第9話 不穏な合宿

 不穏だ。

 合宿のしおりには用意する物として、

  ○ ジャージ上下2組以上(学校指定のものでも可)

  ○ 汚れてもいい私服上下

  ○ Tシャツまたは学校体操服シャツ上2枚以上

  ○ バスタオル1枚以上

  ○ タオル3枚以上

  ○ サンダル

  ○ 洗面道具一式(洗面器はいりません)

  ○ 水着

  ○ 持病の薬等あれば

  ○ 当日の服装は私服、運動靴、背負えるバック

とある。


 この季節の合宿に何故水着がいるのだろう。

 ちなみに合宿場所は学校の合宿所となっている。

 北関東であるここで五月にプールを使うような事態は無いだろう。

 勿論温水プールなんて物は学校には無い。

 ただ先輩は確か車で移動すると言っていたような気もする。

 うん、わからない。

 更に不穏なのはメンバーだ。

 俺以外全員女子。

 しかもそのうち1人は愛梨だ。

 夜這いでもされそうで洒落にならない。


 でもまあ顧問の先生がいるなら大事になる事も無いだろう。

 そう思う事にして家を出る。

 なお合宿に備え、予め合宿後の授業3日分の予習はしておいた。

 そのせいで若干睡眠不足だがまあ仕方無い。

 なお時間があるとき用に英単語の小型参考書を一応忍ばせてある。

 そんなこんなで一式をきつきつに詰めたディパックを背負って電車に乗車。


「ダーリン、おはようです」

 乗った真ん前に愛梨がいる。

 何故目の前にとか思ってはいけない。

 毎朝こんな感じで俺の乗るところに愛梨がいるのだ。

 おおかた邪視の能力の一部でも使っているのだろう。

 簡単な未来予測は出来るとこの前言っていたし。


「合宿楽しみですね。ダーリンと一緒と思うと思うと今からわくわくモードです」

「でも学校の合宿所だろ。あの校庭の隅にある」

「ダーリンと一緒なら何処だって楽しいです。ただ女子ばかりなので要注意なのですよ。浮気したらダーリン、わかっていますよね」

「浮気も何もそもそもまだ何の関係もないだろ」

「もう、はじめて出会った時からお姫様抱っこしてくれた仲じゃないですか」

 まあこの辺の会話はいつもの挨拶みたいなものだ。

 だからさらっと無視して本題へ。


「ところで合宿、実際は何処で何をするんだと思う?」

「えーっ。短絡路の見つけ方とか歩き方、気配隠匿の方法とかをやるって書いてありますよね」

「でもそれに水着とかは必要無いだろ。場所は合宿所の筈だし」

「それもそうですね。うーん……」

 愛梨はちょっと考える素振りをする。

「ひょっとしてお風呂が混浴とか」

「学校の合宿所でそれは無いだろ」

「ダーリンとなら水着無し混浴でもいいですよ。あ、でも水着ちょっと可愛いの買ったからまずはそれを見せてからですね」


 おいおいちょっと待て。

 水着無し混浴を想像してしまったじゃないか。

 大和先輩は綺麗だけれど性欲わかない体型だから別として、その他の皆さんはそれそれエロそうだ。

 愛梨や川口先輩は体型的にもエロい。

 桜さんは大和先輩並みに胸が無いけれど、それはそれでいけない物を見てしまった気分になりそうだ。

 だいたい同級生なり先輩と混浴なんて考えただけでエロ妄想が爆発するわけで……

 色々考えてしまったが何せ俺は健康な高校生男子だからしょうがない。

 なおボールペンとかシャープペンは飛んでこない。

 この辺は流石に射程外のようだ。


「まあ顧問の先生がついているからそんな事はしないだろ」

「だったら尚更謎ですよね。もし水着を使わなかったら後でダーリンだけに来て見せてあげますね」

「だが断る」

 そんな内容の無い会話をして学校の最寄り駅で下車。


「今日はバスですか? 歩いて行きますか?」

「朝はあまり得意じゃないからバスで」

 休日なのでバスもガラガラだ。

 約10分ほど乗って学校前に到着。

 なお集合場所は学校の正門前だ。

 現在集合時刻の15分前。

 誰もまだ来ていない。


「ちょっと早く着いちゃいましたね」

「でも電車の時間的にはこんなものだろ」

「そうですね。桜ちゃんや香織先輩は千葉県側だから電車の本数多いですし、もう少しギリギリに来るかも。撫子先輩は歩いて来れますしね」

 なんて話している間に次のバスが来て、見覚えある2人が降りる。

「おっはよー」

「おはようございます」

 川口先輩と高津さんだ。


 となると残りは大和先輩と先生か。

 そう思ったら厳つい車が門の前に停まった。

 車そのものはトヨタのランドクルーザープラド。

 ただ標準では無さそうな濃緑色に全面ペイント済み。

