第23話 ちょっとキャラが強すぎる
「うーん」
駅で桜さんと有明透子と別れた後。
愛梨が妙に考え込んでいる。
「どうしたんだ。悪い物でも食べたわけじゃ無いだろ」
「透子さんね。いい人なんだけれど強力なライバルが増えたなと思って」
「何のライバルなんだ?」
俺には意味がわからない。
「だって黒髪長髪で美人だし成績だっていいでしょ。あれってまさにダーリンが最初に言っていた好きなタイプそのものだよね。だから浮気されたらどうしようとか、いっそ今のうちにダーリンに解けない位強力な魅了をかけておこうかとか」
おいおい。
それを俺に言う時点で色々間違っていると思うぞ。
確かに見かけは好みだし成績もライバルにふさわしいが巨大な欠点がある。
「
低レベルであろうと勇者なんて彼女は持ちたくない。
口喧嘩ごとに討伐されそうだ。
何せ気を抜くと右手に剣が出てくるし。
「そっか、そうだよね」
途端に機嫌が良くなる愛梨。
おい違うぞ愛梨。
だから愛梨の方が好きだとか一言も言っていない。
俺はノーマルな彼女が欲しいのだ。
勇者とか邪視持ちとかじゃなく。
いやそもそも俺は有明透子に恨みがある。
奴のせいで今回の中間テストは総合順位、学年4位になってしまったのだ。
特に表彰とかある訳では無い。
でも何かの大会なら表彰台順位だったのに外れてしまったのが地味に痛い。
有明透子、許すまじ。
だがあれは自分で成績を調節した訳では無いらしい。
『異世界転移しなかった場合にあわせて世界改変』した結果自動的にあの順位になったそうだ。
つまり実力的にも俺より上という事。
いいだろう。
今回は油断というか思ってもみないタイミングの出現で負けた。
でも次回は表彰台を取り戻すぞ。
これは
俺は固く心に誓う。
有明透子は敵だ!
その筈だったのだが……
◇◇◇
翌日4限終わり。
授業が終わってのんびり教科書等を片付けている時だ。
「真鍋君、一緒にお弁当を食べよ」
何故か有明透子の奴、俺に声をかけてきた。
木田余をはじめ付近男子の冷たい視線が俺に集中砲火的に注がれる。
有明透子、なまじ見た目がいいので結構男子ウケはいいのだ。
「あ、俺は別約があるから」
俺は逃げようと試みる。
「別約って愛梨だよね。いいじゃない、一緒に食べれば」
脱出に失敗した。
何故だ、何でこうなる!
視線をあげると前の入口から入ってこようとしていた愛梨が固まっていた。
「あ、愛梨ちゃん、今行くね」
有明透子、俺の右腕を引っ張って廊下へ。
勇者だけあって細く見えても腕力は洒落にならない。
ずるずると俺は引っ張られてそのまま廊下へ。
「愛梨ちゃんいつもお弁当何処で食べてる?」
愛梨は俺の左腕をひしと掴んで有明透子を睨みつける。
無言だ。
「第一化学準備室、昨日の部屋」
俺が代わりに答える。
「あそこならちょうどいいかな、近いし」
何が起こっているかわからないまま俺はいつもの部屋に連行される。
右を有明透子に、左を愛梨に固められて。
いわゆる『捕らわれた宇宙人写真』状態だ。
幸い第一化学準備室はすぐそこ。
鍵もいつも通り開いていた。
川口先輩が相変わらずカードを繰りながら固形バランス栄養食を食べている。
先頭で中へ入って扉を閉めるなり。
「はあ良かった。脱出成功」
そう言って有明透子はほおっと息をついた。
「何だったんだ、今のは」
有明透子はそう言った俺の方ではなく愛梨の方に手を合わせ頭を下げる。
「ごめん愛梨ちゃん。別に真鍋君に手を出そうという訳じゃ無いから心配しないで。ただあのままだと女子同士でご飯になりそうだったから」
「それが何の理由なのかな」
愛梨、いつもと違う口調。
どうも怒っている模様だ。
邪視が発動しそうで俺は気が気では無い。
「このお弁当をクラスの皆に見られたくなかったの。向こうへ転移して勇者になってから体質が変わってしまって」
有明透子はそう言って手持ちの巾着からお弁当箱らしいタッパーを出す。
1個、2個、3個、4個、5個……おい!
