第4章 色々あります夏合宿準備

第24話 合宿のしおり

 7月最初の週は期末試験。

 その翌週の木曜日、総合成績の発表があった。

 俺は何とか学年3位に返り咲いた。

 でも決してあまり喜ばしい状態では無い。


 木田余の奴が総合1位なのはまあ仕方無いとしよう。

 奴は何やかんやいって天才だ。

 努力とかが全く及ばない世界に君臨している。

 なお学年1位のコメントを紹介しよう。

「俺より真鍋の方が勝利者だろ。なんたって彼女を2人も引き連れているものな。ああ順位が2桁下がってもいいからウフフな彼女が欲しい」

「どっちも彼女じゃないぞ」

「恵まれている奴は皆そう言うのだよ、槍珍野郎殿」

「そんなんじゃないって!」

 クラス内での誤解は晴れないままである。 


 問題その1は総合2位、有明透子の奴だ。

 奴は俺と違ってどの教科もそつなく点を落とさないタイプ。

 個人的には奴に負けた事がかなり悔しい。

 生物としてのパワーで勝てなくてもテストの成績くらいは勝ちたいものだ。


 3位の俺は相変わらず理系科目全振りな成績。

 無論普通の生徒と比べれば英語や古文も決して悪くはないのだけれど。

 そして何と6位に愛梨の奴がつけている。

「今回はダーリンに並ぼうと頑張ったんだよ。でもちょっとだけ届かなくて残念」

 勿論一般クラス首位だ。

 ついでに言うと英語2科目と現国古文の成績は愛梨の方が俺より上。

 愛梨も有明透子もどういう勉強の仕方をしているんだ。

 これでも俺はかなり真面目にやっているんだぞ。

 放課後も愛梨や貧乳に邪魔されながら頑張っているんだぞ。

 飛んできたボールペンを受け止めつつ思う。


「トレーニングもしているのだがなかなか不埒な奴に刺さらない。残念だ」

「そんな無駄なトレーニングをしないで下さい」

「ついでに胸の筋肉も鍛えられるんじゃないかと思ってな」

 やはり大和先輩は胸のことをかなり気にしているようだ。

 確かに胸は小さいけれどそれはそれなりにスタイルはいいし綺麗だと思う。

 だから気にしなければいいのに。


「甘いな正利君。人は常に自分に無いものを求めるのだよ」

「女の子のふわふわ柔らかな胸は魅力ですよね。撫でても揉んでも抱きついても」

 有明透子にもボールペンが飛んでいった。

「この訓練も慣れるとちょうどいいな。愛情と殺伐さが程良く混じっていて程良い刺激だし」

 これは訓練じゃない、大和先輩の意思表示だ。きっと。

 誠に残念な光景なのだがこれが俺の放課後の日常だ。


 なお愛梨の有明透子恐怖症は何とか治まった。

 確かに有明透子、時々ヤバい視線で愛梨とか川口先輩を見ていたりする。

 でも実際にはヤバい事はしないのがとりあえずわかったからである。

 少なくとも人前では。

 ただ今でも愛梨は有明透子と2人きりにはならないようにしている。

 川口先輩もだ。

 なお残り2人は有明透子の嗜好の範囲からは外れているので大丈夫。

 桜さんは有明透子のその辺の嗜好に全く気づいていない模様だけれども。


「さて、皆様お楽しみ夏合宿のしおりが出来た」

 A5判サイズの小冊子が川口先輩から配られる。

「今回の1年生の合宿は朝霧高原だ。喜べ、一応ちゃんとした観光地だぞ」

 そう言われても簡単には騙されない。

「どうせ怪しい洞窟とかあの世に繋がる空間断裂とかでしょ」

「そりゃ西洋民俗学研究会うちの合宿なんだから当然だ。なお合宿終了後はせめて夏らしくという事で懇親合宿もある。こっちは南の島でバカンスだからそのつもりで」


「1年生の合宿という事は、2年生は別なのでしょうか」

 桜さんが質問する。

「ああ。2年は2人とも昨年に3級資格を取ったからな。今年は他高と合同で2級の迷宮ダンジョンに行ってくる。これも富士の近くだから終わったら合流する予定だ」

「他高にも同じような課外活動があるんですか」

「この辺だと土子園どこぞの高校とか阿曽狐野あそこの高校だな。今回2年生の合宿は土子園高校と一緒だ。あそこは2年生が1人だからな。昨年夏も一緒にやった。その辺のマッチングは先生方の方でやる。その辺の連絡体制とかもあるようだ。うちの1年は4人もいるから他と組む必要は無いがな」

