第3章 現実改変と俺の表彰台落ち

第20話 午後の異変

 今年は梅雨が早く訪れた。

 そして俺の気分はこの真っ暗な空のようだ。


 5月終わりの週に実施された中間テストだが、今日総合順位が発表された。

 この学校では一般特待併せて上位50名までの成績が張り出される。

 特待でも下位だと名前が出てこないし一般でも上位は一桁順位までやってくる。

 俺は総合3位で何とか一般クラストップよりは上だった。


 だがしかし、だ。

 愛梨の奴、しっかり総合12位に名前が載っていやがった。

 一般クラスでは総合3位だ。

 しかも英語は2科目とも俺は愛梨に負けてしまった。

 数点差だけれどもこれは痛い。

 なんとか数学と物理で差をつけたけれど他はほとんど差が無い状態だ。


「うーん、ダーリンに並べるかと思ったけれどもう少しだったか」

 いやそんな問題じゃ無い。

 というか英語2教科ともあの問題でほぼ満点近いってまともじゃない。

 俺でさえ結構必死に勉強してやっと8割なのに。


「ううー。愛梨さん何か特別な勉強法か何かあったら教えて欲しいです」

 桜さんは今一つだったらしい。

 無論一般クラスでは決して悪い方では無いのだろうけれど。

「語学関係は読めばだいたいわかるかな。ただ物理はちょっと失敗したなあ」

 なお物理の全体での平均点は35点で赤点は21点未満。

 特待クラスでも5人程再テストが出てしまったような状態だ。

 何せ大問題4問とも某難関理系大学の入試問題。

 一応学習範囲でぎりぎり解ける問題だったらしいけれど。

 俺も部分点が貰えなければ6割を切るところだった。

 これでも物理は得意なつもりだったのだけれども。


「それにしても愛梨凄いよな。このままなら正利に追いつくどころか抜けるんじゃないか」

「ダーリンと並んで一緒の大学に行く予定ですから」

 うん、洒落になっていない。

 このままだと本当に実現されそうだ。

「でもこれでダーリンの言った条件1つクリアですね。同じ大学を受験する、励みになる相手って言う事で。あとは体型は中肉中背でクリアですから、髪がもう少し伸びればダーリンの好みど真ん中です」

 おい待て。

 確かに俺は愛梨と会った日そんな事を言ったような気がする。

 でも待ってくれ。

 まさか愛梨がここまでやるとは思わなかったんだ。


「正利も男冥利に尽きるな全く。ここまで思ってくれる彼女がいると幸せだろう」

 こら胸無しちょっと待て。

 飛んできたボールペン三連撃を弾きつつ色々考えを整理する。

 確かに愛梨は外見的には可愛い方だと思う。

 俺をダーリンと呼ぶ事と俺につきまとう事以外は性格も悪くは無い。

 勉強もライバルになる程度に出来る。

 料理が得意で……っておい。

 これじゃ嫌う部分が無いじゃないか。

 邪視持ちなのを嫌う要因にするのは失礼というか愛梨に悪いだろう。

 愛梨も好きで邪視持ちやっている訳じゃ無い。

 俺だって不死者ノスフェラトゥだしな。


 よし、思考停止だ。

 考えても碌な結論になりそうにない。

 高校生の本分は勉強だ。

 それ以外考えない事にしよう。


「ダーリン何考えているの?」

 気がつくと愛梨の顔が真ん前にあった。

 思わず飛び退く。

「何だよ一体」

「んー、ダーリンが何かお悩みのようだから」

 お前のせいだとは言えない。

 だからまあ、ちょっと話を誤魔化すことにする。

「いや今回は英語2科目とも愛梨に負けたからな。次は何とかしようと思ってさ」

「何なら一緒に勉強しようか。私の家でよければ何時でも大丈夫だよ」

「だが断る」

「えーっ、何でー」

 そんな話をしていた時だ。


 何だろう。

 何か違和感が通り抜けたような気配がした。

 見ると愛梨も桜さんも先輩達も感じているようだ。

「何なの、今のは」


「現実改変だな」

 貧乳先輩がそんな事を言う。


「何ですか、現実改変って」

 飛んできたボールペンを受け止めつつ尋ねてみる。

「言葉の通りだ。今までの現実が何物かの手によって書き換えられた。今の反応だと学内だな。大したことじゃないがこの学校に関係ある事のようだ」


「現実って変えられるんですか」

 桜さんがもっともな疑問を口にする。

「ああ。実はこの世界でもちょくちょく歴史なり現在の状況なりが書き換わっているんだ。それは人為的な事もあるし世界的な因果が関わっている事もある。そして大体は誰も気づかない。

 例えば水がある日突然今までの90℃で沸騰するような改変が起きたとしよう。その時にはきっと温度計も今まで90℃だったところが100℃になっている訳だ」

 言いたい事はわかる。


「何でそんな事が起こるんですか?」

「人間にはきっとわからない理由だろうな。例えばさ、因果関係なんてのもきっと時間順になっていない事があったりするんだろう。未来に原因がある事象が過去の改変に繋がる結果を生んだりすることもある訳だ。Autoinfanticideなんてその例だな」

 おい待て貧乳!

「日本語で言って下さい」

「親殺しのパラドックスですね」

 愛梨め知っていたか。

 飛んできたボールペンを受け止めつつそう思う。


「でもまあ今回のはそれほど大がかりな改変じゃない。この学校とその周辺程度の現実を改変した程度だ。やったのもきっと個人だな。何せ改変が起きた事が私でもわかる程だ。そんな訳で香織、わかるか」

「現在調査中」

 川口先輩は例によってカードを繰っている。

 やがていくつかのカードを裏向きに並べ、3枚をひっくり返した。


ワンドの4逆、金貨ペンタクルの2正、金貨ペンタクル従者ペイジ正。一般教室棟と専門教室棟の間の渡り廊下。それも2階。生徒に関係するもの。そこを調べればわかる」

「早速行ってみようじゃないか」

 本当は勉強時間を潰すべきじゃないよな。

 そう思ったが残念ながら俺も興味の方が先に立った。

 現実改変なんて一体どういう感じで変わるのだろう。

 それを確認してみたい。

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