第10話 サバイバル合宿開始

 車が到着したのは砂浜だった。

 青い空、白い砂浜、焼け付くような日差し。

 リゾートに来たのならそれなりに楽しいかもしれない。

 ただ俺としては不安ばかりだ。


「まず荷物を全部降ろすぞ。手伝え」

という事でルーフキャリアに積載してある荷物を全て下へと降ろす。

 それらを先輩2人がささっと分けて、

 ○ 妙に古臭いテントらしき布地

 ○ 同じく古臭いテントのポール

 ○ 銀色のマット×3

 ○ 封筒型寝袋×3

 ○ 水ポリタンク2Lが6個

  (うち既に水が入ったもの3個、空が3個)

 ○ 使い込まれた鍋2つとフライパン

 ○ 食器と箸とスプーン

 ○ 包丁2種類とまな板

 ○ 調味料と書かれた袋

   (中身はミニ醤油1本、袋入りうどんつゆ10袋、マヨネーズ1本、ワサビチューブ1本)

 ○ 折り畳みナイフ×3

 ○ ライター×1

 ○ 4ミリくらいの細めのロープ一巻

 ○ 10Lくらいのポリバケツ3個

が俺達用の装備としてひとかたまりになった。


「さて装備は以上だ。あとは全て自分達の判断でやってくれ。なお装備を分解したり壊したりしても構わない。どうせ全部それなりに使い込んでいるからな」

「それでは合宿開始です。皆さんの成長を期待しています」

 以上のようだ。

 まず最初はどうしようか。

「取り敢えずテントを張ろうか」

「そうだね。まずは出来る事からはじめましょう」

「何かわくわくしますね」

 俺は不安でいっぱいなのだが。

 桜さんはどうも楽観主義者のようだ。


「さて、テントはどの辺に張ろうか」

「うーん、潮が満ちて水浸しになると嫌だし、風が強くなると怖いからギリギリこっちの林に近い方かな」

「でも虫とかいたら嫌ですよね」

「なら林から少しだけ離れた砂浜の奥部分ってところか」

 下は砂地なので寝心地そのものは悪く無さそうだ。

 予定地までテントを持って行って広げる。

 そして思う。

 何だこのテントは、と。


「旧式すぎて見た事ないタイプだな」

 本体布地が分厚い木綿製の三角テントだ。

 今時こんなの無いだろう。

「何か漫画に出てきそうなテントですね」

 今時のドーム型テントのようにポールで自立するような便利な物じゃ無い。

 だから3人でテントの構造を見て張り方を考える。

 2本あるポールの先端をそれぞれテントの中央線上にある穴にひっかけ、そこからロープを張って立てる形式の模様。

 3人でやると大変そうだ。


 手順を相談した後、作業開始。

「まずポールを通して、あらかじめロープを固定しておいて一気に立てるか」

 一応ペグはついていたので砂地に埋め込んでロープの端を4箇所固定する。

「それじゃ立てるぞ」

 俺と愛梨でそれぞれ反対側のポールを持って立てる。

 俺達が支えている間に桜さんがロープを調整したり本体を引っ張ったりすれば。

「一応立ったね」

「あとはテントの端をペグで固定すればいいよな」

 何となくテントの形にはなった。

「何か楽しいですね、こういうのって」

 確かにちょっと楽しかったかも。


「でもちょっと暑いですね」

「Tシャツに着替えた方がいいかな。下もジャージで。汚れそうだし」

「いっそ水着を着込んでもいいかもしれないですね」

 そこで俺は気づく。

 この3人でテントは1つ。

 つまり夜はここで一緒に寝ろという事だろう。

 いいのか同室で寝るようなものだぞ。

 そりゃ先輩達の目もあるし変な事は出来ないししないけれど。

 少なくとも俺は。


「それじゃダーリン、ちょっと中で着替えてくるね」

「はいはい」

 とりあえずその時のことはその時になってから考えよう。

 それに何が出来るわけでもないしする訳でも無い。

 先輩や先生の目が光っているのだ。


 そう言えば俺も着替えた方がいいかな。

 俺の荷物が入ったディパックを持ってくる。

 テントと林の影になるところでささっと着替え。

 水着代わりの短パンの上に学校ジャージのズボンとTシャツを着ればOKだ。

 いつ女性陣が出てくるかわからないのでとにかく急ぐ。

 うん、間に合った。

 脱いだチノパンとかパーカー類を畳んでディパックから出した袋に入れる。

 何せディパックが満タンで入れる程の余裕が無いから。


「ダーリンどうですか、これ」

 愛梨がテントから出てきた、っておいおい水着かよ。

 しかもビキニだ。

 流石に細かったり派手だったりするのでは無く大人しいデザインだけれど。

 それでもお腹丸出しだし色々まあ下着スタイルっぽいしで……

「はいはい。この後水場探しに行くから上を着て」

「どうですか、ちょっとだけ頑張ってみたんですけれど」


 これは感想を言わなければ戻らないな。

 確かに可愛いことは可愛い。

 水色地の花柄で、デザインも含め愛梨に似合ってはいる。

 でもそう素直に言えないのもやっぱり俺なのだ。

「はいはい、似合っているから、可愛いから」

「本当ですね」

「本当、可愛い可愛い」

「後でたっぷり悩殺しますからね」

