第36話 最後の難関?
朝。
トマトクリームスパゲティを食べ、テントや寝袋を畳んでザックへ。
「愛梨ちゃん、脚は大丈夫?」
「うん。何かあったらダーリンにおぶって貰うし」
おいおい勘弁してくれ。
「この番号がほぼ等間隔なら、午前中には余裕で終わる計算だよな」
「だね。それじゃ行こうか」
そんな感じで歩き出す。
脚の調子が悪くなっては困るから、基本的に歩く速度は愛梨にあわせている。
でも今日はあえてゆっくり歩くよう心がけておく。
愛梨が心配だからというより俺が愛梨を背負って歩く事態を避けるためだ。
これを間違ってはいけない。
「ダーリン」
「わかった」
3日目にもなると化物の気配なんてのもわかるようになる。
俺も愛梨に言われる前に例のヘビもどきの気配に気づいた。
ちょい速めに歩いて前に出て、そのまま剣で跳び出たところをさくっと始末する。
「何か慣れてきたよね」
「訓練用の迷宮と違って確かに魔物の気配というのを感じますわ」
「あの訓練用空間でもそういう気配はあったよ。単に慣れただけじゃないかな」
「そうね。私もやっと感じるようになったし」
なるほど。
わかるようになったのは俺だけでは無いという事か。
そういう意味ではこの洞窟
でも俺としては参考書や問題集でも解いた方が精神的には良かったな。
こんな実戦の感覚とか知識とかが現代社会で役に立つかどうか怪しいし。
「あら、今度は私の出番ですね」
「桜ちゃんと退治しとくね」
コウモリも飛来前にわかるようになった。
ヘビもどきよりもこっちの方が簡単かな。
集団で飛んでくるし注意していればバサバサという音も聞こえるし。
あと桜さんのナイフ捌きはもう名人芸レベルになっている。
小走りくらいの速さで動きながら前後左右から襲ってくるコウモリを殲滅する。
きっとRPGなんかでの全体攻撃の剣技ってこんな感じなのだろうな。
俺はもう見ているだけだ。
何せ前から2番目にいる有明透子の処まで辿り着けるコウモリすらほとんど無い。
結果的にゆっくり歩くペースのまま隊列は進んでいく。
ヘビもどきが出ようとコウモリが出ようと担当が先行して片付けるからだ。
時計で確認した感じでは10分に1番ペースで順調に進んでいる。
そしてまだ午前8時前なのに。
「もう99番か」
「次はゴールですね。何か名残惜しいです」
という状態。
あと1番という場面でそう言われると、確かにそうかも……
そう思いかけていや待ったと気づく。
見るとどうやら全員が気づいているようだ。
「コウモリとヘビがいっぱい、うんざりする位。これはちょっと凄いかな」
「だね。どうしようか」
この先50メートル位の場所に、ヘビもどきだのコウモリだのの気配がうじゃうじゃっと感じられる。
何だこれはという感じだ。
ちょっと洒落にならない。
「簡単なのはお札を使う事だよね」
愛梨が言う通りだ。
まだ使っていいお札は1枚ある。
相手がヘビもどきやコウモリなら近づけない筈だ。
「でもちょっと本気で退治してみたくない? これが最後なら思い切りよく能力を使えるし。それに透子さんもまだ攻撃魔法、隠しているんでしょ」
愛梨の不穏なお誘いに有明透子が頷く。
「ここで使えそうなのは全体攻撃魔法の
「私も邪視を温存しているし、ちょっとだけ試してみようよ。駄目そうならさっさとお札を使えばいいし」
「そうね、こちらに戻ってから攻撃魔法を試していないからちょうどいい機会だし」
2人が邪悪っぽい笑みを浮かべる。
おい大丈夫か。
「念の為ここでも全力は使わないようにしよう。半分位の力、ゲームだとMP10が今の値なら、MP5は残しておく程度で。
それではぎりぎりまで近づいて、まず私が
「わかった。ダーリンと桜ちゃんは危ない程度に近づいて来た怪物の始末をお願い」
先頭は有明透子、次が愛梨という今までにない隊列で前進を開始。
怪物の気配が近づき、騒ぎはじめた直後。
「
有明透子の魔法が放たれる。
近づきはじめたコウモリがばたばた落ち、ヘビもどきが跳び出す前に息絶える。
でも。
「まだまだ先にいる。もう少し進んでまた魔法攻撃かける」
「有明さん力の方は大丈夫?」
「この魔法なら6発は撃てる。だからあと2発は余裕」
「前進する間こっちに来そうなのは足止めするね」
2人ともやる気満々だ。
50メートル位歩くとまだ生きている怪物の気配が増えてきた。
ただ動きは思い切り鈍っている。
瀕死状態というのが半分、何とか動けるのが半分というところか。
何とか動けるものも通常の動きは出来ない。
コウモリは飛べず地面でのたっているしヘビもどきは生きてはいるが威嚇のポーズをとるのがやっとという状態。
「では2発目、
のたっていたコウモリもヘビもどきもそのまま動きを止めた。
「便利だな、魔法って」
「でも回数使えないし。だからここぞという時だけしか使えない」
更に進む。
何と、まだまだ残っていた。
でも気配的にこれが最後かなと感じる。
「それじゃ3発目、
何となく有明透子の方を見る。
お、魔法と思われるエネルギーの流れが見えるぞ。
エネルギーは身体の中心線、尾てい骨あたりから発生。
脊椎のあたりを渦を巻くように回転しながら増幅して上昇、頭頂付近まで達した後、同じ経路を下がって行った後右手へと集中。
集中したエネルギーは右手から放たれたた途中で変質、拡散して吹雪になる。
なるほど、こんな感じで魔法が発動する訳か。
尾てい骨あたりで発生させて脊椎に沿って回転させながら上昇させる感じ。
同じようにエネルギーが出るか、尾てい骨辺りから回転して上昇するイメージを軽く意識してみる。
何となくエネルギーの気配を感じた。
どうやら同じ要領で何かできそうな感じ。
でもここで試すとどんな結果になるかわからないから取り敢えず中止しておく。
あとで試してみよう。
まあそう簡単に魔法なんて使えるとも思わないけれど。
「あとは愛梨ちゃんお願い」
「うん、任せておいて」
今度はいつもと同じ愛梨と俺先頭で歩く。
若干魔法のかかりが弱かったのか若干生命反応があるコウモリがいたりする。
ただ愛梨が見つけ次第邪視で抹殺。
だから結果的に歩く速さのまま進んでしまう。
俺が出なければならないような怪物は感じられない。
「あ、100番が見えたよ」
あっさりと到着した。
付近にはもう敵の気配は無い。
「今度は出口を探さないで良さそうですね」
『出口はこちら』という扉が洞窟の壁に張り付いている。
「なら行こうか」
「その前に武器だけはしまっておこう。どんな場所に出るかわからないし」
「なるほど、そうだね」
そんな訳で有明透子を除く3人は帯革やら剣やらナイフやらをザックにしまう。
上下学校の体育ジャージというのがいまいち。
でもこれで一般的な場所に出てもなんとかなる格好にはなった。
忘れ物が無いか一応確認した後。
「じゃ行くよ」
扉を開けて向こう側へ。
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