第19話 合宿の終わり
今夜は寝苦しいという事も無く無事に寝る事が出来た。
寝袋の開く側を外に向けたおかげである。
愛梨は寝相が悪いのかわざとなのか今夜も襲ってきた。
だが侵入されない以上問題は無い。
愛梨側に背中を向けてひたすら耐える。
テントの外に向けて寝袋を開いているのでそれなりに熱も逃げて快適だ。
耐えているうちに俺もいつの間にか眠ってしまったらしい。
気がついたら。
「あっさですよー!」
だった。
基本的に俺はあまり朝は強くない。
何とか起きるという感じだ。
本日はもう撤収日。
朝食にしては豪華な刺身盛り合わせを食べ、装備類を片付ける。
総員掛かりで荷物をまとめ車の屋根に載せ、ロープでくくりつけて島を出発。
車はあっという間に短絡路に入った。
「一般道はこの時間人目も多いので学校内に直接出ますね。休日ですし校舎の裏手側なら今のところ人目が無さそうですから」
学校にも短絡路の出口があるのか。
それなら通学にも楽だよな。
そう思ったら大和先輩が前席からこっちを向いて口を開く。
「言っておくが普段は神社や寺以外にある短絡路以外は極力使うなよ。この島みたいに短絡路が多くて何処もだいたい安全というのは例外なんだ。大体そういう出入口付近には怪異だのそのなりかけだのがたむろしているからな。人が生活しているような処ならまず間違いない。それに学校なんて存在は往々にしてそんなのを引き寄せるんだ。万が一そんな処を出入りしているのが見られても面倒だからな。
だからもし使うとしても普段は神社とか寺以外のものは使うな。まあ先生くらいベテランなら何処を使っても大丈夫だけれどさ」
なるほど。
大和先輩も普段は使わないと言っていたしな。
それにはそれなりの理由があるという訳か。
「遅刻しそうな時に使うとかもやめた方がいいしょうか」
桜さんの台詞に大和先輩は頷く。
「私なら遅刻する方を選ぶ。焦ってもっと酷い事になったらたまらない」
「私は使う。学内でも」
「香織はそういったモノに出会うかどうかわかるからな。私はわからない。だからギャンブルはしない」
うん、もっともだ。
ふっと車が揺れる。
窓の外が普通の景色になる。
学校の裏手だ。
「このまま合宿所に行って荷物を片付けます」
そう言えばこの合宿で車を見た時に思ったことがあった。
「それにしてもこの荷物、先輩と先生の2人だと積むのは大変だったでしょう」
島で積み込むときも結構大がかりな作業になった。
基本的には桜さんが屋根の上に乗り、俺が下から荷物をあげる。
他の皆さんで寄って集って荷物を準備する。
つまり狼女と
2人だけだと腕力的にも荷物整理的にも大変な筈。
「その辺が大変だったかどうかは運が良ければわかる」
何だ、何かからくりがあるのか?
車は合宿所を一度過ぎ、バックで合宿所横の水場や倉庫の横に入って停まる。
先生が周りを見回して頷いた。
「ちょうどどなたもいらっしゃらないようですね。一気に片付けましょう」
「皆は離れて見ていろ。それなりに面白いから」
何だろう。
そう思いつつ離れた俺達の前で、先生は懐から何かを取り出す。
「5人くらいいればすぐ片付きますね」
そう言ってさっと右手から白い何かを投げる。
白い何かは投げられた手元から一気に巨大化した。
白い人型の紙だ。
正に紙を切り抜いた感じで厚みがなくペラペラな人型の紙。
それが5体、先生の前に横向きに整列する。
「それでは片付けお願いします」
巨大紙人形が動き始めた。
荷物を下ろし、鍋類を洗い、テントは干してその他のものは倉庫に入れる。
更に1体は自動車の洗車をはじめた。
「海辺に2泊3日停めましたからね。錆びないように念入りに洗わないと」
「あれは何?」
愛梨が小声で大和先輩に尋ねる。
「式神の基本バージョンだ。先生は最大で64体以上の式神を自由に使える。今はあの姿だけれど思い通りの外見にすることも出来る。あの短絡路での脱出訓練の時に使った式神も基本的には同じだ」
うーむ。
こうして見ると現実の風景とは思えないな。
見慣れた学校内なのに非現実感がでてしまう。
なまじ人型が有能でてきぱきと効率的に片付けていたりするので余計に。
見ている間にも片付けや洗車はどんどん進んでいく。
最後に広げていたテントをたたんで倉庫にしまえば終了だ。
再び式神のみなさんが整列。
先生がパン、と手を鳴らすと姿を消した。
「はい、これで皆さん合宿終了です。お疲れ様でした」
先生から合宿終了が宣言される。
漂う非現実感に一瞬呆けていると、愛梨に引っ張られた。
「さあ帰ろ。帰りはバスと電車、どっちにする?」
その台詞でやっと少し現実感覚が戻ってくる。
「今日はちょい疲れたから勿体ないけれどバスかな」
「りょーかい。桜さんは」
「私もバスです。一緒に帰りましょうか」
「そうだね」
仕方無いから俺も一緒に歩いて行く。
「でも合宿結構楽しかったよね。魚も美味しかったし」
「あれはほとんど愛梨さんが捕りましたから」
「そうね。何ならダーリンと南の島で2人、自給自足しても生きていけるかな」
「おい待て、俺を巻き添えにするな」
「だってまたしてもお姫様抱っこで助けてくれたんだよ。もうこれ完全にダーリン、私にぞっこんでしょ」
「気のせいだ」
「もうダーリン照れちゃって」
適当に愛梨の相手をしながら俺は思う。
今頃は勉強三昧の生活の筈だったのに。
邪視持ちの自称彼女と狼女な友人。
先生は式神使いで先輩は魔女とジプシー。
絶対こんな現実はおかしい。
何処で俺は間違えたのだろうか。
そしてこの先も俺の現実は間違ったままなのだろうか。
答は出てこない。
窓の外はまだ休日の朝。
運動部の連中が登校しているのが見える。
あの人達はきっと俺の今までの現実と同じ世界を生きているんだろうなあ。
「ダーリン何見ているの。ああいう子が好み?」
あ、愛梨に誤解された。
「いや、ああいう普通の現実もあるんだよなって」
「いいじゃない。私達は私達で楽しくやれば」
本当にそれでいいのだろうか。
でも取り敢えず家に帰ったら来週の予習をやろう。
英単語帳も持って行ったけれど全然見なかったし。
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