2話 pinkie -1


「はぁはぁ、まだ着かないのかよ…」

俺は今、山を登っている。

歩き始めて二時間程になるが、まだまだ山の中腹辺りで今回の目的地となる所までは後一時間程かかる計算になるか。

「ちょ、ちょっと休憩しませんか?」

3歩くらい後ろから、声がかかる。

俺は振り返って、声をかけてきた女子に食い気味に頷いた。

「そ、そうしよう、ちょい疲れた。」

そうして身近にあった大きめな岩に腰をかけてリュックに入れてある水筒を手に取る。

まだそんなに気温は高くなる時期ではないが、水筒の中に映る顔には汗がじわりと額についているのが見て取れた。

見上げると木と木の間から太陽が俺たちを覗き込んでいた。

もう春は終わるということを告げんばかりか燦々と俺たちを照らしていた。

――――――



神田雨音、という名前を聞いてから十日程が過ぎた。

あれからも一度も登校はしていないようで、まだ真新しい机がポツンと残されていてクラスに馴染めずにいた。

この学校ではGWに入る前に遠足という行事が催される。

新しいクラスになったことでクラスメートの顔ぶれが変わる。顔ぶれが変わると空気が変わる。なので学校側は、遠足という行事を催すことでクラスの絆を深める機会を設ける。すると仲良し三組が出来上がる。と考えている。

なるほど、素晴らしい方程式である。

だが、残念なことに現実では、この3週間の間でもうそれぞれのグループは成り立っていたりもする。陽キャは陽キャで集まり、オタクはオタクで集まり、ボッチはボッチのまま行動する。それがこの社会、いや人間界、いや自然界による摂理であり、理である。

それにならって区別するなら、俺はボッチにカテゴライズされていた。端的に言うと友達を作れなかったのである。

口下手でもコミュ障でもないが(自社調べ)俺自身、それほど人に興味がなく、クラスメートからも声を掛けられる事が少なかったので喋ること自体が少なかった。そんこともあって自然とそうなっただけではあるのだが…。

遠足は所謂この学校の恒例行事となっており、一年二年三年とそれぞれ別々の場所に行くこととなっている。今回は一年は動物園、二年は山登り、三年は遊園地と決まり、学年毎に喜びと悲しみとが入り交じっていた。

クラスの担任の板垣先生も二年生の不満を一身に受け流していた。

見事な体捌きである。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

そして、一番の批判を浴びたのが今回の山登りをするグループはくじで決めることというルールであった。

陽キャ、キョロ充、オタク、ボッチが入り交じる班構成はなかなかにカオスで気まずい空間になること必須である為、皆必死に抗議していたが、ルールはルール、ということでくじでの班決めが決行されたのだが…

赤色のくじを一心に見ていた俺に

「よろしくお願いしますね。」

と声を掛けてきた女子がいた。

見れば以前に廊下でぶつかった子であった。名前は新巻晴花。

あの翌日に名簿で名前を確認してあるので間違いない。

ちょっと気弱そうな子で図書委員も任せれていた。

「こちらこそ、よろしくね。」

と返事をする。

完全にランダムなので誰と一緒になるだろうか、と思っていたが、ひとまずは安心だな、と胸を撫で下ろしていたところに騒がしくハイタッチをした二人がこちらにやってくる。

その二人は同じサッカー部の奴らで班が同じになったということで喜んでいたようだった。

内心、うわっと思ったが、顔には出さず挨拶をする。

「よろしくな。」

というとまるで初対面かのような反応で「おぉ、…よろしく。」と返ってきた。

一瞬気まずい空気が流れたような気がしたが、まあ、そんなもんだろうと思い気にしないことにした。

これで班決めは終わり、俺は周りを見渡す。ランダムなだけあってイメージとは全く合わない人で構成された班というのがほとんどだった。

ふと、「ラッキーだね!」という喜びの声が聞こえた。見ると風羽有希とそのいつものメンバーが同じ班だったようだ。その後、少しの間ざわざわしていたが、板垣先生が号令をかけその時間は終わりを告げた。


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