第11話 貧しい昼食

 さて炊飯だ。

「大丈夫ですよ。お米も煮ればきっと食べられますわ」

なんていう桜さんには任せられない。

 でも、

「私も炊飯器以外で炊いた事は無いなあ。家庭科の実習もガス炊飯器だったし」

という愛梨に任せるのも何だかという感じ。


 仕方無いので俺が飯炊き番をする事になった。

 一度だけ小学校の頃、家庭科の授業で鍋でご飯を炊いた事がある。

 か細い経験だが無いよりはマシだろう。

 確かあの時は手首で水の量を量ったよな。

 そもそも3人分の米の量がよくわからない。

 食事回数から見て全体の7分の1にすればいいか。

 そんなアバウトな感じで米をはかり水を入れる。

 なお水が勿体ないので今回は研がない。


「石はちょうどいい大きさのものが転がっていますね」

という感じなので適当にその辺の石を使ってかまどを作る。

 ご飯の鍋やフライパンを置く事が出来る程度の簡単なかまどだ。

 燃えそうな枯れ木もそこそこあって集めるのに苦労しない。

「こういった乾いた葉っぱとかあるのは助かるよね。火も簡単につくし」

 なんていいながら愛梨は器用に焚き火をおこす。

「上手いな。普通はもっと燃え移らせるのに手間取ると思うけれど」

「この目で見ると弱点がわかるんだよね。だからそこを狙ってたき付けを入れれば簡単に火がついたの」

 なるほど。

 これも邪視の能力なのか。


 火がすこし落ち着いたところでご飯用の鍋をのせる。

「この貝はどうする?」

 アサリとかハマグリとかと同じような二枚貝だ。

 それ以上細かい事は俺にはわからない。

 本当は酒蒸しなんてしたいところだが、調味料は選ぶほど無い。

「ご飯が炊き上がったら水で蓋が開くまで蒸そう」

 とりあえず一番無難な方法を提案しておく。

「お吸い物にしてみるのは?」

「出来れば水源が見つかるまで水は節約したい」

「確かにそうだね」

 無事無難路線で落ち着いた。


 後はご飯が美味く炊けるかだ。

 現在米の鍋は勢いよく沸騰中。

 はじめちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いても蓋取るな、か。

 でも焚き火なので火の調節なんてほとんど出来ない。

 それにどの辺で火を弱めればいいかなんてのも全くわからない。

 ただ沸騰する水分がある状態ということはまだまだだよな。

 中の水気が無くならないと。


 まだかまだか。

 そう思っていると俺の鼻孔がある匂いを捉えた。

「何か焦げている匂いがするよ」

 愛梨も気づいたようだ。

 やばい。

 慌てて鍋を火から下ろす。


「開けてみる?」

 どうしようかちょっと考える。

「取り敢えずこのままにしておこう。確か蒸らす時間も必要だった気がするから」

 不安だけれど開けないでおいた。

「それじゃ貝の方をやろうか」

「そうだね」

 こっちは簡単。

 ほんの少しの水と貝を入れ、火にかけてやるだけ。

 中の水が沸騰したらわりと簡単に全部の貝が開いた。


 さていよいよ不安なご飯とご対面。

 見た瞬間失敗したのがわかる。

「まだ早かったな。真ん中がびちょびちょだ」

「うーん、いまひとつでなくていま4つくらいですね」

「大丈夫ですよ、きっと。よく噛んで食べれば」

 つまりはそんな出来だ。

 食器を3つ取って焦げも半生部分も平等に盛り付ける。

「諦めろ。芯があっても我慢だ」

 つまり連帯責任だ。

 更に食器3つに貝と出た少量の汁を平等に入れる。


「よし、最初の貧しい昼食、完成だ」

「うーん、今一つ食欲がわかないです」

「次はお刺身を捕りましょうね」

「どうやって捕るかが問題だけれどな」

 何せ使えそうな道具がほとんど無い。

 でもまあ、それは水を確保した後考えよう。


「それでは、いただきます」

 そんな訳で昼食開始。

 食べた瞬間に思う。

「うーん、見た目通りの完成度だな、米は」

「あえてご飯と言わないところがダーリンの奥ゆかしさですね」

「大丈夫です。よく噛めばきっと栄養素は同じです」

 見かけ通り飯は悲惨な状態。

 焦げもあるのに芯もある。

 火にかける時間が短かったのもあるが水も足りなかったのだろうか。

 次回はもう少し水を多めにして、多少焦げた匂いがしても気にせずもう少し炊いてみよう。


 そして、貝はというと……ジャリッ。

「痛い! 味は美味しいけれど」

「砂を抜くのを忘れていたな」

 そんな状態だ。

「大丈夫です。砂があるとわかっていれば……でもじゃりっとしますね」

「味は美味しいと思うよ、確かに」

 それでも他におかずは無い。

 なので砂がちょっと入った貝をおかずに今4つのご飯もどきを食べる。

 なかなか最悪な1回目の食事だ。


「夕食は頑張ろうな」

