第27話 訓練空間、またはVRRPG?

 土曜日の午後。

 今日は午前中で授業終わりなのに第1化学準備室へ。

 合宿の前に訓練があると都和先生に呼び出されたのだ。

 勉強時間が減るが仕方ない。

 先生には逆らうなとあの大和先輩すら言っているし。


 折角の土曜日。

 今日だけは昼休みがない筈の日。

 なのに今日も有明透子と愛梨に連行されるのだ。

 教室内、特に男子の一部から俺に対する視線はシベリア寒気団並みに冷たい。

 木田余の奴すら冷たい目で、

「お幸せに」

なんて俺を見送るような状態だ。

 違う、そんなんじゃない。

 そう言ってももう通じない。


 さて、第1化学準備室で例によって愛梨に餌付けされ、余った時間を邪魔されつつ単語帳をめくって午後1時。

 呼び出した本人の都和先生がやってきた。

「昨日武器を選んだそうですね。ですので本日からは少し武器を使う訓練をしていただこうと思いまして。放課後1週間程度訓練すれば少しは使えるようになるでしょうから」

 先生はごく普通の調子でそんな事を言う。

「どんな感じで訓練するんですか?」

 痛いのや疲れるのは嫌だなと思いつつ尋ねる。


「訓練用に別空間を作りました。今度合宿をすることになる迷宮ダンジョンとほぼ同じ環境でほぼ同じ怪異が出るようになっています。勿論訓練空間で出現する怪異は本物ではなく私が作った式神です。ですので安心して訓練して下さい」

 なぬ。


「面白そうですね」

 桜さん何が面白いんだ。

「それに便利ね。命の危険を賭けてレベルアップに励まないでいいし」

 有明透子ここは現代の日本だ。


「そんな訳でこれから着替えて訓練だ。体操ジャージは持ってきたよな。長袖長ズボンでないと多分寒いぞ」

 愛梨が着替えはじめる前に隣の第1実験室へ避難する。

 こっちは冷房が効いていないので暑い。

 ささっと着替えてまだかまだかと待つ。

「もう大丈夫だよ」

 ああ冷房の冷気が嬉しい。


 ところで先輩2人も着替えている。

 ジャージでは無く黒一色の微妙にそれっぽい服だ。

「先輩達も訓練ですか」

「ああ」

「その服はどうしたんですか」

「通販だ。防水耐刃の上下とブーツ、手袋。あわせて5万ちょいしたな」

「結構高いですね」

「うちの学校は基本アルバイト禁止だからな。結構苦労した」

 その値段だと俺は無理だな。


 なお武器は大和先輩は1メートルくらいのやや長めの杖。

 川口先輩は短剣のようなものを点検中。

 短剣というかナイフというか、刀身が幅広く、くの字形に湾曲している。

 しかも一般的な包丁サイズからその倍位の長さのものまで3本。

「なかなか物騒な感じのナイフですね」

「ククリナイフ」

「3本も必要なんですか」

「相手と用途による」

 うーむ、川口先輩、何気に直接攻撃型だったのか。

 てっきりカードを使った予知とかまじない専門だと思っていたのだが。

「Si Vis Pacem, Para Bellum.平和を望むならば戦いに備えよって事だな」

 大和先輩それ何語ですか?


「私もナイフです」

 桜さんは刃渡り20センチ超の同じナイフ2本だ。

 こっちは刃が黒くて分厚めのいわゆるコンバットナイフ。

 しかも桜さんはナイフ両手持ちらしい。

 こっちもやっぱり物騒な感じだよな。

 俺も剣やバックラーをつける帯革をつける。

 ジャージにこの帯革をつけると残念な格好になるが仕方ない。

 5万円するんじゃ先輩達みたいな装備は買えないな。

 そう思いながらバックラーと剣を装着する。

 

「第1実験室への扉を1年生用の訓練空間に、第2実験室への扉を2年生用の訓練空間につなげました。2年生の方はいつもと同様ですから説明はいらないですね。

 1年生にはちょっとだけ説明を。この訓練空間の中は30分程歩けば抜けられる通路になっています。時折出る怪異を倒したり逃げたりしながら出口を目指してください。続行が困難になったと判断すれば後に戻ればすぐに入口から外に出る事が出来るようにもなっています。

 なお訓練空間で攻撃を受けた場合、痛みは感じますが怪我はしないようになっています。ですので怪我等を恐れず訓練して下さいね」


 そんな訓練したくない。

 俺はそう思うのだけれど。

「つまりVRタイプのRPGみたいなものですよね。面白そうです」

 桜さんはそんな調子。

 楽観主義者だよな、この人は。

「では行きますか」

「ダーリン行こう!」

 俺は愛梨に引きずられるように扉をくぐる。


 ◇◇◇


 訓練空間は短絡路とは違い、洞窟状の場所だった。

 背後に今入ってきた入口の扉がはっきり見えている。

 あとこの中、結構涼しい。

 これもきっと行く予定の迷宮ダンジョンを模しているのだろう。

 これなら確かに長袖上下でちょうどいいな。


「さて、隊列とかはどうする? 桜ちゃんか真鍋君を先頭にして、魔法も武器も使える私を最後方にするのがいいと思うんだけれど」

「なら私が先頭で行きましょう。前を歩いている方が好きなので」

 俺はちょっとほっとする。

 こんな訳の分からない場所で一番前なんて歩きたくはない。

 桜さんを犠牲にするのかと言われそうだけれど、自分で希望したんだし怪我もしない筈だから問題ないだろう。


「私が2番目を歩くね。武器は得意じゃないけれどこの目で見れば罠とか敵の接近がある程度わかるから」

「愛梨ちゃんは本当は3番目がいいと思うけれど」

「何か出そうならダーリンと交代するから大丈夫」

 俺はあまり大丈夫では無いけれどまあいいか。

 ひょっとしたら愛梨、若干有明透子を警戒してもいるのかもしれない。

 結果として俺は愛梨と有明透子の間、前から3番目を歩かせてもらう。

 ある意味一番安全な場所だよな。


「では行きましょうか」

 桜さんは今来た扉と反対方向へと歩き始める。

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