第32話 試験開始

「それでは試験を開始します」

 台詞と共に縄梯子が巻き上げられていく。

 さて、周りを見ると……

「何処にも入れそうな穴は無いよね」

「そうだな」

という状態だ。

 つまりここは短絡路を使うのと同じ方法で入口を探す必要があるのだろう。


 でもその前に。

「取り敢えず武器を出しておこう。何が出てきてもいいように」

「そうですね」

 一応手を伸ばせばディパックの口から取り出せるようになっている。

 俺はまず帯革を取り出し腰に巻くと、バックラーを左に、剣を右に装着する。

 他の皆さんもそれぞれ用意をしているようだ。

 例外は有明透子。

 奴は必要に応じて自動で適切な形の武器を取り出せるから準備の必要は無い。


 さて、装備を準備したらいよいよ入口探しだ。

 装備を装着したら周りを見回す。

 あまり広くないので探す程でも無い。

「入れそうな場所、1箇所しか無いよね」

「確かに」

「そうですね。つまりここから入れと」

 俺を含め全員、同じ1箇所だけしか見つけられなかった。


「一番簡単な試験用だしわかりやすくなっているんだろ、きっと」

「そうだね。じゃいつも通りの順番で行く?」

「それが一番ですね」

 いつも通りの順番というのは、前が俺と愛梨、後が桜さんと有明透子。

 つまり訓練空間で歩いている順番だ。

「それじゃ行こう」

 俺の目にはチラチラしているように見える入口から中へ入る。

 うん、入口がさっきの場所で間違いなかった。

 入った先も洞窟っぽい場所。

 だが壁に『3級試験用迷宮 1番 進行方向は←です』としっかり記してある。


「わかりやすいというか、風情が無いよね」

 愛梨の意見に俺も同意だ。

「この際ですからわかりやすいことは良しとしましょう」

 桜さんの常にポジティブな捉え方は流石だと思う。

「それでどう、怪異とかは」

「今のところは見えないよ」

 なるほど。

「ならサクサク進んでさっさと終わらせましょ」

「だね、じゃあ行こ」

 俺達は矢印で示した方向へと歩き出す。


 洞窟は訓練空間と同じで2人が並んで楽に歩ける広さ。

 下も平らで歩きやすい。

 本当は真っ暗なのだが俺達は全員夜目がきく。

 厳密には有明透子のみ魔法で夜目がきくようにしているようだけれど。

 そんな訳で明るい地下道と同様さくさくと歩いて行く。


「それにしても単調だよねこの洞窟、これを2泊3日歩くと思うと飽きるよね、間違いなく」

「だな。あと矢印が書いてあった意味がわかるな。これじゃどっちに進んでいるのか、見失ったら前後わからなくなる。怪異と戦闘の時はその辺を意識しないと」

「戦闘時には私、あえて後方に下がった方がいいのかな。次に進む方向を間違えないように。透子さんは向こうの世界ではどうしてたの?」

「マッピング魔法があったんですけれど、残念ながらまだ私は習得してないです」

「うーん、残念」

 そんな事を話しながら歩いていく。

 なにせ風景が単調だ。

 同じような洞窟が延々と続く。

 話しながらでないととてもじゃないけれどやっていけない。

 怪異とかは愛梨が見つけてくれるだろうし。


「この単調さに耐えるのも訓練と言うか試験内容なのでしょうね」

「そんな感じだね。普通の迷宮ダンジョンなんかもそうなのかな」

「私が向こうで行ったことがある迷宮ダンジョンは枝分かれして迷いやすいし怪物モンスターも出たりするし。だからここまで単調で退屈という事は無いですね」

「そういう意味では単調なのも有難いという事でしょうか」

「そうだね。あ、ちょい先に何か書いてあるよ」

 確かに壁の様子が違う感じなのがわかる。

 近づいてみると……


『3級試験用迷宮 2番 進行方向は←です。

 ここから怪異が出る可能性があります。

 この水は飲用可能です。次の水場は10番です』

 その下に湧水がある。

 

「親切なのはいいけれど何だかね」

「初級用という事なのでしょう」

 確かになんだかなという気もする。

 初心者用とはいえ至れり尽くせりだ。


「この水美味しいのかな」

「一応湧水ですしね」

 手を洗ってすくってみる。

「うん、美味しいような気がする」

「富士の天然水ですね」

 この空間が本当に富士山麓にあるのかは謎だけれどな。

 まあ確かにうまいのでもう少し飲んでおく。

 少しだけ気分がリセットされたような感じだ。


 全員が水を飲んでちょっとだけ休憩した後。

「さて、そろそろ行きますか」

「そうですね。まだ先は長いし」

「これからは先をより注意しないとね。出るってわざわざ書いてあるし」

 そんな事を言いながら荷物を背負い、先に進みはじめる。


 歩き始めてすぐ。

「止まって、10メートル先右側下。あの蛇みたいなのがいると思う」

「わかった」

 剣と盾を構え、念の為に用心しながら俺一人でゆっくり近づく。

 ふっと気配を感じた。

 そこだな。

 端っこにある岩の影から何かが飛び出してくる。

 振り下ろした剣が蛇の頭部分に命中。

 この剣の刃はそれほど鋭くない。

 だからそのまま下まで振り下ろし、地面と剣で蛇の頭をたたき割る。

 残った胴体も念の為剣で刺しておいた。

 見ると訓練迷宮で出た蛇の化物とそっくり同じ。

 頭と胴が大きくて身体が短い、ツチノコのような異形の蛇だ。


「動きも反応も訓練の時と同じだな」

「というかあの訓練迷宮がこっちを模したのでしょうね」

 どっちにしろ凄い再現度だ。

 つまり訓練迷宮での化物の動きはかなり信用出来る訳か。

「ならあのコウモリもきっと出てくるんだよね」

「この2種類だけなら問題無いですけれどね」

「でも一応気をつけて行きましょう。それにまだまだ先は長いですし」

「だね。じゃ行こうか」

 俺達は再び歩き始める。

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