第18話 現実がファンタジー
元々寝不足だった事もあり、あっという間に落ちたようだ。
気がつけば陽が傾いていた。
寝袋の上に転がったばかりだと思っていたのだけれども。
のそのそ起き出してテントから出る。
「やあ、遅いお目覚めじゃ無いか。そんなに疲れたのか」
貧乳先輩からそう声をかけられた。
「気分的にぐったりとしたもので」
飛んできた小石をかわしつつそう応じる。
嘘では無い。
元々の原因は寝不足だけれども。
「もう飯は炊けているぞ。今回は愛梨に炊いて貰った。同じような場所まで逃げたのに随分と差があるな」
「だってダーリン、またお姫様抱っこしてくれたんですよ。これはもう愛でしょう愛。だから夫の分は私が働くという事で」
おいちょっと待った。
「誰が夫だ」
「式は卒業してからでしょうけれど、なんならもう事実婚しても大丈夫ですよ。私の家は広いけれど私しかいませんから」
聞いちゃいない。
「その辺は学校で問題にならないようにうまくやって下さいね」
おい待て先生。
「先生としてそこは注意すべき処でしょう」
「若いっていいですわね」
おい! それでいいのか教育者!
「さて、正利をからかうのもこの辺にして夕食にしよう。まだまだ魚はあるからな。贅沢に行こう」
そんな訳で今回の夕食も魚メインだ。
刺身各種、漬け、塩焼きと色々揃っている。
刺身三昧は贅沢だけれどそろそろ飽きてきたかな。
そう思いつつ食べると……
「何かお刺身、昨日より美味しい気がします」
桜さんの言うとおりだ。
若干柔らかくなって、あと旨味というのか味が濃くなった気がする。
「魚も肉も熟成させた方が美味しいものも多いですしね」
新鮮なだけがいい訳でも無いのか。
他にも感じた事がある。
「今回はご飯が美味しいな。何か炊飯器で炊いたより美味しく感じる」
多少の焦げの香りも含めて完璧だ。
「ふふふふふ。ダーリン、惚れ直しましたか」
しまった!
そう言えば今回の飯炊きは愛梨だった。
「2人で生活したら毎日このご飯を炊いてあげますよ」
「いや、普通は炊飯器で炊くから問題ない」
だから全てそっちに持って行こうとするんじゃない。
そう思った時だ。
「でも
大和先輩の台詞にふと違和感を覚える。
何か今、妙な単語が聞こえたような。
「
桜さんが質問する。
やはり俺の聞き違いではなかったようだ。
「名前の通り化物とか怪異とかが出てくる場所さ。日本にも結構あるんだぞ」
えっ!
「昔は霊穴とか境目、規模によっては
また妙な単語が出てきた。
しかも今度は先生からだ。
「陰陽寮は確か明治初期に廃止された筈ではないでしょうか」
桜さん妙な事知っているな。
俺は陰陽師くらいしか思い浮かばない。
「陰陽寮は現存する対霊的脅威対策の機関です。勿論一般の方には秘密ですけれどね。今では基本的に宮内庁の管轄になっています。文化庁からもかなり出向しているようですけれども」
「神社本庁とか全日本仏教会のような宗教団体の組織も協力しているしな。能力者とか
おいおい本当かよ。
まあ先生も言っているから嘘だとは思わないけれど。
「ひょっとして、短絡路が神社とかにあるのもそのせいかな?」
愛梨の台詞に川口先輩が頷く。
「そう。神社本庁等が整備」
「だから神社にある出入口はだいたい安心なんだ。近くに怪異とか出ないように清掃作業なんかもやっているしさ」
「安定した出入口が出来た場所に新規に神社を作ったりもしますしね。安定していない危険な出入口は神社や寺の敷地として封印してしまう等もしています。それにそういった清掃作業はいいアルバイト料も出るんですよ。皆さんには早いですけれどね」
先輩方や先生が説明を聞いているうち、だんだん現実感がヤバくなってきた。
これって21世紀の日本の話だよな。
「まだ正利は信じ切っていないようだけれど、これも現実だ。そしてこの現実で生きていかなきゃならない以上それなりの力を身につけておいた方がいい。せめて対魔討伐免許くらいは取っておかないとな」
「そんな資格あるんですか」
「当然だろう」
川口先輩に肯定されてしまった。
どうやら当然の事らしい。
「対魔討伐免許は専修から3級まで。1年生には夏に3級をとって貰う予定だ。3級は初心者資格で下級の怪異や低レベルの地縛霊とかを払える程度だけれどな。実際に戦力になるのは1級以上になる。
そんな訳で夏合宿は日本の
おいおい。
どんどん話がおかしくなっていく。
ここは現実だよな。
そう思い悩む俺の横で愛梨が質問。
「その対魔討伐という資格は公認資格なんですか」
何だその現実的か現実的でないか微妙な質問。
でも先輩達は大真面目に答える。
「一応宮内庁公認の国家資格だ。普通の履歴書の資格欄には書けないけれどな」
「都和先生は公認検定員」
おいおい川口先輩まで。
公認検定員なんてスキー位でしか聞いた事が無いぞ。
何か何が何だかもう……という気分になってきた。
「現実感の無いファンタジーな話ですね」
思わず俺は本音を言ってしまう。
「実在する
まあ確かにそうだけれど。
「でもこのメンバーで
愛梨がゲームっぽい事を言う。
「卒業した安浦先輩が回復も出来たんだよな。あの人は基本的に支援メインの万能型だったから。支援の術とか回復術とか複数持っていたし」
「ひょっとして先生が回復してくれるんですか」
「私は基本的に検定員としてオブザーバー的立場です。勿論非常時には手をだしますけれども」
「本当は正利も回復能力ある筈なんだけれど、まだ使えないようだしな」
確かに。
貧乳先輩の言う通りだ。
お約束として飛んできた魚の骨を避けながら思う。
本来の俺は不老不死と身体能力の他に、
○ 変身能力
○ 飛行能力
○ 催眠及び人を操る能力
○ 生命力を与える回復能力
等がある筈なのだ。
でも今のところ身体能力以外は使用出来ない。
その辺は
なお俺が考察中、石だの魚の骨だのがガンガンと飛んできている。
どうやら何回も貧乳先輩と思った事を認識している模様。
でも事実だから仕方無い。
面倒だから反撃も訂正もせず基本避けるだけ。
避けきれないものは箸やスプーンで人に当たらない方向へと弾く。
なお先生も他の皆さんも注意しない。
気づいていないのかと思ったら7本目を弾いたところで。
「懐かしいですね。安浦君と並木さんを見ているようです」
先生がそんな台詞をはく。
「同意」
「でもちょっと嫉妬しますね。私を差し置いてダーリンとコミュニケーションを取られると」
「これも仲がいい証拠ですねきっと」
皆さん気づいていた模様。
どうやら約束動作として既に認知されていたらしい。
なんだかなあと感じた時だ。
「回復の心配はいらない。夏までにはなんとかなる」
川口先輩がそんな事を言う。
「それってダーリンが能力に目覚めるの? それとも誰か回復役が入ってくるの?」
川口先輩は答えない。
「でもとりあえず回復役は心配しないでいいわけですね」
「然り」
なるほど。
桜さんのように肯定的に捉えればいい訳か。
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