第6章 夏合宿のおまけ
第38話 体質に合う魔法
到着したのは前の合宿と同じような南国の浜辺、でも違う場所だ。
何よりと違うのは建物があることだ。
先生は小屋と言っていたが結構大きい。
普通の一軒家よりもむしろ大きい建物だ。
建物そのものはログハウス的な造りだが、屋根は草葺きで床が高い独特の造りになっている。
急なハシゴ状の段を上って入る感じだ。
「それではちょっと待って下さいね。今回は10人で」
先生は車を降りると懐から何かを取りだして投げる。
前にも見た人間サイズの紙人形が10体出現した。
「式神い番からに番まで4人は車から荷物を下ろして居間に運んで下さい。残りは中の窓や扉を全部開けて風通しをした後、布団を7組干して、部屋の掃除をお願いします。仕事が終わったら終わっていない仕事を手伝うように。それでは開始!」
紙人形、つまり先生の式神が動き出す。
「大和さんと川口さんは何でしたらどれか個室で休んでいて下さい。7人でしたら全員分の個室はあるはずですから」
「ありがとうございます。寝袋で寝ます」
先輩2人は自分のザックと荷物を持って、ずるずるという感じで小屋に入る。
「1年生の皆さんはもう少し待って下さいね。すぐに掃除が終わると思いますから、その後で」
紙人形の巨大版としか見えない式神が窓を開けたりホウキでゴミを掃き出したり、布団を干したりしている。
相変わらず非現実感が漂う光景だ。
背景はどう見ても日本じゃ無い南国だし。
「暑いねここ、やっぱり」
「これでもここでは冬相当の季節なんですよ。もっとも熱帯モンスーン気候ですから1年通してあまり差はないですけれどね」
「とりあえずジャージ暑いから脱いじゃおっと」
おいちょっと待て、そう思いかけて気づく。
そう言えば下にスパッツはいているって言っていたな。
まあ水着よりはマシと思って無視するのが正解だろう。
そう思ったら、だ。
「何なら水着に着替えない? 海が綺麗だしちょっと遊んでみたいかなって」
こら有明透子そんな事は掃除が終わって建物に入ってから言え。
「そうですね。暑いですしちょっと海なんていいですね」
桜さん流されるな。
「日焼け止めは用意しておきましたからしっかり塗って下さいね。あと下はサンゴ礁とサンゴが風化した砂ですので、靴ははいたままがお勧めですよ」
先生止めろ!
「じゃあ着替えよっか」
すかさず俺は反対側を向く。
ああ海が綺麗だなあ。
後で何か色々着替えながら騒いでいるような気がするが気にしてはいけない。
「愛梨さん大きくていいですね、私は何か成長が遅くて……」
「もみ具合チェック! うむ、これは絶妙」
「透子さんやめて、手つきがやらしい!」
ああ聞こえない聞こえない。
常に女子と一緒の禁欲生活3日目なので実は色々厳しいけれど。
というか厳しすぎるよなこれは。
こういう時は三十六計。
逃げよう。
「ちょっと散歩してきます。何か注意事項はありますか」
俺はそっぽを向いたまま先生に尋ねる。
「特に無いですね。ただこの島、小さいので真鍋君ならあっという間に回り終えてしまうと思いますよ。あと島には危険な動植物はいませんが、海にはそれなりに色々いるので注意して下さいね」
了解だ。
「じゃあ行ってきます」
「あ、ダーリン待って」
待たない。
これくらい離れればいいかな。
後を見ると案の定もうあの小屋は見えない。
さて、何をしようか。
欲求不満解消作業はこの島でやるのは危険すぎる。
勘がいいのか表層思考が見えるのか危険な奴らがいるからな。
何も持たずに逃げてきたので単語帳等も無い。
勿論水着とかタオルすら持っていない。
そして何やかんや言ってここは暑い。
気温も暑いが日差しが酷い。
とりあえず日陰を探そう。
