加速してやる。回る速度を上げてエネルギーを増やしていく。

 エネルギーが増えたなと感じたら背骨の後、脊髄に沿うようにこのエネルギーの方向を変える。エネルギーが頭頂付近と骨盤付近を上下にした線を回転していく感じになる。渦を巻くというのが正しいかな。渦を巻きながら加速させて、上昇させ、頭頂に達したらまた脊椎に沿って下げていって、最後に右手に通して放つ」

 氷雪吹雪ブリザード

 風が海面に叩き付けられ波が削られる。

 さらに触れた海面の一部が凍ったのが見えた。


「ダーリン凄い、ちゃんと魔法を使えてる」

「多分同じ要領で愛梨達も使えると思うぞ」

「尾てい骨のあたりが最初なんですね」

 桜さんと愛梨が真似をはじめる。

 あ、注意事項を忘れていた。

「愛梨は大丈夫だと思うけれど、桜さんは火の魔法とかはやめておいた方がいいかもしれない。俺は火とか雷の魔法を使うと自分でもダメージを受ける。どうやらその辺体質と相性がいいとか悪いとかあるらしい」


「桜は電気関係以外は大丈夫だと思うぞ。正利はまあ、不死者ノスフェラトゥだから仕方無いけれどな。ところで正利、実際に試したのか」

 俺は頷く。

「ええ、最初に火の魔法を試したら酷い目に遭いました」


「なるほど。その辺先に言っておけばよかったな。火と電気と光、あと神の力に縋った回復や解毒は正利の体質には合わない。だから回復系魔法は自己治癒力や自己回復力、自分の生命エネルギーを分け与える等の方法で考えないと酷い目に遭う。まあ正利自身の身体は化物級の頑丈さだから心配いらないけれどな」

 なるほど、いわゆる聖属性みたいなのも駄目という事か。


「さて、この調子だと桜や愛梨も今日中には魔法を使えるようになるだろう。今年の1年生は豊作だよな全く。あの試験1回だけで魔法を使えるようになるなんてさ」

「真鍋君はどうやって魔法の使い方がわかったの?」

「有明さんが試験の最後で魔法を使っただろ。あの時に見たエネルギーの流れを真似してみただけだ。そうしたら思ったより簡単に魔法が使えるようになった」

 有明透子は首を捻る。

「私はそんなエネルギーの流れを意識した事は無いけれどね。勇者になった時に自然に使えるようになっていたし」

「私もだな」

 大和先輩も特にそんな意識をしないで使えるらしい。


「私は駄目。真似しても魔法の力になるまでエネルギーが上昇しない」

 一方で川口先輩は魔法は使えないらしい。

「香織はその分別の手段を色々使えるからな」

「道具が色々必要」

「道具を使うのも実力のうちさ。普通の人間は簡単に魔法のエネルギーを励起できないから仕方無い。それでもやれば先生くらいまで出来る」

「あれは論外」

「まあそうだけれどさ」

 大和先輩はそう言った後、また俺の方を見る。

「愛梨や桜に魔法の起動を教えたお礼に一つ魔法を教えてやる。今度のバイトにあると便利だし、正利の属性にはちょうどいい魔法だ」

 おっとそれはありがたい。


「どんな魔法ですか」

「相手の力を吸収する魔法だ。エナジードレインなんて呼んだりする。方法は簡単、他の魔法を同じように対象を見て構えて、魔法を当てた後エネルギーを吸着させて引き寄せる。まあ言ってもわかりにくいから実践してみよう。ここの自然には申し訳無いがあの木を1本やってみる。正利はちょっと離れてよく見ていてくれ」

 言われた通りちょっと離れ、大和先輩の全身と対象の木がみえるように位置どる。

 エネルギーの流れが見える。

 魔法が手から放たれ、対象の木の枝まで到達した後、一部が引き戻される形で手に戻る。

 枝についていた葉が落ち、枝も心なしか色が変わった。


「こんなものだな。植物だとちょっとわかりにくいけれど。要は魔法のエネルギーで対象に触れて、そのエネルギーを引っ張って持ってくる感じだ。動物や人間系統の怪異に良く効く。それじゃやってみろ」

 触れて、エネルギーを引っ張ってくるんだな。

 早速やってみる。

 魔法の起動はいつもと同じで、右手を対象の木に向けて伸ばし、魔法を放つ。

 触れた瞬間魔法で生命力を掴むイメージで握って、引き寄せる。

 お、何かちょっと俺自身の体温が上がった気がしたぞ。

 そう思うと同時に対象にした木が急激にボロボロと崩れ出した。

 さっきまで普通に茂っていたのに枯れて朽ちて粉々になっている。

 何だこの状態は。


「流石に不死者ノスフェラトゥがやると威力が洒落にならないな。本来の属性が合っているんだろう」

 つまりエネルギーを奪われて木が枯れたという訳か。

 確かにこれは使えそうな魔法だ。

 念の為今度学校であの練習空間を出して貰って練習しておこう。

「大和先輩、ありがとうございます」

「まあ少しは先輩らしい事もしないとな」

 結構色々やってもらっているような気はするけれどな。

 そう思っていやいやと思い直す。

 大和先輩は本来は敵なのだ。

 俺を勉強に集中する環境からこんな生活に引っ張り込んだ。

 でもそう思っても今は敵だという思いが出てこない。


「よし、火球と氷玉は出る用になったよ」

「私は吹雪が使いやすいようですわ」

 愛梨や桜さんも魔法を使えるようになった模様。

「羨ましい。私は札や介添物が無いと力を使う事が不可能」

「香織は道具を使う分属性無しで色々な事が出来るからいいじゃないか。なまじ属性が無い分予知や感知に余分なバイアスがかからないし」


「バイアスって?」

 愛梨の問いに大和先輩がそっちを見る。

「なまじ力があると能力だの魔法だのがその力に引っ張られてしまう訳だ。例えば正利は色々強力な体質だけれど火や電気や聖属性といった魔法を使うとダメージを受ける。逆にいまやったような生命吸収なんてやると威力が通常の数倍になるけれどな。

 愛梨の邪視や私の簡易予測も属性が魔に近いからどうしても負の方向に結果が引っ張られる。魔というのは基本的に歪みから生じる力だからな。

 その点香織はそういった力を持たない分、予測や予知、呪いや祝福といった力が中立に出せるんだ。ただ力が無いからどうしても発動させるにはアイテムを使う必要があるけれどな。水晶玉とかカードとかナイフとか。

 まあその辺は色々善し悪しって処だな」

 なるほど。


「とすると透子さんの属性は本来は魔と反対の方向な訳かな? それにしては……」

 うん、愛梨がいいたい事はわかる。

 大和先輩も頷いた。

「誤解されている事が多いが、性的快楽というのは本来は魔と逆、聖の属性だからな。生命の生めよ増やせよというのは正負で言えば正、プラスの方向なんだ」

「なるほど」

 愛梨が頷くのはともかく、張本人も頷いているのはなんだかなと思う。

 その辺自覚は充分にあるようだ。


 

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