「でもその前に水を探さないと」

「そうだった」

 貧しい食事だが米を飲み込むのに時間がかかった。

 食べ終わったら急いで片付ける。

 なお鍋のこげつきは取れなかったので海水を入れておいた。

 これで時間が経てばふやけてとれるだろう。

 アルミ鍋だから多分錆びない、大丈夫、きっと。


「さて、水探しか」

「でも今のうちに貝を採って砂抜きしておかない? そうすれば夕食でとりあえず砂の無い貝を食べられるよ」

 それもそうだ。

 でも水が無いと明日から悲惨な事になる。

「なら俺がもう1回、色々この島を走り回ってみる。今度は出来るだけ島の内部にも入ってみようと思う。だから2人は貝を採っていてくれ」

「私も水探しをしましょうか。先程の貝は場所がわかっているので1人でもある程度は採れると思います」

 そう言えば桜さんは狼女なんだよな。

 俺と同じくらいの身体能力があってもおかしくない。


「そうだね。なら私は貝採りに専念するね」

 そうだなと言いかけて、ふと何かひっかかった。

 ん、待てよ。

「そう言えば愛梨、妖精とかはこの辺にいないのか。いれば聞いてみれば早いと思うんだが」

 我ながら名案だと思ったのだが愛梨は首を傾げる。。

「うーん、でも此処に妖精いるかなあ。仮にいたとしても日本語も英語も通じないと思うよ」

「妖精って現地の言葉を話すのか?」

「私の知っている限りはそうだよ。それに今のところ姿を見かけないな。この島は妖精がいたとしても凄く少ないと思う」

「そうか、残念」

 どうも簡単にはいかないようだ。

 仕方無い、地道に探そう。

「それじゃ俺はこっち周りで中に入る獣道か何かを探してみる」

「では私はこちら側に参ります」

 そんな訳で再び島の探索に出る。


 ◇◇◇


 今度は獣道等が無いかどうか、先程よりもう少し細かく確認しつつ走る。

 ある程度走って気づいた。

 どうもこの島には大型の生物はいない感じだ。

 つまり獣道が無い可能性が高い。

 何とかして林が切れて中に入れそうな場所は無いか。

 見逃さないように注意しながら走る。

 島のおそらく北側、3つ目の浜まで来たところだった。

 何となく違和感。

 俺は立ち止まる。

 不自然な岩があった。

 上部を削ったかのように平らで、しかも岩の両側が真っ直ぐに落ちている。

 まるで船着き場のようにだ。

 さっきは川の有無ばかり気にしていたから気づかなかっな。


 更にそこから島の中央方向を見てみる。

 先程と同じあの痛そうな木の林。

 だがよく見ると段差がある場所がある。

 その部分だけあの木が途切れているのだ。

 これを辿れば島の奥へ向かって入れそう。

  

 近づいて確認。

 やはり段差の部分を通って島の中央部を目指せそうだ。

 この船着き場っぽい場所とこのルートが続いているように見えるのは気のせいだろうか。

 それともかつて人がいた名残なのだろうか。

 そう思いながら島の中を目指し、段差の端を進んでいく。

 

 ある程度進むと植生が変わった。

 あの痛そうな木ではなく葉が小さく分厚めで長丸形の小灌木が中心になる。

 これなら何とかかき分けて進めるな。

 それにしても何故ここで植生が変わったのだろう。

 何か地質が違うのか、それとも……

 なお段差が途切れて地形は平坦になった。

 少しだけ周りから見てくぼんでいるような気もする。


 そして俺はある葉っぱと蔓に気づいた。

 そして察する。

 これは間違いなく人為的なものだ。

 おそらくこの周辺を誰かが来て切り開いたのだろう。

 その際あの痛そうな木を伐採して、ここに畑を作ったと。


 このつる性の植物、これは多分ヤマイモ系の葉っぱだ。

 日本でも見覚えある。

 よく見ると他にも明らかに他と違う大きな樹木がこの盆地内に見える。

 実がなっている大きな樹木とかヤシっぽい樹木だ。

 ただ人の気配は今のところ無い。

 人がいたとしても過去の事のようだ。

 おそらくこれらは食べられるだろう。

 ただスコップが無いとイモは無理だ。

 土も固そうだし。


 さて人が住んでいたなら水も付近で確保出来る筈だ。

 でもこの地形だと沢がありそうな雰囲気は無い。

 水が出ているとすれば崖沿いか、盆地の一番低い場所か。

 植生の変化でわかると思うが残念ながら辺りを見てもよくわからない。

 なのでまずはこの盆地の一番低い処を探して……ああっ。


 おそらく建物の跡だ。

 建物も建材も既に無い。

 でもこの部分だけ下に石で石垣っぽいものが出来ている。

 南国だけに分解も早いのだろう。

 更に俺は石垣を丸く組んだ何かを見つける。

 これは……井戸だろうか。

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