1個でも弁当としては十分な大きさのタッパー。
それが5個というのはあんまりではないだろうか。
透明なタッパーなので中身もある程度見える。
肉の塊、やはり肉の塊、更に肉の塊、ポテトサラダ満タン、そして幕の内風の普通のお弁当である。
なお肉の塊の内訳は焼豚風1つと鶏肉2つ。
愛梨も絶句状態。
いつも無表情でカードを繰っている川口先輩まで手を止めてこっちを見ている。
「勇者になってからはこれ位食べないと持たないの。でもこれを教室内で見せるわけにはいかないでしょ。だからちょっと真鍋君を理由に教室から逃げた訳。貴方のダーリンを取る気は無いから安心して」
「絶対ですよ」
流石の愛梨も若干声が呆れている。
「大丈夫。それに私的には真鍋君よりも愛梨ちゃんの方が可愛いし」
その台詞に俺は何か微妙なニュアンスを感じた。
ついでに言うと愛梨を見る有明透子の視線が洒落じゃ無いような。
一瞬だが愛梨の全身を舐め回すように見たような気もした。
「まさか透子さんって……」
「冗談冗談。単に男の子よりは女の子が好きってだけだから。無闇に誰でも手を出すわけじゃないから安心して。あ、でも向こうでパーティ組んだ子達もみんな可愛かったな。国の方針か何かで勇者のパーティは全員が女の子で。中でもサリア。魔法使いなんだけれどちょっとドジっ子で。私以外はあの世界の名門の出身だから連れてこれなかったけれど。せめてもう少しあの国がまともだったら今頃はもっともっと……じゅるり」
有明透子は肉食獣の顔で舌なめずりする。
おい、それって……
びくっ、愛梨が固まった。
今までと違う恐怖の表情が愛梨に浮かぶ。
次の瞬間愛梨はささっと移動。
廊下側から有明透子、愛梨、俺の順で座ろうとしていたのだが、愛梨は俺より奥側に移動して座り直した。
「それじゃダーリン、お弁当にしましょう。今日はちょっと手作り部分も増やしたんですよ」
本日のおかずは豚角煮、豚生姜焼き、ほうれん草のベーコン巻、カリフラワー、卵焼き、ちくわキュウリといった感じだ。
「あ、美味しそう。ねえねえ愛梨ちゃん、おかず交換しない?」
ふるふる。
愛梨は震えながら窓側へ少し寄る。
「逃げなくていいじゃない。愛梨ちゃんの食べかけでいいから。私の方は焼豚でも鶏肉でも何ならポテトサラダでも。ポテサラは業務用スーパーの1キロ入りを詰め替えただけだけれど。ねえねえ愛梨ちゃん……」
愛梨、更に椅子をずらして50センチくらい逃げる。
どうやら愛梨にも怖い存在は存在した模様だ。
有明透子、キャラ強すぎる。
ちょっとこんなのには勝てない。
やばい香りがプンプンする。
俺の周囲にまた変なのが増えてしまった。
しかもさっきクラスの男子の大半を敵に回してしまったし。
でも木田余はじめ1組の男子諸君、実際の有明透子こんな奴だぞ。
全然羨ましくないんだぞ。
何なら連れて帰ってくれ。
勇者を手込めに出来る程の腕があるのなら。
まあ無理だと思うけれどさ。
俺より腕力強そうだし。
かといって俺が奴の実態をばらす訳にもいかない。
誰か何とかしてくれ、なんて言っても無駄だよな。
俺は大きな大きなため息をひとつついてしまった。
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