 更にウィンチだの大径フォグランプだのルーフキャリアだの色々ついている。

 日本の道路よりも東南アジアのジャングルが似合っていそうな車だ。

 まさかと思いつつ見ていると助手席の窓が開く。


「全員いるな、さあ乗ってくれ」

 勿論大和先輩だ。

 という事は運転席にいる大人しそうな中年女性が顧問の都和先生か。

 とてもこんなガチガチな車に乗るような人には見えないのだけれど。

 そんな事を思いながら、

「失礼します」

と後ろの扉を開け、3列目奥の席に座る。

 中はまあ普通の高級SUVの内装で少し安心。

 シートカバーが防水のネオプレーンゴムなのがちょっとだけ気になる程度だ。

 なお3列目は2人席なので俺の隣は当然愛梨だ。

「それでは参りますね。一応後の方もシートベルトを着用して下さい」

 先生は見かけ通りの物腰のやわらかい感じの口調で言う。

 そんな訳で俺達もシートベルトを装着。


「車で何処へ行くのでしょうか。しおりでは学校の合宿所とありましたけれど、ひょっとして買い出しですか?」

 高津さんが当然の質問をした。

「悪いな。合宿場所が合宿所と書いてあるの、あれは嘘だ」

 大和先輩がある種予期していた事をここで告げる。


「学校側及び関係者以外に対しては合宿所で合宿という事にしてあります。その辺はご了解下さい。実際の合宿場所は場所は南の無人島になります。とりあえず生存が可能な最小限のものが入手可能で危険な動植物がほぼいない場所です。天候は本日から3日間は晴れが続く予定となっています。またテントや寝袋、ナイフ、鍋類、水用ポリ容器等最小限のものは用意してあります」

 何だこの説明は。

 今までとは違った不穏さがある。

 しかもテントに寝袋だと。

 色々気になるがまず基本的なところから聞いてみる。


「何故南の無人島でやるのですか」

「国内でもこの研究会のような亜人系団体が合宿出来る場所は何カ所かあります。ですが国内のそういった場所はだいたい中級者以上向けで危険な場所が多いのです。今回は初心者対象ですから比較的安全な南国の無人島で行うことにしました。

 今回行く場所は色々条件も揃っていて、公の魔女団体のお試し育成合宿にも使われる場所です。今回の日程で使うのはうちだけの予定ですけれど」


 危険な場所が多い?

 どういう合宿を意図しているのだろう。

 それにテントとか寝袋とか。

 わからない場合は聞いてみるに限る。

「それで合宿では何をする予定なんですか」

「今回の合宿内容は2泊3日のサバイバルです。自然の中で皆さんの持つ特異な能力をフルに引き出していただこうと思っています」

 何だと!


「基本的な内容は簡単だ。水の確保や食糧の確保。そういった事を1年生3人で協力してやって貰う。私と香織も昨年2人でやった。人数が少ないと結構大変だったな」

「昨年は香織さんの力で水の場所がわかってしまいました。ですからから比較的楽だったと思いますけれどね」

 それを俺達3人でやれと。


「勿論2泊3日では全てを自分達で作ったり集めたりする事は困難です。ですから最低限のキャンプ用品と最初の1日分の水、そして主食となる米1人当たり1キロは用意してあります。また本当に危険な場合は適宜介入させていただきます」

「逆に言うとそれ以外は先生も2年生も一切手を出さない。1年生3人で全部やってくれという事だ。食糧も1年生3人は自分達で調達な。こっちの分は心配しなくていいから」

「無人島ですから能力は存分に使って貰って構いません。ただ装備を分けた後は一切説明も教示もしません。現場に到着して装備を受け取ったらスタートです」

 いつの間にか車はとんでもない空間を走っている。

 この前空港に行った時に使ったあの短絡路だ。

 車で行くとなるととんでもなく遠い場所の可能性が高い。


「まあ合宿所よりも南国の海辺の方が気分いいだろ。リゾート気分にもなれるしさ」

 でも俺は不安だ。

 その不安を抉るような質問を愛梨が口にした。

「ねえ、ダーリンってキャンプとかした事がある?」

 うっ。

「親父に連れられて1回行った事がある程度。飯はパンとバーベキューだった」

 米は炊けないぞというのを暗に匂わせる。

「愛梨はどうだ?」

「料理は得意だけれどキャンプはした事はないなあ」


 最後の希望に愛梨が尋ねる。

「桜ちゃんは?」

「初めてです。何か楽しみですね」

 俺は楽しみというより不安なのだが。

 そもそもこの面子、米が炊けるのかすら怪しい。

 大丈夫だろうか、この合宿。

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