第40話 夕食中の直訴失敗

 今回の夕食のテーマはきっと『試験中に食べたかったもの』だ。

 トンカツは卵とじとそのままがそれぞれ1人1枚ずつ。

 カレーは程良く辛い中辛でご飯をかっ込むのには最適。

 それにトマトとレタスとキュウリと茹で卵のサラダがつく。

「今日の夕飯、良くやった。合宿メニューの後にふさわしいメニューだ」

 大和先輩の台詞に川口先輩がうんうん頷きながら食べている。

「そうですね。山とか迷宮ダンジョンですとこういったご飯がどうしても食べたくなるんですよ。登山の世界でも下山後に食べたいメニューとして、カツ丼派とカツカレー派がいると聞いていますけれど、両方を用意するとは思いませんでした」


 そして先生を含む女性陣、つまり俺以外はその台詞通り良く食べる。

 そもそもトンカツ2枚の時点で普通はお腹いっぱいになる筈。

 少なくとも俺はそうだ。

 でも身体小さめの桜さんも胸小さめの大和先輩も食べまくっている。


「カレーだし一人1合半計算で11合炊いたんだけれど足りなかったかなあ」

 愛梨がそんな台詞を吐いて悩んでいるような状況だ。

 飛んできたフォークをキャッチしつつ俺は意見を言わせて貰う。

「いや普通は余ると思うぞ」

「甘いな」

 貧乳先輩が今度はナイフを飛ばしつつ反論してきた。

「丼やカレーはご飯を効率よく消費できるメニューだ。この場合それぞれに対してご飯が2合は必要。つまりカツ丼の頭とカツカレーの両方がある場合、1人当たり合計4合は必要なのだよ」

 おい何だそのアバウトな計算は。


「そんな足し算で食べられるほど通常の人は大食いじゃないでしょう」

「成人の胃は最大限膨れ上がると通常1.2Lから2L程度になると言われている。食物の比重を水と同じと仮定すると、最低でも1キロ以上は入る計算だ。米は7合でだいたい1キロだからな。つまり1人4合は余裕で入る筈だ」

「何か何処か間違っていませんか」

「いや、『家庭の医学』で調べたから間違いない」

 そんな事まで理論武装するな、そう言いたい。

 でも実際に皆さんそんな量を食べているので何とも言えないのが現状だ。

 単に人外の皆さんの食欲が異常なだけなのではないだろうか。

 ちなみに俺は自分の分のカツ2枚をそれぞれ半分ずつ、カレー1皿、生野菜少々食べただけでもう目一杯。

「ダーリン食べないのなら貰うね」

 愛梨が残ったカツを両方さらっていった。


「ところで此処での懇親合宿って何か予定はあるんですか」

「特に何も無いですよ。討伐試験が終わったお祝いと、上級生と下級生の懇親を深める事を目的とした合宿ですから」

「じゃダーリン、明日魔法を教えて」

「私もお願いします」

 そう言われてもだ。

「教えるほどの腕じゃないぞ。有明さんの方がいいんじゃないか」

「私は勇者になって特に意識せず使えるようになったしね。魔法を使えない状態から使えるように教えるのはちょっと自信無い」


「正利は魔法を使えるようになったのか。ならちょいと明日揉んでやらないとな」

 確かに魔女に教えて貰えれば色々魔法を覚えられそうだ。

「お手柔らかにお願いします」

 一方で川口先輩は食欲に取り憑かれている模様。

「明日は刺身が食べたい。あと天ぷら」

「天ぷら用にちょうどいい食材ってあったかな?」

「天ぷら用の植物はある程度この島で手に入るぞ。魚や海産物類はまた愛梨に活躍して貰わないとな。ただこの辺午後はいきなり雨がふってくるし、たまにウミヘビがいるから気をつけてな」

「魚はいれば捕まえるのは得意だけれど、いるのかな」

「結構いると思うぞ。安浦先輩が捕まえていたからな。本人は食べないけれど」


「安浦先輩は甘い物しか食べないですからね」

「天然の寒天というかナタデココみたいな植物もあるぞ。多分実がなっている筈だ。安浦先輩や翠先輩があれに糖蜜かけて食べていた」

「それも美味しそうですね」

 南国での遊び合宿だな、これは。

 楽しくないかと言われれば確かに楽しそうだ。

 でも俺としては勉強をしたいけれど。

 まあこの合宿が終われば家でバリバリとやればいいか。

 夏休みはまだまだ残っているし。


 あ、そう言えば聞いてみたいことが会った。

「あそこに置いてあるプール、あれって風呂用なんですか?」

 お湯は抜いてあるがプールそのものはまだ置いたままだ。

 床面積が広いので邪魔にはなっていないが俺としては色々言いたい事がある。


「そうですよ。ここのお風呂は小さくて余り綺麗でないですから」

 先生に肯定されてしまった。

「一応男子もいるんで目隠し等していただけるとありがたいのですけれど」

 先生に直訴しておく。

 これで明日から少しはましになるだろう。

 そう思ったら。

「安心しろ。アレは混浴だ。だから見えても問題ない」

 貧乳がとんでもない事を言う。

「まずいでしょう、それは」

「今まで事故が起きたことは無いし、大丈夫ですよ」

 なんと先生まで常識が飛んでいたか。


「本当に代々混浴だったんですか」

「ここの部員は代々女子がほとんどでしたからね。どうしてもこの界隈、女性の方が圧倒的に多いので。ここ数年、私が担当するようになってからは男子は安浦君と真鍋君だけですね」

 つまり前例は1人しかいないと。

「まあ安浦先輩は風呂にはいるときは女子に変身していたけれどな」

 ……駄目じゃ無いか、それじゃ。

 つまり結局、代々混浴といいつつ実際に混浴になるのは俺が初めてという事だ。

 よし、明日以降もみなさん入浴中は逃げる事にしよう。

 俺はそう決心した。

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