第14話 豪華な夕食

「ダーリンもまだまだだね」

「いやあの魚の捕り方は反則だろ」

 漁獲は充分以上。

 だが俺のプライドはズタズタ状態(笑)という感じだ。


 泳ぎながら銛で魚を捕まえるのは難しい。

 水の抵抗がかなりある上に魚は結構素早いからだ。

 仮に銛が刺さったとしても浅ければ魚は逃げてしまう。

 大きい魚ほど岩とか海底を使ってしっかり刺さないとつかまらない。

 更に言うと波もあるし呼吸だってそこまで長くは続かない。

 そんな訳で俺は結構苦戦した。

 投げること5回目でやっとそこそこ大きいのをゲット。

 長さ30センチくらいある尻尾の大きいイワシみたいな魚だ。

 疲れたしちょっと自慢してやろうと思って愛梨の方へと行ってみると……


「ダーリン手伝って、集めるのが追いつかない!」

 周りに大きい魚が浮きまくっていてそれを必死に集めている愛梨の姿が。

「何だこれは、食べられるのか」

 何か毒とか病気とかで浮いているんじゃないよな。

「私の邪視で捕ったから大丈夫だよ。ただ色々いたからつい数っちゃって。もったないないから集めているけれど追いつかないの」

 魚、それも大物の集団虐殺現場だ。

 こんなの駄目だ、勝てない。

 魚も俺が捕まえたのより遙かに美味しそうなのが多いし。

 でっかい鯛みたいなアジとか鯛みたいな赤い美味しそうなのとか。

 仕方無いので愛梨が邪視で倒して浮いてきた魚を集める作業を手伝う。


「愛梨もう充分だと思うぞ。網に目一杯だろもう」

「そうだね。大漁大漁」

 俺の方の獲物用網まで限界近く入っている状態だ。

 数が多いのもあるが、大きいのが多いためでもある。

 俺が捕った大イワシもどきなんてまだまだ可愛い方。

 50センチはあるようなのが普通に何匹も捕れている。

「今日全部食べるのは無理だな。また干物でも作るか」

「そうだね」


 そして睦についてからも一悶着。

「ダーリン、網が持ち上がらない」

 取り過ぎて網に入りすぎで重いのだ。

 縛っているロープをほどいて浮き輪と網にわけ、浮き輪2つを愛梨に、魚入り網を俺が持つ。

「これ6人じゃ食べきれないだろ、どう考えても」

「捕りすぎたね確かに。でも大きいのが見えるとつい捕っちゃって」

「参考までに邪視の射程はどれ位だ?」

「見て認識できれば大丈夫だよ」

 うん、こんな魚を捕るためのような能力に勝てるわけが無い。

 そう思いつつテント方面に戻ると……


「何だこれは」

 大和先輩に思い切り呆れられた。

「見た通りです」

「大きい魚ならなんでもよかった、今は反省している」

「Little and often fills the purse.塵も積もれば山となる訳か」

「塵と言うには大きすぎますけれどね、この辺の魚」

 テントから川口先輩と先生まで出てくる。


「大漁ですねこれは。とりあえず傷まないうちに処理しましょう。撫子さん、クーラーボックスと氷をお願いします」

「わかりました」

「あと桜さんも呼びましょう。これは全員で処理した方がいいです」

「桜さんならココナッツの採取です。魚がなかなか採れないから確実に採れる方をとってくるって」

「わかりました。撫子さん以外全員でウロコ取りからはじめましょう」

「わかりました」

「了解」

 そんな事で魚さばき大会が始まってしまった。


 ◇◇◇


『俺は標準的な魚の三枚下ろしと五枚下ろしの技法を覚えた。料理の経験値が5上昇した』

 平たく言うとそんな時間が経過した後。

 愛梨が採りまくった魚のうち半分以上は捌かれサクにされたり切り身になったりしてクーラーボックスに収納された。

 他に6匹程干物として乾燥中だ。

 残りのメインは刺身で、アラの一部はスープの出汁に使ったり煮物にしたり。

 パンの実はじっくりと焚き火で丸焼きにしたものが1個。

 あとは切ってスープに入ったりサラダになったりしている。


「それにしても愛梨は料理も上手いな。これならもういつお嫁に行っても大丈夫だ」

「だそうですよ、ねえダーリン」

「確かに料理が上手いのは認める、だがそこまでだ」

「人生諦めが肝心」

 川口先輩まで!