この島はGWの島と違って痛そうな木は生えていない。
でも島の中央側へ行くのはそこそこ下草等が茂っていて気が向かない。
これは自然に日陰になる場所を探した方がいいんだろうな。
北向きの海岸なら少しはいい感じの日陰があるかもしれない。
今は背後側に太陽があるからこのまま進めばいいだろう。
案の定5分もたたないうちに北側の海岸に出た。
木の影がちょうどいい感じの日陰になっている。
日陰に入ると案外涼しい。
海からの風が程良く吹いているからだろうか。
さて、取り敢えずここで休憩するとして何をしようか。
英単語帳くらい持ってくればよかったと思っても遅い。
何かやる事があっただろうか。
昼寝というのが多分正しいが、どうにも眠くない。
とすると……そうだ。
魔法が俺にも使えるか、試すのにちょうどいい。
誰もいないし前は海だ。
さて、俺が使えそうな魔法の種類は何だろう。
飛行能力とか変身能力とかは魔法なのだろうか。
それとも魔法とそういった能力は別のものなのだろうか。
その辺よくわからない。
取り敢えずゲームなんかでは一番簡単そうな火の能力で試してみよう。
力はまず尾てい骨のあたりで発生させるんだよな。
意識を集中させると確かに力の元になる何かが回っている感じがある。
回転を更に加速させ、膨らんだエネルギーを脊椎付近へ上昇させる。
更に脊椎を中心に回転させる感じでエネルギーを増大させる。
うん、ここまでは上手く行っている。
エネルギーが程良く増大したところで。
「
それっぽい掛け声をかけて右手を真っ直ぐに伸ばす。
右手が熱くなる。
火の玉が飛んでいく。
熱い! 痛い!
確かに火の魔法が出来たが右手が酷く痛む。
肘から先が思い切り火傷状態だ。
何でこうなった。
『
あっさり答が返ってきた。
俺自身に流れている血の記憶というか知識だ。
だったら早く気づいてくれよと思う間に右手の熱さと痛さが消える。
これは猛烈な自己治癒能力が発揮された結果だ。
確かに
ならば氷系統の魔法はどうだろう。
同じ方法で試してみる。
「
見た目にも寒そうな風が吹き出す。
付近の熱い空気と反応して濃い霧が出来た。
なお今度はさっきのような痛さは感じない。
なるほど、俺の体質に合わない魔法を使うと俺自身もダメージを受ける訳か。
今のは魔法としては小規模だったから自己治癒能力で何とかなった。
でも合わない属性で強烈な魔法を使うとこっちにもダメージが来る訳か。
なら使える魔法を今のうちに確かめておいた方がいいな。
思いつく魔法を小規模に試してみる。
電撃は駄目、風はOK、水はOKか。
水がOKというのは便利でいいな。
何処でも真水が飲める。
あまり美味しくないけれど。
確か独自能力は
○ 変身能力
○ 飛行能力
○ 催眠及び人を操る能力
○ 生命力を与える回復能力
だったよな。
変身して戻れなくなったら洒落にならないので、まずは飛行能力から。
同じようにエネルギーを溜め、今度は手の先から放たないまま『飛行』を念じる。
お、ちょっとだけ浮かんだ。
行けるか、そう思ったのだがそのまま飛行は出来ず、着地してしまう。
『力不足』
古の血がそんな事を言っているような気がした。
なるほど、まだ力不足か。
でも方法論は間違っていないようだ。
ならこの調子で鍛えればいつか飛行も!
そう思ってふと気づく。
俺は何をしているんだろうと。
こんな事が出来ても社会生活には全く影響は無い。
むしろ隠しておいた方がいい位だろう。
おそらく、多分。
でもここで勉強が出来ない以上仕方無いじゃないか。
俺は自分にそんな言い訳をして思った。
無意味な行為だよな、全く。
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