第35話 スキンシップ? 事案
今日は午後6時の時点で90番まで進んだ。
もう少し進めるのだがあえて余裕を持たせた感じだ。
ここが水場だったというのもある。
けれど他にも……
「愛梨ちゃん、本当に足、大丈夫?」
そう、愛梨が足が痛いかも、と言いだしたのだ。
よく考えれば愛梨以外は常人ではない。
だからもう少し気を使えばよかったかなと反省する。
「大丈夫。透子さんにヒールかけて貰ったら大分楽になったしね。あとはダーリンにマッサージして貰えばいいかな」
おい愛梨。
「マッサージなんてやり方わからないぞ」
それに女の子の足を触るなんてのも何だかなと思うのだ。
「適当に揉みほぐせば大丈夫だよ。なんなら足以外もサービスで触ってもいいよ」
こら愛梨!
「別にやってくれなくてもいいよ。そのせいで明日歩けなかったらダーリンにおぶって貰うかお姫様抱っこで行くかすればいいしね」
おい!
双方の状況を秤にかける。
結論が出た。仕方無い。
「わかった。やるから足を出せ」
「なんならジャージのズボン脱ごうか」
「脱がなくていい!」
「一応下にスパッツはいているから大丈夫だよ」
「だが断る」
「じゃちょっと待って。靴下脱ぐから」
「こっちはその間に夕食作っておきますね」
今日はスパゲティだからご飯炊きは必要無い。
だから愛梨無しでもご飯は出来る。
愛梨は靴下を脱いで、ウエットティッシュで足を丁寧に拭いてから俺の方へ足を伸ばす。
「それじゃお願い」
「はいはい」
仕方無い。
取り敢えず踵の上辺りからゆっくり親指の力を使って上に向かって揉んでいく。
「んー、いい感じ。あ、もう少し上、そこの辺り集中的にお願い」
単なる足なんだけれどスベスベだし何だかなあ。
別に変な気分にはならないけれど、愛梨とは言え女の子だ。
脚とは言え女の子の肌を触るのなんてまず無いし。
とりあえずクラスの連中に見せられない事だけは確かだ。
木田余あたりに何を言われるかわかったものじゃない。
そんな事を思いつつ踵の裏側と脛の裏側を両足とも集中的に揉みほぐす。
「やっぱりダーリンの手だと大きさと力が違うよね。気持ちよくて癖になるかも」
「何やかんや言って正利さんは愛梨さんに優しいですよね」
「愛梨ちゃん可愛いしね」
おいちょっと待った!
「非常事態だからやっているだけだ」
「またまた、ダーリン照れちゃって」
「ならこれで終わりな」
「待って、もうちょい」
明日歩けなくなると困るから仕方無い。
だから今回だけは愛梨の希望通りにやってやる。
「うーん、ありがとう。大分楽になったかな」
愛梨がそう言った頃には既にお湯が沸き、スパゲティを入れたところだった。
「念の為ストレッチとかしておけよ。明日もある程度歩くだろうしさ」
「大丈夫大丈夫」
「本当かよ」
「直接スキンシップしたしね。ダーリン成分補充完了! って感じ」
おい待て。
その言い方は何かイヤらしいぞ。
「単にマッサージしただけだろ」
「スキンシップには違いないじゃない」
「頼むから学校で言うなよ」
まったく。
取り敢えず水場で手を洗ってザックから自分の食器を出しておく。
「明日で終わりだと思うと、この洞窟もちょっと名残惜しいですよね」
桜さんが微妙な事を口にした。
「そうかなあ。ずっと同じ景色だし空も太陽も見えないし」
「でも洞窟歩きなんて滅多に出来ないじゃないですか」
桜さんはどんな時でもプラス思考というか何と言うか。
俺としては桜さんより愛梨の意見の方に賛成だ。
さっさとこの穴蔵から抜け出したい。
「ただ気を抜かない方がいいと思う。パンフにも教えて貰ったWebにも、ここの中に出る怪異について説明は無かったし。だから運が悪いとあの2種類より遙かに凶悪なのが出るかもしれない」
有明透子がそんな縁起でもない事を言う。
「もしそんなのが出たらどうする?」
「3枚目のお札を使いつつ逃げられる距離で様子を見るしかないね。ここまで案内が懇切丁寧な
まあそんな事は無いと思うけれどね」
「透子さんは用心深いですね」
「前いた世界だと運が悪いというだけで簡単に人が死ぬし。ここではそんな事は無いと思うけれど」
確かに怪物があの2種類とは何処にも書いていなかったな。
訓練
そういう意味では有明透子の用心も正しいのかもしれない。
まあ実際は進行方向の矢印まで書いてある初心者試験用
あくまで心構えとしてはそれくらいあった方がいい。
そういう事だろう。
「さて、そろそろスパゲティ、大丈夫じゃないかな」
箸で茹で上がったスパゲティを鍋から掬うのに一苦労。
今回は茹でたお湯を捨てるわけにはいかない。
なので面倒でも箸で頑張って掬う。
「この程度は残ってもいいよね」
「許容範囲でしょう」
というところで冷凍野菜をお湯に投入、再沸騰を待つ。
「スパゲティの上にスープの粉をかけておけばいいのかな」
「そうですね。あととろけるチーズを1人2枚、食器に入れてお湯が熱いうちに溶かせば」
ちなみに肉は今日も鶏ハムと焼豚が用意してある。
「今日の焼き豚は何か甘い匂いがするね。色も赤いし」
「今日の焼豚は単品でもつまみとして食べられる中華風。五香粉の香りつけて、最後に外側に水飴塗ってさっと魔法で焼いて」
そうこうしているうちに野菜入りお湯が再沸騰。
スパゲティとチーズ、粉末クリームスープの素が入った食器に野菜と汁を入れ、各自箸でかき混ぜれば完成だ。
「いただきまーす」
という事で夕食開始。
うん、スパゲティもちゃんとチーズクリームソース風になっている。
「あ、この焼き豚、ちょっと未体験の味」
「本当だ。美味しい」
有明透子も料理が上手だよな。
このスパゲティも作り方は簡単なのになかなか美味しい。
鶏ハムは何にでもあうし今日の焼き豚はちょっと主張が強いけれど美味しいし。
これで大食漢で肉食で女の子好きで無ければ……
実際この実態を知らないうちのクラスの男子共にはモテモテだしな。
その分俺に風当たりが強かったりするのだけれど。
そう考えると愛梨って結構モテそうな気がする。
有明透子のように爆食でも肉食でも同性好きでもない。
顔も可愛い方だと思うし邪視なんて普通の人は気づかないし。
同じ中学の方で何か妙な噂でもたてられているのだろうか。
本人から冗談めかして気に入らない奴は交通事故とか聞いたけれど。
でも性格も悪くは無いと思うのだ。
俺としてはうっとうしいけれど。
なんて考えてふと気づく。
別に俺は愛梨のことを好きという訳じゃ無いからな。
単に同じ課外活動にいるだけで。
あと多少色々あっただけで。
そうだ。
俺はそもそも勉強して一流大学に入るためにこの学校に来たのだ。
では何故洞窟の中で女の子3人と飯なんて食べているんだろう。
理由はまあ色々あるけれど要は成り行きとしかいいようがない。
思い返してみたが、残念ながら此処に俺がいるという間違った事態に至らない方法は思い浮かばなかった。
考えても無駄な事は無駄だ。
取り敢えず帰ったら問題集でも真面目にやるとしよう。
それまではまあ、間違った事態も気にしない事にして。
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