第2章 天国または地獄の錬成合宿
第8話 次の新入生と行事その1計画
月曜日の放課後。
結局俺は今日も第1化学準備室にいる。
逃げるのは諦めた。
あくまで諦めただけだ。
このサークルを気に入ったとか愛梨に情が移ったという事では決して無い。
逃げた方が色々問題が大きくなると判断しただけだ。
ただ時間が勿体ないのでここでも授業の復習とか予習をする事にしている。
大和先輩は大体スマホをいじっているし川口先輩はカードを並べているし。
勝手に好きなことをやっているようだから問題無いだろう。
ただ邪魔者が1名いる。
「ねえダーリン。折角だから少しお話しませんか」
俺は無視してコミュニケーション英語の次回部分を約す。
「……結局席順は今回も隣になってしまった、不機嫌な……」
「ねえダーリンってば」
「……誰が隣にこの不機嫌な……」
「そこは関係代名詞ですから後から約すと楽ですよ」
うううっ!
困った事に英語は愛梨の方が得意なようだ。
「席替えの結果、彼はまたしても不機嫌そうな彼女の隣になってしまった。訳はそれでいいと思います」
だから俺が考えつつ訳しているのを横からあっさり答えないでくれ!
「そう言えばこの研究会の活動は事件以外にないんですか。例えばこの前の近道みたいなのを教える会とか?」
「ある」
珍しく川口先輩の方が答えてくれた。
でも例によって端的すぎて詳細不明だ。
そう思ったら。
「まだ時が来ない。揃ってからの方が効率がいい」
揃ってから?
それってつまりは……
そう思った時だ。
トントントン。
扉が3回ノックされた。
「はい」
「こちらは西洋民俗学研究会で宜しいでしょうか」
むむっ、何者だ!
この
ただし色々と認識阻害魔法をかけているので一般人が入ってくるという事は無い。
俺が級友に
認識阻害の魔法で一般人は興味を持たないようにしている訳だ。
つまりうちのサークル名を出してここに来る奴は普通の人間ではない。
「どうぞ」
大和先輩がスマホを置いてそう返事する。
扉が開いて女子生徒が一人はいってきた。
小柄でお嬢様風という感じの女子だ。
「失礼致します。安浦先輩の紹介で参りました1年2組の高津桜と申します。入部希望なのですが宜しいでしょうか」
「安浦先輩の紹介なら問題無いだろう」
大和先輩が答えて頷く。
「ようこそ西洋民俗学研究会へ」
「安浦先輩って?」
「先代部長」
愛梨の疑問に川口先輩がこそっと答えてくれる。
「それで安浦先輩の紹介という事は属性も同じか?」
「いえ、私は狼になります。中学の時たまたま安浦先輩と知り合って。獣人会なんかにも連れて行ってもらいました」
「先代部長は狸」
川口先輩が再びこそっと教えてくれる。
それにしても獣人会なんてものもあるのか。
現代日本も結構色々生息しているんだな。
「それじゃ簡単に部員を紹介しよう。私が部長代理で魔女の大和撫子、偽名くさいが本名だ。2年1組。そしてこっちが川口香織、ロマ族の血をひく占い師で同じく2年1組だ。
あとは1年でこいつが
ちょっと疑問が生じる。
「大和先輩って部長代理だったんですか」
という事は他に部長がいるという事だよな。
「部長は3年1組の並木翠先輩なんだが留学中でな。英国は
なるほど。
今まで知らなかった。
「さて、今年の1年が揃ったところで合宿のお知らせだ。今年は5月3日から5日までの2泊3日で行う。合宿での訓練内容は短絡路の基本的な通行方法や能力の使い方といったまあ亜人や能力者の基本だ。桜は短絡路の通り方は自信があるか?」
「まだ教わった道しか歩けないです」
「なら愛梨達とそれほど変わらないな。今年は全部で5人だから顧問の都和先生の車で移動予定。場所は秘密だが悪い場所では無いと断言しておこう。用意するのは学校指定のジャージ上下と下着の着替え等、詳細は後でしおりにして配る予定だ」
何気に新事実がある。
「顧問の先生がいたんですか、ここにも」
大和先輩は肩をすくめてみせる。
「そりゃいるさ。これでも学校公認だからな。ちゃんと活動補助金も貰っている。
ただ都和先生についてひとつ注意だ。先生は見かけこそ温和で小柄で、かつ純然たる人間だ。実際見かけ通り温和だし基本怒ったりすることもほとんどない。だが戦闘能力的には最強レベルだ。生徒と比べるととかそんなレベルじゃない。
だから基本何があっても逆らうな。まあ逆らうなんて事はないと思うけれどな」
何だその忠告怖いぞ。
どういう先生だろう一体。
うちのクラスの授業を受け持っていないからわからない。
「参考までに都和先生って何の受け持ちですか?」
「今は3年の理科関係だな。本来の専門は化学だそうだ」
なるほどその関係でこの部屋を使っている訳か。
それだけは納得だ。
「合宿のしおりは今週中には作っておく。今日の連絡は以上だ」
大和先輩はそう言うと再びスマホを取り出してゲームを再開した。
俺は無駄になった時間を取り戻すべく英語の予習に戻る。
一方女子はおしゃべりをはじめた模様。
「ねえ、狼ってひょっとして変身出来るの?」
「満月に近い夜で月が見えれば何とか出来ます。でもあまりやらないようにしていますの。あの状態ですと微妙に性格が変わってしまいますので。それより邪視ってどんな事が出来るのでしょうか?」
「うーん、あまり面白い事は無いかな。基本的に呪い系みたいな感じだし。あと簡単な未来予測を少しだけ。あ、あと妖精さんとかと話すのは得意」
「何気に愛梨は凄いぞ。ついこの前、英語しか話せないグレムリンを自由に使役していたからな」
大和先輩もおしゃべりに参戦した模様。
「あれはグレちゃんが素直でいい子だっただけですよ。でも妖精さんはだいたい素直でいい子が多いかな」
「でも妖精って一般的に人の話を聞いてくれない印象がありますけれど」
「この前のグレムリンだって私の言う事は全く聞かなかったぞ」
「単に日本語がわからなかっただけですよ、きっと」
そのうち話題は何故か俺の事に。
「そう言えば真鍋君、
「あ、それ私も気になっていた。ねえダーリン!」
無視してもきっとしつこく聞いてくるだろう。
だから仕方無い。
「何だ」
「ダーリンは自分を
これには一応それなりの理由がある。
単なる個人的なこだわりだけれども。
「基本的には
「血を全く吸わない訳?」
「相手の能力を得るとか相手に能力や生命力を渡す際には血を吸うなんて技もあるらしいけれどな。まだ使えないし使う予定も無い」
「何なら私の邪視いる? ダーリンなら血を吸ってももっと色々な事してもいいよ」
「いらん」
まだその能力は無い。
あと勉強の邪魔だ。
「あと太陽の光とかは大丈夫ですか。銀製品とかも」
「普通の人間が大丈夫な物は問題無い。あんなのは只の伝説だ」
だから勉強の邪魔だ。
俺はわざとらしく教科書を移動させ視線を戻す。
「ねえ、愛梨さんは真鍋君の事をダーリンって言っていますけれど、やっぱりそういう仲なのでしょうか?」
「そうなのです。私とダーリンとは運命的な出会いを……」
無視だ、無視。
さてこの単語は……
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