第5章 夏合宿は討伐試験!

第31話 試験の説明

 本来なら都和先生の車で高速道路を経由して約3時間ちょっと。

 実際は学校裏から例の短絡路を経由して約5分。

 車は林の中の駐車場へと到着した。

 なお今回乗車しているのは先生の他には1年生4人だけ。

 2年生2人は明日、土子園どこぞの高校と一緒に出るとのことだ。

 迷宮用以外の荷物は車に入れたまま、迷宮ダンジョン用装備を背負って出る。

 鳥居と駐車場があるだけの場所から歩く事3分程度。

 昔風だが最近出来たらしく木がまだ新しい1階建ての建物に到着した。

 この建物は観光案内所とトイレのようだ。

「普通のトイレは此処が最後です」

との事なので、念の為トイレに行った後、横の観光案内所へ。


「失礼します。予約しました登或とある学園高校の都和です」

 受付で先生がそう告げると作業服姿の若い男性が出てきた。

「お疲れ様です。本日のご案内をします赤池です。よろしくお願いいたします」

 こちらも頭を下げつつちょっと思う。

 この人はどういう仕事の人だろう。

 他に案内所には市役所の事務員と思われる人1名とボランティアガイドと思われる高齢の男性3人。

 先生は赤池氏に俺達4人の名前を記載済みの名簿を渡す。


「それではご案内します」

との事で赤池氏について外へ。

 1段がやけに長い緩やかなコンクリート舗装の歩道を歩きながら赤池氏が説明をはじめる。

「まずは一般的な観光案内から。ここは16世紀終わりから17世紀初頭頃、冨士講の開祖長谷川角行上人が修行を行い、仙元大日神の啓示を得、また入滅した場だと伝わっています。その事から江戸時代に富士講信者が聖地とするようになり、修行の場及び侵攻の対象となったのものです。この先に碑塔が沢山建っていますが、それらは富士講信者が参拝の記念に建立されたものです。そのうち6割が江戸の冨士講によって建立されています。また角行上人をはじめ冨士講信者の墓石も数多くみられます」


 碑なのか墓なのか、一見墓石サイズのものが多数建っている場所に出た。

 正面には木造の小さな神社らしき建物がある。

「ここには元々光侎寺というお寺があったと言われています。明治時代の廃仏毀釈により浅間神社となり現在に至っています。現在の社殿は平成の建物でまだ新しいものです。

 さて、これから人穴の方へご案内します。角行上人が修行したという溶岩洞窟で、伝説では江ノ島まで続いていると言われています。ただ現実には80メートル程先で細くなって人が通れなくなっており、更にその先で閉塞している事が確認されています。またこの人穴そのものが人と関わった歴史は更に古く、鎌倉時代の歴史書『吾妻鏡』にもこの中を探検した話が記載されています。さて」

 社殿に行かず右側に曲がり、石製の低い柵の前で赤池氏は立ち止まる。


「これから人穴洞窟に入りますが、照明等は宜しいでしょうか。着替え等は中に入ってから出来ますけれども」

 赤池氏と先生はそれぞれ懐中電灯を出す。

「大丈夫です」

「では洞窟の中に参ります」

 周りは草が茂っているが、よく見ると洞窟がぽっかり口を開けている。

 そして足元は石段だ。

 高さはちょっと気を抜けば頭をぶつけそうな位、幅は3人並んでも大丈夫な程度。


 下向きの石段を降りると中はそこそこ広い。

 どうやら宗教施設としてか観光施設としてかそこそこ整備されているようだ。

 木造の祠があったり石仏に線香や蝋燭を供えていた跡があったりする。

 足場は岩のようで比較的平らに整備されて歩きやすい。

 奥へ奥へと入っていって、横に縦穴がある手前で赤池氏は立ち止まる。

 なお少し先は崩れていてそれ以上は進めないようだ。


「さて、それでは宮内庁陰陽寮公認対魔討伐免許3級試験の説明をさせていただきます。今回の試験は富士宮市観光協会出向中の宮内庁陰陽大属、赤池が担当します。

 これから皆さんは縄梯子でここの縦穴を降りていただきます。3メートル程降りていただきますと4畳半位の広さの場所に到達します。この場所からの出口は通常の方ですと探せないようになっております。そこがスタート地点です。

 スタート地点から縄梯子を使わず、つまりこちらに戻らずに先に進んでいただきます。2泊3日、つまり72時間以内に出口へ到達する。それが今回の目的です。今回の試験コースは基本的に一本道で迷うような場所はありません。所々に1番から99番までの番号も書いてあります。数が多くなるように進んで下さい。100番がゴールになります。なお距離等はあえて言及しません。そこまでは宜しいでしょうか」

「はい、大丈夫です」

 有明透子がそう答え、俺達も頷く。


「結構です。それでは説明を続けます。

 進路上には若干の怪異、つまり化物が出現します。それらの怪異は倒しても倒さなくてもかまいません。ですが襲われると怪我をしたり体力が一気に減少したりする可能性があります。ですので倒すなり避けるなりして下さい。


 これから10時間有効のお札を4枚渡させていただきます。これは封を開けるとその後10時間は怪異が近づいてこないというものです。3枚までは使っても試験に減点はありません。4枚目を使った時点で試験は中止になり、こちらから迎えを向かわせます。

 ですのでこれ以上進めないような事態になったら全ての封を開けて下さい。またこちらでも遠隔でモニターしておりますので、こちらがこれ以上進めないと判断した場合は試験中止として救援を向かわせます。通常10分以内で到着するのでお札を有効にしたままその場でお待ち下さい。


 今までの説明をまとめるます。

  ① 怪異を倒したり避けたりしながら進んでいく

  ② 100番まで到達すればゴール

  ③ お札を4枚使うと失格で、救援隊が向かう

  ④ その他大怪我等試験続行が不可能と判断した場合も救援が向かう

 説明は以上になります。宜しいでしょうか」

「はい、大丈夫です」

 有明透子がそう答え、俺達も頷く。

「それでは下に降りていただきます。降りたらお札をお渡しして、私は上に戻り縄梯子を撤収します。私が上に戻ったら『試験開始』を告げます。その時点から72時間以内に出口を目指して下さい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る