第29話 かなり厳しい2級の迷宮

 その後やはり割としょっちゅうツチノコもどきが出てきたし、蝙蝠の大群も2回ほど出会った。

 ただツチノコもどきは慣れてしまえばあまり問題ない。

 出てくるところを狙って片手剣を叩き付ければ一発だ。


 蝙蝠は俺よりむしろ桜さんのほうが得意だった。

 自分から群れに突っ込んでいってナイフ2本でひたすら倒しまくる。

 それで攻撃を受けないのが俺から見たら信じられない。

 本人に言わせると、

「蝙蝠より速く動けば大丈夫ですから」

だそうだ。

 そんなの人間業じゃ無いだろう。

 いや狼女だったなそういえば。


 有明透子は時に変態の香りを醸し出すが流石経験者。

 何が相手でもそつなく何でもこなす。

 基本的に敵が襲ってくる前に愛梨が全部見つけてくれるので安心できるし。

 なお愛梨によると敵を見つけるだけなら力をほとんど使わないそうだ。

 そんな感じでわりとあっさり『出口』と書かれた扉に到着した。

「これで終わりかな」

「今が13時40分。時間的にはこんなものね」

「じゃあ外へ出よ」

 愛梨を先頭に扉をくぐる。

 くぐった先はいつもの第1化学準備室だ。

 ちなみに扉はあの空間にはいるときにくぐった第1実験室への扉だった。


「お疲れ様でした。有明さんはやはり経験者だけあって慣れていますね。おかげでこちらが色々教えなくても大丈夫なようです」

 どうもここからも訓練迷宮内の様子がわかるらしい。


「合宿の迷宮ダンジョンもこの位の難易度ですか」

「ええ。ただ2泊3日と長いのでそれなりに力を温存する必要があります。でも有明さんはその辺わかっていたようですね。殿里さんの邪視をセーブさせていましたし、自分の魔法もあえて使わなかったようですしね」

「ええ」

「本番の事を考えてなのでしょう。魔法や邪視は使える回数に限りがありますから」

 なるほど有明透子め、そこまで考えていた訳か。

 その辺はやはり経験者だ。


「あとは合宿までの放課後は1日1回、この訓練迷宮ダンジョンで訓練ですね」

 うーむ、毎日30分勉強時間が減るのか。

 時間が細分化されると勉強しにくいんだよな。

 この時間は何か短い時間で出来る事に割り当てるべきだろうか。

 ただ俺の最大の難関は英語関係の2科目。

 新しく出てくる英単語だの文法だの言い回しだのが多くて授業前の予習だけでかなり大変なのだ。

 できれば学校にいる時間も英語の予習にあてたい。

 まあ今まで通りやって時間が足りなければまた考えるとするか。


「さて、今日は食料の計画を立てましょうか。2泊3日分と予備食の分、けっこう多くなると思います」

 これが終わったらすぐ帰れる訳じゃ無いのか。

 俺としては家に帰って勉強したい処なのだけれど。


「ごめん。私、多分食料関係では迷惑をかけると思う」

 そう言えば有明透子、無茶苦茶食べるんだよな。

 今ではもう慣れてしまったけれど。

 今日だって小さめのロールケーキくらいはある肉塊にかぶりついていたし。


「今回行く場所は涼しいみたいだし、冷凍食品をタオル等で包んでおけばお肉なんかも持ち込めるかな」

「そうですね。今回はあの便利なバッグを借りる事が出来ますし」

「でもあのバッグ、重さは大丈夫だけれど容量はそこまで大きくないって言っていたよね。だからその辺で持ち物が限られるかも」

「まずは装備を入れてどれ位空きがあるか見た方がいいかな」

「そうですね。バッグの外に付けると重さ低減になりませんから」

 そんな話をしていると第2実験室への扉が開いた。

 先輩2人が出てくる。

 かなり疲れた様子だ。


「お疲れ様でした。どうでした、2人で攻める2級クラスの迷宮ダンジョンは」

「厳しい」

 川口先輩がそう一言呟き、椅子に座ってそのまま机の上に突っ伏す。

 相当に疲れた様子だ。

「3級と2級、そんなに差があるんですか」

「2級の迷宮ダンジョンは普通では倒せない敵も出てくる。トラップや魔法で目くらましして逃げるんだが、罠も魔法も限りがあるからさ」


「倒せない敵も?」

「ああ」

 大和先輩は頷く。

「元々昔からの怪異なんてものはそう簡単に倒せるような代物じゃ無い。百年以上生きているような存在も多いからな。人間の経験と知識だけではとても太刀打ち出来ないようなものも多い訳だ」

「逸らす、逃げる、その繰り返し。疲れた」

 突っ伏したまま川口先輩がそう付け加える。


 どれ位大和先輩が疲れているか試そうかと思ってやめておいた。

 なんやかんや言って最近先輩には世話になっているしな。

 そう思ったがボールペンが1本飛んできた。

「邪念が入ったのを確認した」

 おいおい。

「表層思考でも読んでいるんですか」

 念の為一応聞いておこう。

「そんな必要は無い。正利の考えなんてわかりやすいからな。なあ愛梨」

「そうですね」

 そうなのか。

 ちょっと疑問があるけれどまあいい。

 俺は考えても無駄な事は考えない主義だ。


「それじゃ装備をまず確認しましょう」

「なら出すぞ」

 大和先輩が武器用では無い方のボストンバッグから色々装備を取り出す。

「ディパックはどれも容量50リットルだ。見かけのだいたい3倍入る。中に入れる分には重さを感じないが外付けだと重量低減は効かない。その辺注意して入れてみてくれ」

 登山用っぽいダンロ●プのドーム型テントや寝袋等の装備が出てくる。

「まずは分けてみて、入れてみましょう」

「そうだね」

 装備表を見ながら作業を開始。

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