 しなくていいから。


 愛梨が再びテント内へ戻った後、俺は先輩達の方を見る。

 先輩達はこっちと同じような砂浜の林寄りの場所にテントを2張り張っていた。

 あっちは1張りはこっちと同じ古い奴で、1張りは現代風のテントだ。

 取り敢えずテントの設営位置はここで正解だった模様。

 さて、次は水の確保だがどうしようか。

 林は刺さると痛そうな長い葉を持つ木が茂りまくっていて入るのが困難。

 となると海沿いを歩いて川を探すのがいいだろう。

 幸いこの辺は起伏がそれほど無く海岸沿いに歩きやすそうだ。

 海そのものも大半が珊瑚礁で浅くて歩けそうだし。


 ん、待てよ。

 何も全員で探しに行くことは無いよなと俺は気づく。

 俺の身体能力を使えばかなりの速度で動けるはずだ。

 少なくとも一般人の筈の愛梨を連れて行くよりよっぽど早いはず。

 ならば、だ。

 俺は自分のディパックから中身を出して全部買い物袋に詰め替える。

 空にしたディパックの中に空の水ポリ3個を入れれば準備完了だ。


「ちょっとひとっ走り海沿いに川が流れていないか見てくる。着替え終わったら2人はこの辺で食べられるものがあるか、捕ることが出来るか探してみてくれ」

 テントの中に声をかける

「ええっ、一緒に行かないの?」

「よく考えたら俺1人の方が速い」

 愛梨も言われて気づいたようだ。

「そう言えばそうだよね。でも2人で出かけてちょっと人目のないところでイチャイチャとか」

 おいおい。


「しません。じゃ行ってくる」

 ディパックを担いで走り始める。

 砂で足が取られるがそれでも常人が走るよりは速い筈だ。

 草が少し生えている出来るだけ砂が硬めのところを選んで走る。

 砂浜が終わり岩場になった。

 更に行くと崖か下の珊瑚礁部分かという場所になる。

 崖と言ってもそれほど高くはないけれど。

 川を探すのが目的なので取り敢えず崖の上へ。

 海風のせいか木の生えていない端部分を選んで走る。


 島そのものは中心が高く周りが少しずつ低くなっていく感じの地形。

 ただ一番高いところでもそこまで高くはなさそう。

 せいぜい海抜50メートルという処だろうか。

 海岸沿いは岩場や砂浜、場所によっては此処のような4メートルくらいの低い崖。

 植物はヤシとパイナップルのあいの子のような高さ5メートル程度の木が密集。

 周りは珊瑚礁だし間違いなく南の島。

 だがそれ以上はわからない。


 それにしてもなかなか川らしきものは無い。

 ひょっとして反対側に走った方が正解だったのだろうか。

 いくつか浜を過ぎ、岬のような場所も過ぎる。

 5つ目の浜に出たなと思ったら……見覚えのある車が見えた。

 なんだと!

 結論、つまり川は無いという事か。

 もう一度よく見てみようかと思ったが、川が無かったのは確か。

 とりあえず相談するためにテントに戻る事にする。


 2人は水着で砂浜で何かをしていた。

 愛梨はさっき見た水色のビキニ。

 桜さんは白地に小さな花柄の一見ブラウスとスカートに見える水着だ。

「あ、ダーリン。水場あった?」

「島を一周したが川が無い。何か川以外で水場を探すしかないようだ」

 愛梨はええっ、という顔をする。


「先生達の話では水はある筈だよね」

「ああ。でも川以外の方法らしい。少なくともこの島に海まで流れている川は無い」

「なら島の中を探してみるしか無いよね。桜ちゃん何か水場を探すのに使えそうな能力ある?」

「この状態の私はちょっとだけ他人より速く動けるくらいですわ」

 俺と同じか。

「俺も今のところ身体能力だけだ。愛梨は?」

「うーん、何か出来るかなあ」

 つまりあてはないと。

 うーん。


「それに島の奥に行くにせよ、痛そうな林の中に突っ込むは無理だよな」

 海と反対側はあのヤシとパイナップルの合いの子みたいな木が密集した林。

 長い葉っぱの先にはトゲがあって刺さると痛そう。

 正直入りたくないし入って進めるとも思えない。

「でも獣道でも何でも入れそうな場所を探すしか無いよね。何かしないと水は見つからないし」

「それにそういう場所を探検というのも楽しいかもしれませんね」

 本当に桜さんは楽観的だよなと思う。

 まあ悲観的になるよりはいいか。

 それに今はそれ以上の作戦も思いつかない。


「なら探検か」

「でもその前にお昼にしませんか。愛梨さんと一緒に食べられそうな貝を幾つか見つけましたから。ご飯と貝だけですけれど」

 そう言って桜さんは持っていたバケツの中を見せてくれる。

 アサリとかハマグリみたいな二枚貝がいくつか入っていた。


 確かに時間的にもそろそろお昼かな。

 ここで慌てるより一息ついたほうがいいだろう。

 何かいい考えも思い浮かぶかもしれないし。

 でもそこでふとある事を思い出す。

「そう言えば誰か鍋で米炊ける自信あるか?」

 互いに顔を見合わせる。

 あ、やっぱり。

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