第34話 2日目開始

 愛梨は寝相があまり良くない。

 合宿2回目での俺の感想である。

 気がつくと足が乗っかった状態で、それ以外も背後に密着状態になっていた。

 寝袋カバーと寝袋越しでも体温は伝わる。

 少なくとも触れている部分は暖かいと感じる。

 これは実体験だから間違いない。

 体験する気は無かったのだけれど。


 それでも何とか眠れたのはまあ、俺も大分慣れてきたという事だろう。

 スマホの目覚ましが鳴るまで結構ぐっすりと寝させてもらった。

「寒いよね、寝袋から出ると」

「外は夏なのですけれどね」

「でも1時間以内に撤収しないと怪異が出てくるし」

 仕方無く起きる。

 テントの外は更に寒い。

 体育ジャージの上に綿入りの防寒着を着込んでいるのだがそれでも寒い。

 でも仕方無いから起きて、お湯を沸かしながら寝袋やテントをたたむ。


「今日は一日中この中だよね」

「その予定ですね」

「長いよね本当に。外が見えないというのが何だか」

「でもここはまだましだと思う。番号であと幾つってわかるし。どの辺まで行ったのかわからないのが普通だよ」

「そう言われればそっか。40まで来たからあと60だもんね」

「今日も40進めば明日は20でゴールか」

「今日はもう少し進めるんじゃない?」

 そんな事を話しながら朝食。

 ボイルしたソーセージとそのお湯で作ったスープとご飯だ。

 濃いめのクリームスープだとそれなりにご飯のおかずにもなる。

 ソーセージが1人6本というのもあってしっかり食べた気にもなる。

 なお有明透子はこれでは足りないので鶏ハム2枚を追加。

 その辺はまあお約束なので誰も気にしないけれど。


「ちょうどご飯無くなったね。鍋はどうする、洗っておく?」

迷宮ダンジョンで人の気配残したくないし、環境汚染になると嫌だからそのままでいいかな。スパゲティ茹でるときにある程度取れるだろうし、それで駄目なら外に出てから洗えば」

「そっか、そうだね」

 食器はウェットティッシュで拭いて鍋は拭ける部分だけ拭いてザックにしまう。

 マットをそれぞれザックにくくりつけたら出発完了だ。


「時間は何時?」

「あと10分位大丈夫」

「ならその間一気に進まない? 番号1つくらいは行けるよ」

「そうですね」

 おいおいいきなりそう来るか。

 まあザックを背負っていても重さはほとんど無いしな。

 そんな訳で軽くランニングペースで一気に進む。

「41番通過! 思ったより早いよね」

「もう少し走れますね。時間はどうでしょうか」

「あと4分。残り1分になったら教えるから」

「ならそれまで今のペースで」

 大丈夫かな愛梨は。

 俺や桜さん、有明透子は普通の体力じゃ無いから問題ないけれど。

 

 そして。

「あと1分。そろそろいつも通りに警戒しよ」

「そうだね。ちょっと疲れたし」

「でもすぐ先に42番が見えますよ」

「あ、本当だ」

 無事2番分進んだようだ。


「これって1番分、どれ位の距離なんだろう」

「正確な値はわからないですけれどね。今の感じだと1番あたり600から700メートル位でしょうか」

「でも1番あたりの距離が同じとは限らないし」

「それもそうだね」

 仮に600メートルとすると100番で60キロか。

 戦闘無しで普通に歩けば1日で何とかなりそうだ。


「あ、早速だけれど嫌なお知らせ。あの番号がある先に何匹も飛んでいる。毎度お馴染みのコウモリみたい」

「なら私が先に行きますわ」

「私が2番手、真鍋君は愛梨ちゃんのガードね」

「はいはい」

「後は大丈夫みたいだよ、今のところ」

 これがあるから距離とか時間とかが読めないんだよな。 

 そう思いつつも俺は剣と盾を構える。


 コウモリが俺達にも見える程度まで飛んできた。

 桜さんが一気に飛び出す。

 両手でコンバットナイフを振り回し一気に蹴散らすという見た目にも危険な攻撃。

 でも本人曰く相手より速いから問題ないらしい。

 漏らしたコウモリで近づいて来たものは有明透子の剣でスパスパとやられる。

 こっちは剣の速さと正確さという感じだ。

 結局俺の所までやってこないままコウモリは全滅した。

 昨日同様だ。


 元の隊列に戻って再び歩き始める。

「ゲームだったらとっくにレベルが上がっているだろうなあ」

 愛梨がそんな事を口に出す。

「愛梨は倒していないから経験値が入らないんじゃないか」

「うそ、それなら次は少し倒しておかないと」

 おいおい。

 自分で『ゲームだったら』と言っていてそれは無いだろう。


「レベルなんて現実には無いだろ。有明の行った世界はどうだった?」

「向こうの世界にも無かったな。レベルなんて可視化してわかりやすくする為の物だと思うし」

「ですよね。ならどうすれば新しい能力を身につけられるのでしょうか」

 確かに俺も使えない能力が色々と残っている。

 その辺が使えれば大分楽になると思うのだけれども。


「基本的にはわからない、そう言うのが一番正しいと思う。勿論魔術仕掛けの試練とかで得られる能力もあるけれどそれは例外。本当に困った時に思いつくか、日々訓練しているうちに気づくか。何もしていなくてもいきなり思いつくなんてのだってあるし。でも魔物を何匹倒したからレベルアップして覚えるなんてのは多分無い。それはきっとゲームだけ」

「有明は現実的だな」

「そういう世界でちょっとだけ暮らしたから」

 なるほど、正しい。


 ところでちょっと思いついたので言ってみる。

「ところで今2番進んで思ったんだけれど、御守りを使用して10時間一気に進むというのは方法論としてどうなんだろう。俺自身としてはあまりやる気はないけれど、あくまで方法論として」


「これが試験用でなく普通の迷宮ダンジョンなら、それもアリだと思うけれど」

 そう言って有明透子は続ける。

「この迷宮ダンジョン、どう見ても通常の洞窟じゃ無い。こんなにずっと続いていて高さも幅もほぼ同じ、おまけに足元も砂利道程度には整備されているなんて場所は自然にはありえないと思う。

 だからこれはきっと試験用に別空間を使って作った人工的な迷宮ダンジョン。ならばこの中で2泊3日過ごす事もクリア条件としてあるのかもしれない。むろんそうでない可能性もあるけれど。それにお札は3枚まで使っていい。2泊3日用としては1枚余分にある。その辺に何か作為があるのかもしれない。

 その辺を考えると取り敢えず相手の想定通りに動いてみるのが一番正しいんじゃないかと思う」


 うーむ、なるほど。

 確かにそうだな。

「なるほど、そこまで考えるんだね」

「多分そこまで考えなくてもいいのだろうと思うけれどね」

「でも確かにその方が間違いないと思います」

 俺も言われてみてそうだなと思う。

「なら昨日同様、普通かつ無難に進むべきと言う訳か」

「そう思う」

「そだね」

「同意です」

 そんな話をしながら42番を通過。

 俺達は歩き続ける。

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