第22話 有明透子の事情
「入試直前に異世界に召喚されたんです。戻った時には既に入試は終わり、高校の新学年も始まっていました」
「召喚されたのは何時ですか。あと、戻って来たのは」
「召喚されたのはここの試験の前日だから、今年の1月14日。戻って来たのは昨日です」
なるほど。
それで受験が受けられなかったのか。
勿論普通の常識ではありえない話だ。
でも生憎俺の周りの常識は既にかなり壊れている。
だから今更異世界召喚なんて聞いても驚かない。
「それで召喚された異世界、もしくは国はどちらですか。あと召喚された理由も差し支えなければ教えて下さい」
「コルヌアイユという国です。そこに魔族を退ける勇者として召喚されました」
「それにしては期間が短いですね」
「魔族と本格的に戦う前に逃げてきましたから。コルヌアイユの目的が単なる魔族領域への侵略と判明したので」
先生は頷く。
「なるほど、コルヌアイユについては以前も2件程そういった事案が報告されています。賢明な判断だったと思いますよ」
「他にもいたんですか」
「ええ。15年前と8年前に。いずれも当時15歳の女性でした。それぞれ召喚は無かったという現実改変の上、進学する筈だった高校へと通っていただきました。ですので有明さんも当然、同じように措置させていただく事になります」
「私の異世界に行った記憶や得た能力はどうなるんですか」
「特にその辺を変える必要は無いでしょう。むしろその辺はそのままにしておいた方が有明さんにとっても有益だと判断します。ただ念の為」
何か違和感が通り抜けたような気配がした。
あの現実改変を感じた時と同様だ。
ただ今回の方がより強い気配だったように感じる。
「改変を確認及び強化しました。中学時代の御友人やその両親等の記憶、中学校における記録と先生方の記憶、その他関係する全ての改変を確認して実行しています。これで明日の朝までにはこの件についての記憶はこの部屋にいる皆さんと、しかるべき機関の記録のみに残されることになります。他に有明さんに関する記憶をそのままにしておきたい方はいらっしゃいますか」
「いえ、特に」
「ならこれで終了ですね。お疲れ様でした」
有明さんはえっ? という顔をする。
「これでいいんですか」
「ええ」
先生は頷く。
「勇者召喚とか転移とかはわりとよくある事なんですよ。異世界拉致事案と官庁では分類していますけれどね。把握しているだけで毎年5件前後発生しています。中には20年以上向こうで過ごしてから戻ってこられた方もいて、社会復帰が大変だったりする事もありましたね。
それに失礼ですが有明さんの学力も術で確認させていただきました。確かに事案が無ければここの1組に入っていた可能性が非常に高いでしょう。授業が少しだけ進んでしまっていますが、貴方なら十分に追いつける範囲だと判断します。ですので何も問題はありませんよ」
うーむ。
異世界転移とか召喚とかは珍しくない事案なのか。
いよいよもって現実がファンタジーに侵食されてきたな。
それにしてもだ。
勇者ってどんな存在なのだろう。
ゲームでは主人公だが今一つ実態をつかみにくい。
「それでは私は書類を作りますからこれで失礼しますね。いつも通り帰る際は鍵を宜しくお願いします」
「わかりました」
先生が出ていった。
「そんな訳で入学おめでとう。まずは拍手」
貧乳先輩の音頭取りで皆で拍手。
なお貧乳先輩はボールペンを投げながら、俺は受け取りながらだ。
「ありがとうございます。それで皆さんはどんな集まりですか。確か西洋何とか研究会と伺ったのですが」
「西洋民俗学研究会さ。まあ実態は能力者とか属性違い、
ついでだから自己紹介しておくか。私から順に時計回りで。
私はさっきも言ったが大和撫子、2年1組で魔女だ」
「川口香織、2年1組、占いと呪術が専門」
「高津桜と申します。1年2組で狼の獣人です。宜しくお願いします」
「真鍋正利、1年1組で
「殿里愛梨よ。1年3組で左目が邪眼なの。よろしくね」
ひととおり挨拶が終わる。
「ところで本当にこれで他に何も無しで大丈夫なんですか」
「都和先生が大丈夫だって言っているなら大丈夫だろう。ああ見えて最強に近い能力者だし政府関係とも色々繋がっているようだしさ」
「確かにどうやっても勝ち目は無いと感じました。勇者は戦闘職なのでどうしてもそういった判断を最初にしてしまうので。あとは大和先輩にもおそらく勝てません。これはレベルの違いですね」
「撫子、または撫子先輩でいいぞ。大体ここの中では名前呼びだからな」
「そう言えば勇者ってどんな能力を使えるんですか」
桜さんが俺の疑問を代弁してくれた。
「戦闘職だし基本的には戦闘関係能力。身体強化や攻撃技、攻撃魔法、回復魔法のような魔法が主体ね。あとはこの世界に戻れるように世界移動と超次元把握、簡単な世界改変魔法を持っている程度。
ただ勇者として成長する前に脱出したので正直強くはない。向こうではスライムならOK、ウルフタイガーが1匹なら何とか、複数出たら即逃げくらい」
つまりRPGなら序盤の村程度の段階という訳か。
「それにしても現実を改変できる能力か。いいなあ。使えるなら私も正利と同じクラスになりたいな。それなら昼休み以外でもずっと一緒にいられるから」
愛梨がとんでもない事を口にする。
おい待てそれは反則だ。
そんなの俺の気力が持たないぞ。
そう俺が思ったところで。
「甘いな愛梨」
大和先輩から注意が入った。
「今回はあくまで特例措置だ。あまり何度も不自然な現実改変を繰り返すとこの世界の今の
「そうかあ。それもそうだね」
「だな」
まあ愛梨に世界改変なんて能力は無いだろうから大丈夫だろうけれど。
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