第37話 試験結果発表

 出たのは折りたたみ式の長テーブルとパイプ椅子、ホワイトボードがある、小さめの塾のような部屋だった。

 窓が無いのがちょっとだけ妙な雰囲気を生み出している。

 テーブルの上にメモが置いてあった。

『お疲れ様でした。これで公認対魔討伐免許試験は終了となります。着替え・荷物整理等はこの部屋で行って下さい。着替え及び整理が終わりましたら次の扉の横にありますインターホンで係員をお呼び下さい』


 なるほど。

「取り敢えずもう厚着の必要は無いよな。なら上はTシャツで」

「そうだね。ダウンとかジャージとかは脱いでいいかな」

「一般人がこの先にいたら脱いでおいた方がいいよね。夏なんだし」

 ただTシャツとジャージのズボンというのは外出着としては結構情けない。

 でもズボンの着替えなんて持ってきていないしな。

 先生の車に置いてきた荷物には入っているのだけれど。


 脱いだ防寒具やジャージの上を何とか各自のザックに押し込める。

「じゃあ行こうか」

「そうですね」

 有明透子がインターホンのボタンを押す。

「はい。登或とある学園高校の生徒さんですね。今参りますので少々お待ち下さい」

 10秒もしないうちに扉がノックされて、開く。

 赤池さんでは無く別の男性だ。

 30歳前後くらいで作務衣を着ている。

「試験お疲れ様でした。それでは試験結果の発表と講評がありますので荷物を置いておかけになって下さい」

 俺達は一度担いだザックをおろし、それぞれパイプ椅子に腰掛けた。


「私は富士浅間神社出向中の宮内庁陰陽大属、田中と申します。赤池の方から引き継いで皆さんの試験の担当をしております。

 それではまず、試験の結果をお配りします。お名前をお呼びしますから手をあげて下さい。まずは有明さん」

「はい」

 有明透子が何かをを渡される。

 次に呼ばれたのが桜さん、そして愛梨、最後が俺。

 多分これは名字のあいうえお順だな。

 成績順だったら悲しいぞ。


 さて、渡されたのは小冊子1冊と紙は2枚。

 紙のうち1枚は『対魔法討伐免許状』。

 つまり試験には合格したという事だろう。

 紙のもう1枚は迷宮内での成績とある。

 パーティ全体の分と俺個人の分両方が記載されている。

 討伐件数と歩行距離、怪異討伐率、討伐した怪異の種類と数、討伐に使用した手段の割合。

 更に体力や物理攻撃力等項目別ににABCDE判定で推定能力が記載されている。


 個人についてもほぼ同様だ。

 俺の場合は、

  ○ 基礎体力  A

  ○ 敏捷性   B

  ○ 物理攻撃力 C

  ○ 魔法攻撃力 D

  ○ 魔法回復力 D

とあり、注釈で『使用しなかったが魔法を試そうとした気配あり。能力的には攻撃魔法、回復魔法ともに使用可能と推定』とある。

 魔法を試そうとした?

 ちょっと考えて思い出す。

 そう言えば有明透子が魔法を使用した際のエネルギーの流れを真似してみたな。

 思い当たるのはあの事くらいしか無い。

 ならあれで魔法が発動する可能性は高そうだ。

 今度安全な場所で試してみよう。


「さて、ご覧の通り3級試験は全員合格です。怪異討伐率は100パーセント、被負傷は0。非常に優秀な成績です。特に怪異討伐率100パーセントというのは久しぶりです。この試験迷宮ダンジョン程度の怪異ではおそらく物足りなかったのではないかと思います。普通は予備のお札を使う最後の怪異ラッシュも実力であっさり踏破していますから。

 今回はこのような状態ですので治療技術や治療魔法等を確認出来ませんでした。しかしその辺りも含め、パーティ全体では2級並みの力を持つと認められます。


 今回3級の資格を取得した事で、公開されている約半数の迷宮ダンジョンに潜る事が可能になります。ですが一般迷宮ダンジョンはこちらのように完全に管理されている訳ではありません。予想外に強力な怪異と出会う危険性も無い訳ではありません。ですのでまずは初級用の迷宮ダンジョン任務ミッションから試して経験を積むことをお勧めします。