 というのは冗談としても確かに愛梨は料理が上手い。

 魚も捌けるし他も色々。

 ここの貧しい調味料だけで味を確かめつつスープまで作ってしまった。

 なおスープはココナッツの白い部分をミルク状にして入れたり、パンの実が入っていたり、魚のつみれが入っていたりする。

 味見をしてみたが悔しいことにこれがなかなか美味しい。

 刺身も綺麗に切れて並んでいる。


 本日の夕食メニューはこんな感じだ。

  ○ 刺身いろいろ

   ● アジっぽい魚

   ● ちょっと白身が濁った感じの脂がのってそうな魚

   ● 鯛っぽいきれいな白身の魚

   ● カツオっぽい魚

   ● ココナッツの白い部分の刺身

  ○ 煮物

   ● アラの煮付け

  ○ サラダ

   ● 蒸したパンの実と刺身、その辺の葉っぱのサラダ

  ○ スープ

   ● 魚のつみれ、パンの実、二枚貝、ココナッツミルクのスープ

  ○ 主食類

   ● ご飯(先生が炊いた美味しい白米のご飯)

   ● パンの実の丸焼き

  ○ その他

   ● ココナッツジュース

 パンの実は焼いた部分はパンの香りがするが、食べた感じは里芋。

 ココナッツの白い部分はイカの刺身がちょい脂のったような感じ。

 ココナッツジュースは味としては経口補水液だが、冷やしてあるので美味しい。

 この辺冷やしたり加熱したり出来る大和先輩の魔法は本当に便利だ。

 なお回し飲みなので間接キスしまくりなのだがもう気にしない事にした。

 俺以外誰も何も感じていないようなので。


「美味しいですね、特にお刺身、ここまで歯ごたえあるのは初めてです」

「そりゃ新鮮だからな。ただここまでいろいろ捕れるとは思わなかった」

「この白っぽい刺身美味しいよね、肉厚でちょっと甘みがあって」

 悲しい昼食と比べてはいけない豪華さだ。

 あとこのサラダも美味しい。

 サラダというか、要は蒸して角切りにしたパンの実と刺身、そしてワサビマヨネーズなのだけれども。

 スープはサラサラだけれど味にコクがある。

 これでお粥でも作ったら美味しいだろうなという感じで。

 無論このままでも美味しい。


 なお丸焦げになるまでやいたパンの実は、ちょっと柔らかくて味薄めの焼き芋って感じだった。

 ホクホクでもっちりでちょい甘くてお腹に貯まる。

「本当に豪華だよね」

「去年はもう少し質素でしたね。魚は3種類だけで、やっぱりパンの実を焼いて」

「釣りだとここまで捕れないからな。安浦先輩も翠先輩も水中は得意じゃないし、聡美先輩は米を食べないし。その代わり怪しいデザートを作りまくった」

「昨年の反省で今年は砂糖と蜂蜜、バターとサラダオイルを禁止にしました」

 どんな状態だったのだろう。


「参考までに何をやったんですか?」

「パンの実やココナッツでスイートポテトもどきとかドーナツとかポテトチップもどきを作りまくったんだ。後半はほとんどデザート風のものばかり食べてココナッツミルク風飲料を飲んでいたな。まともな飯を食べずに」

「安浦先輩は甘党。翠先輩はおやつ以外の料理が不可」

 なるほど。

 個性豊かな先輩達が揃っていた訳か。

「でも美味しそうですね」

「2泊3日で2キロ太った」

「うっ!」

 桜さん、沈黙。

「確かにそれでは禁止したくなりますね。美味しそうですけれど」

「なまじ美味しいだけに始末に困る事もあるわけだよ諸君」

 うん、何となくわかった。


「でも確かに安浦先輩は甘党でした。よくあの道を使って全国の洋菓子店なんて出かけていましたし。『男1人だと奇異の目で見られるから付き合ってくれ』なんて言われてよく一緒させてもらいました。札幌から福岡まで、休みのたびに何処かにケーキとか食べに行きましたね」

「Sugar and spice And everything nice.That's what little girls are made of.なんて言うけれどな。安浦先輩はSugar and sugar and everything sweet.で出来ているような人だった、男だけれど」


 ちょい疑問があるので聞いてみる。

「それって性格ですか?」

「いや、実際に食べているものがだ。何せ昼食すらあの道で学校外に抜け出してケーキとか買ってきて食べていたから。性格はスイートでもパワーパフガールズでもなく、何と言うか捉えどころのないまさに狸だったけれどな」

「それって健康に問題が出ないですか」

「体型的には問題ありそうだけれど安浦先輩は医学部だしなあ。それに本人は『俺は体内でショ糖からアミノ酸を合成出来る』なんて言っていたし」

 そんな訳あるか!

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