第21話 謎の女子生徒

 場所は2階の渡り廊下。

 そして生徒が関係するもの。

 俺はその両方に当てはまる物に心当たりがある。

 中間テストの結果が張り出されているのが渡り廊下なのだ。

 しかも2階にあるのは1年生分。

 そんな訳で真っ先に俺は張り出された結果を見てみる。


 探すまでも無かった。

 俺の順位が4位になってしまっている。

 1位は以前と変わらず木田余。

 あいつアホな事ばかり言っているけれど頭はいいんだよな。

 2位も変わらず蓮河原さん、この人とはあまり喋った事は無い。

 そして3位の名前は有明透子。

 初めて見る名前だ。

 クラスは1組となっているがおぼえはない。


「あ、私の順位が1つ落ちてる」

 愛梨め今頃気づいたか。

「ああ。1組に見覚えない名前が増えている。この3位のところにいる有明透子、こんな名前の生徒は1組にはいなかった筈だ」

「なら念の為教室も確認してみるか」

 なるほど。

 たしかに貧乳先輩の言う通りだ。

 座席表とか手がかりが色々あるかもしれない。

 飛んできたボールペンを2本キャッチして思う。


 ところでふと疑問が。

「大和先輩、ボールペン何本持ち歩いているんですか?」

「正利の為に100円ショップで10本入りを5パック購入した」

 おいおい俺への投擲用かよ。

 まあそんな気もしたのだけれど。

「取り敢えずこの2本は返しておきます」

「うむ、宜しくは無いが心がけは認めよう」

  

 そんな訳で1組の教室へ。

 放課後なのでもう生徒はほとんどいない。

 女子が1人だけ、窓際の一番後ろの席で何かやっていた。

 長い黒髪、可愛いと言うより美人系の横顔、標準より少しだけ高い身長、普通サイズの胸。

 俺の知らない女子だ。

 彼女は俺達の方を見て、瞬間びくりと身体を震わせる。

「ああ驚いた。どうしたんですか、こんな時間に」

「有明さんですよね」

「ええ。って同じクラスじゃない。確かに話した事は無いけれど」


 俺の代わりに大和先輩が苦笑を浮かべながら口を開く。

「すまないな。生憎こっちの面子は特異体質ばかりでさ、記憶がまだ現実改変を受けてないんだ」

「えっ」

 彼女の動きが一瞬止まる。

 同時に右手に長いものが出現。

 あれは……剣!

「おいおい、別に荒事に持ち込もうという訳じゃ無い。ちょっと話を聞きたいだけだ。それなりの手続きもあるしな」

「ごめんなさい。今まで割と物騒なところにいたので、つい」

 彼女がそう言うと右手から剣が消えた。


「便利だな。私は2年1組の大和撫子。冗談みたいな名前だが本名だ。ついでに言うと種族は人間で属性は魔女。あと一緒にいるのは西洋民俗学研究会の面子で、それぞれ不死者ノスフェラトゥだったり狼女だったり。だから多少普通と違った能力があっても別に隠す必要は無い。安心しろ」

「そうですか」

「取り敢えず話をききたい、まずはそこからだな。もし此処での作業が終わったなら一緒に来てくれ。お茶くらいは出そう」

「作業は特にしてません。明日からはここが私の教室になるかと思って、何となく周りを見ていただけ」

 彼女は立ち上がり、典型的過ぎて滅多に見ない革製学生カバンを持つ。

「それじゃ行くとするか。あと愛梨と桜は都和先生を呼んできてくれ。第二化学準備室の方にいると思う」

 教室を出て第1化学準備室へ。


 お茶を入れるのは大和先輩の担当だ。

 態度がでかいのに何故と最初は思ったが、理由は簡単。

 火にかけないのに三角フラスコ内の水が沸騰する。

 つまり魔法でガスより早く湯を沸かせるからだ。

 ちなみに三角フラスコだと紅茶の色がよくわかる。

 香りもいかにも紅茶という感じのいい香りだ。

 ヤカンかポットくらい用意しとけとは思うけれど。


 カップとソーサーなんてものも当然無い。

 小型ビーカーがカップの代わりだ。

 川口先輩が『スクロース』と書かれた瓶と『クエン酸』と書かれた瓶、それに薬さじを人数分出す。

 由緒正しい化学準備室風お茶セットが完成。

 ちなみにこの部屋でこの組み合わせはわりと毎日の光景だったりする。

 ならまともなセットを買った方がいいと言われそうだけれども。


「すまん。ミルクは用意していないんだ。ただ葉っぱは一応きちんとした物を使っている。カップも実験用では無くお茶会専用だ。瓶はこっちが砂糖、こっちがレモン代わり、レモン代わりの方は入れるならごく少量ずつにしてくれ。味が濃いから」

「すみません。では失礼して」

 このお茶セットで平気で紅茶を飲む有明さんも相当だなと思う。

 俺だと違和感ありまくりで最初は手が出なかったのだけれども。

「いい香り」

「一応アパ・キ・パサンドのダージリンだ。単に私の好みだけれどさ」

 なお有明さんと大和先輩はストレート、川口先輩は砂糖多めクエン酸ちょっとだ。


「失礼しますね」

 先生を筆頭に1年女子組が入ってきた。

 テーブルを見て先生があらあら、と言う。

「これならお茶菓子も必要ですね。少しお待ち下さいな」

 何処でも無い場所からいきなりお菓子を3種類取り出す。

 お馴染みブル●ンのルマンド、チョ●リエール、ホワ●トロリータだ。

「先生は魔術師ですか?」

「専門は陰陽道ですけれど、魔術もひととおりは」

 先生は有明さんにそう応えてお菓子類の袋を開け中央に置いた。


「さて、私はこの学校で理科の授業を担当しています都和彩香と申します。この地区の能力者や亜人等を担当する無任所宮司と宮内庁指定の認定員も務めております」

「つまり専門家ですか」

「専門家というより担当者と言うべきでしょうか」

 先生はそう言って頷く。

「さて、貴方が現実改変をしてこの学校に入学しようとした理由を教えていただけませんか。一方的にとがめたりする訳ではありません。理由によっては更に様々な措置を行う必要がありますから」

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