 土子園高校は俺が落ちた公立で、阿曽狐野高校は隣県の公立だ。


「さて、今回は基本的に迷宮ダンジョンの初級編だ。中に案内もあるし迷うような場所は無いがそれなりの怪異が出る。なので基本的な怪異と倒し方、注意点もしおりに記載しておいた。その辺よく読んでおくように」

 どれどれ。今のうちに読んでおこう。

 家で読むと時間が勿体ないし。

「富士人穴か。何か人が吸い込まれそうな名前だね」

「洞窟とはいかにも迷宮ダンジョンという感じで面白そうです」

「向こうの世界で幾つか洞窟迷宮ダンジョンに潜ったなあ」

 愛梨や桜さん、有明透子もしおりを見ているようだ。


 愛梨が言った通り、今回俺達が挑むのは富士人穴という名称の迷宮ダンジョン

 洞窟そのものは奥行90m程だが、その最奥に迷宮ダンジョンの入口があるらしい。


 取り敢えず内容を更によく読んでみる。

 今回の合宿場所は正確には富士人穴迷宮ダンジョン第1ルート。

 宮内庁認定の対魔討伐免許3級検定コースだそうだ。

 3級合格基準は72時間以内に他の援助無しにコースを踏破することとある。

 なお歩行距離は約60kmが目安との事。

「2泊3日洞窟の中で60kmも歩くのかあ。結構長いよね」

「でも通り抜ければクリア認定というのは、わかりやすくていい」

「ずっと暗い洞窟の中でキャンプ。やった事が無いので面白そうな感じですね」

「足場も問題無さそうだし広さも確保されているのね。なら雨が降らなくて涼しい分楽かも」

「そう言えばそうだね」


 更に先を読んでみる。

 持込不可能な物は735W以上の動力器具類。

 ただし内部に段差等が多いため車輪の使用は望ましくないとある。

 更にお札の類は

  ○ 入口で係員から渡される使用時間10時間のもの 1パーティ3枚

  ○ パーティ構成員のみで作成したもの 無制限

のみが使用可能ある。

「つまり効力が高いお札で楽をするな、って事ですね」

「10時間のって睡眠時間用と予備かな」

「その辺の心遣いが良く出来ていますね」

「初心者用の迷宮ダンジョンだからだろうな」


「あと荷物は全部背負っていけって事だよね、きっと」

「だな。食料とかも3日分担ぐしかないだろう」

「所々に飲用可能な水が出ているとありますね」

「水があるのはありがたいな。重さが大分減らせる」

 なお空気の流れがあるのでアウトドア用ガス器具は使用可能、焚き火は極力避けるようにとある。


「アウトドア用のコンロとか誰か持っているかなあ」

「装備は研究会の奴があるから貸し出せるぞ」

「そっか。でももしずっと使うなら私専用を買ってもいいかな」

「一度借りて使ってみてからの方がいいのではないでしょうか」

「それもそうだね」

「この世界は便利な道具があっていいね」

 何か一人妙な感想を言っているようだが気にしない。


「あとネットにも情報があるぞ。しおりの最後に参考になりそうなURLを書いておいたから各自調べるように」

 ネット情報もあるのか。

 そんな事を思いつつ、しおりを更に読み進めていく。

 出てくる怪異はヘビの怪異とコウモリの怪異。

 どちらも物理攻撃魔法攻撃両方効くらしい。


 ヘビの怪異は全長60センチ、身体の太さが最大直径7センチ程度。

 物陰からいきなり跳ねて襲ってくるタイプ。

 攻撃方法は噛みつくか巻き付くで、毒は無し。

 コウモリの怪異は翼長30センチ程度。

 5匹以上の集団で飛んでくる。

 跳躍距離は約1メートル、高さは最高で50センチ程度。

 噛みつくか爪でひっかく攻撃が主でやはり毒は無いそうだ。

 毒がないのは有り難いが噛みつかれると痛そうだよな。

 そんな事を考えながら更に読み進める。

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