 なおこの場所は皆さんが迷宮ダンジョンに入りました人穴から富士山頂を挟んでほぼ反対側、静岡県駿東郡小山町須走にあります富士浅間神社、東口本宮富士浅間神社とも呼ばれます神社の社務所地下1階です。階段を登った先、第1待合室でお迎えの方がお待ちになっています。そこから先は一般の方も入る場所になりますので宜しくお願い致します。

 それでは試験お疲れ様でした」


 無事終了か。

 ほっとしたというか疲れたというか。

 まあ無事に終わって何よりだ。

 それにしても俺も魔法が使用可能と推定されている訳か。

 何処かで試した方がいいかな。

 でも本当は帰って勉強したい。

 折角の夏休み、人と差をつける絶好の機会なのだ。

 でもこの後懇親合宿があるんだよな。

 そんな事を考えながら扉を通り、階段を登って出た廊下を歩くと『第1待合室』と書かれた扉に出た。

 入ってみると……あれ?


「試験お疲れ様でした」

 そういう先生の他、先輩達2人もいる。

「先輩達はもう終わったんですか」

「ああ。2級は1泊2日と短いからな。それに出口がやっぱり此処だったりした訳だ。大体30分前くらいに出てきたところだな」

 ただ見た限り先輩達は大分疲れている感じだ。

 川口先輩は居眠りしているし、大和先輩も目にクマが出来ている。


「2級はやっぱり厳しかったんですか」

「合格はしてきたけれどな。ただ3級と違って休憩用のお札なんてないからさ。交代で仮眠するか一気に抜けるか相談して、一気に抜ける方で突破してきた訳だ。そんな訳でほぼ1日寝ていない。幸い香織がいるから道に迷うことは無いけれどな」

 その状態で勝てない相手も出てくる迷宮ダンジョンを攻略する訳か。

 しかも道迷いも存在するような場所を。

 こっちの迷宮ダンジョンと比べると随分大変なようだ。


「それでは懇親合宿の場所へ行きましょう。大和さん達は早くちゃんとした場所で寝たいでしょうから」

 先生が立ち上がると同時に川口先輩も起きて立ち上がる。

 居眠りをしていてもその辺は把握しているようだ。

 建物を出るとすぐ前が駐車場。

 見覚えあるプラドが停まっていた。

「悪い。今日は3列目で寝させてくれ」

 大和先輩と川口先輩は3列目へ。

 ならば、だ。

「助手席は俺が乗りますよ」

「なら1年女子で2列目だね」

 愛梨が文句を言うかと思ったらあっさりOKしてくれた。

 運転席側から有明透子、桜さん、愛梨と乗車する。

 桜さんを間に挟んだのは有明透子対策か、単に桜さんが一番小柄だからか。


「それでは行きますよ」

 車は駐車場を出て走り始める。

「ここの神社は自動車用の入口が整備されていましてね。だから気軽に車で来ることが出来るんです」

 入口とはどういう意味か、それはちょっと走ってわかった。

 神社の外をぐるっとまわり、行き止まりになっている処で車が例の空間に入る。

「車で短絡路に入れるようになっているんですね」

「あの道には恒久的な認識阻害がかかっていますから普通の人には出入りが見えないんです。例え出入りする車を見ても意識できないようになっています」

 なるほど便利だ。


「懇親合宿はどんな場所なんですか?」

 愛梨が尋ねる。

「新人歓迎合宿で行ったのと同じような南の島ですけれど、こっちは宿泊できる小屋があります。布団もありますけれど、念の為行ったらすぐ干しておきましょう。シーツは学校から持ってきたから大丈夫です」

 なるほど。

 テント泊ではないのが有り難い。

 ただどれ位の大きさなのだろう。

 小屋と言っているからには小さいのかな。

 一間で全員一緒に雑魚寝となったら最悪だ。

 できる限り愛梨と離れて寝るようにしよう。

 奴は寝て意識が無い状態でも襲ってくるからな。

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