第25話 装備の準備
俺達が一通りしおりを読み終わった辺りで大和先輩が口を開く。
「今回は装備もある程度自分達で考えろよ。例えば持って行く食料とか服装とか。大抵の物は学校なり部なりで貸し出せる。だから装備計画を作ったら私か香織に見せてくれ」
勉強時間が潰れるのが勿体ないが仕方無い。
しおりに書いてある事を元に1年生4人で会議をはじめる。
「取り敢えず必要だと思う物をあげてメモしていこうよ。普通の野外活動を参考にして。一通り物を書いたらその上で必要かどうか皆で色々考えて」
「そうですね。なら私が書いていきます。まずは寝袋とマット」
「水が流れていると嫌だから寝袋カバーが欲しいかなあ」
「食料が最低2泊3日分必要だね。内容は後程吟味するとして」
そんな感じでだだっとメモした結果は……
○ 荷物を入れるザック ○ 寝袋・寝袋カバー
○ 寝るとき下に敷くマット ○ テント
○ 食料2泊3日分+予備食料1食分+おやつ2回分
○ 水2リットル入る容器 ○ 鍋・食器・箸・ナイフ
○ ガスこんろ+ライター
○ ガス缶 ○ 雨具 ○ 懐中電灯
○ 革鎧・手袋 ○ 近接武器 ○ 遠距離武器
○ スマホ、スマホのバッテリー ○ 歩きやすい靴
○ 防寒着 ○ 着替え ○ タオル
○ ウエットティッシュ
こんな感じだ。
「懐中電灯はいらないんじゃないかな。全員暗くても支障ないでしょ」
「そう言えばそうかなあ。でも術無効とか大丈夫?」
「私の夜目は体質ですから術無効でも問題無いですわ。正利さんもそうですよね」
「私もそうかな。なら懐中電灯は1本あればいいか」
「念の為私が身につけていればいい訳ね」
「テントはどうする? 洞窟内だけれど」
「あった方がいい。風を防げるだけで大分体力の回復具合が変わるし、少しは暖かくなるし」
「流石経験者ですね。なら余裕があれば持って行く、にしておきますね」
「洞窟に入るけれど何かそっち系の装備とかは大丈夫かな」
「登攀用具は必要無いって書いてあるけどね。念の為にロープとカラビナ、ハーネスくらいは用意した方がいいかな、安心だし」
「鎧はちょっと用意できないと思うなあ。聞いてみるけれど」
「革鎧だとそんなに重くないし着たまま荷物も背負えるし服より絶対安心だと思うけれどな」
そんな話をして、装備がある程度決まる。
ひととおり装備案が出来たのはもう下校時刻少し前だった。
「あとは明日ですね。食料の計画もたててみて、重さとかも確認しましょう」
「そだね」
うちの部にしては結構まともな話し合いだったなと思う。
何せ普段は全く課外活動らしい事をしていないからな。
俺にとっては勉強時間。
他の皆さんにとってはおしゃべりだのデザートだの時間だし。
大和先輩がスマホから視線をあげてこっちを見る。
「装備がある程度まとまったなら見せてくれ。コピーする。そうすれば明日にでも見本を出してこれるしな」
「わかりました。今日の段階ではこんな感じです」
「どれどれ」
先輩は立ち上がり、プリンタ兼用コピー機の電源を入れ装備メモをささっと読む。
「うーん、革鎧はちょっと厳しいな」
「やっぱり無いですか」
「鎧類は基本的にオーダーメイドだからな。身体にあわせて作るからまだ成長途中の高校生くらいでは持っている奴はまずいないぞ。せめて大学生になってからかな。それに誂えると軽く50万は飛ぶし」
つまりまだ成長するつもりなら持っていない訳か。
でも貧乳先輩は無駄な抵抗のような気もするな。
飛んできたボールペンを受け詰めつつ思う。
「それ以外は大体倉庫にある。明日見本として出しておこう」
コピーを取った先輩がメモを桜さんに戻す。
なるほど揃っているんだな、と思ってふと気づいた。
「武器まであるんですか」
「当然だろ。片手剣、両手剣、脇差し、打ち刀、太刀、ナイフ、槍一通り揃っている。ただ研究会の共用装備だから安物普及品ばかりだけれどな。透子の聖剣みたいなワンオフの逸品は自分で誂えるなりするんだな」
あれって聖剣だったのか。
「聖剣ってRPGみたいだね」
「一応王家に伝わる神代の時代に作られた聖剣よ。聖光剣アルネセイザー、片手剣にも両手剣にも短剣にもなるし便利ね。ただアルネセイザーは聖剣と言っても量産されたらしくて、まだ百本以上城の倉庫に在庫があるって聞いた」
「ありがたいんだかありがたくないんだか今一つわかりにくい聖剣だな」
「一応勇者以外は使えないから在庫はそのまま置きっぱなし。一応毎年手入れはしているそうだけれどね」
確かに残念な剣だな。
王家に伝承された神代の時代の剣、そういうと大変有り難い代物に聞こえる。
ただ大量生産という時点で台無しだ。
「他の3人用の武器は明日見本を持ってくる。自分にどれが合うか試してみてくれ。あと装備その他も一緒に持ってきておく」
「宜しくお願いします」
色々用意してくれるし教えてくれるしありがたい先輩ではあるんだよな。
貧乳だけれど。
またボールペンを5本ほど受け止めながら思う。
あ、また下らない質問を思いついた。
「そんな武器とかを持っていて銃刀法とかに触れませんか」
「よくぞ気づいた」
大和先輩はにやりと笑って頷く。
「その通りだ。銃砲刀剣類所持等取締法では18歳未満の者は銃砲・刀剣類の所持を許可してはならないとしている。だから普段は倉庫の中でも短絡路と同じような別空間に隠してある訳だ。運ぶ際も
「RPG等で使うアイテムボックスの魔法みたいなものかな?」
愛梨の台詞に大和先輩は頷く。
「だいたいその通りだな。荷物なんかもこれを応用したザックがある。だから重さは気にしなくて大丈夫だ」
なるほど。
とするとちょっと疑問が。
「なら何故この前の合宿ではそんな便利なものを使わず車の屋根に積んだんですか」
「この手の収納は容量が大きいほど加速的に高価になるんだ。内容量50リットル程度までなら5万円で買えるんだがそれ以上だと一気に値段が上がってな。
あとこの前の合宿の時は開始時に1年生は短絡路を使えない前提だった。だからあえてその手の収納を使わなかったというのもある」
なるほど。
でもそれならかなり重い荷物も持ち運べる訳だ。
無論サイズ的な問題はあるけれど。
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