1話 morning glow -6

その日、夢を見た。

その夢は、鉄仮面ライダー誕生の物語が描かれた、鉄仮面ライダー 第43話「その日、悪魔は生まれた」をキラキラとした目で見る少年を眺める自分であった。

鉄仮面ライダーは他のシリーズの中では特にシリアスに描かれた作品で子供向けには似合わないような過去を持つライダーであった。

悪の組織に捕まった主人公鬼龍院一真は体を改造させられ悪の怪人にさせられてしまう。しかし、彼の体には怪人としての変化は見られなかった。彼は失敗作とみなされ処分がくだされることとなった。そして、処分が決行させるとき、彼の中にあったまだ死にたくないという思いが彼を怪人として覚醒させ組織からの脱出に成功し、怪人を倒す為に鉄仮面ライダーとして躍動することになる。

という、物語の始まりのエピソードである。

子供の頃はただただカッコいいと思っていた。しかし、年を取ってこのエピソードを振り返ると違う感想を抱いてしまう。

というのも、この主人公は怪人にさらわれる前までは職にもつかずプラプラと遊び歩いている若者であった。就活に失敗して、さらにバイトもせずに半分自暴自棄になって過ごしていた。

その彼が死ぬという絶大なる恐怖に対して、生存本能というべきの最大の抵抗で死地を脱したのだ。

彼の心には正義ではなくもっと自堕落なモノがあった。世間に対しては恨み妬みの類いを持っていた。窮屈で狭隘で他愛もない世界で生きていた。

その彼は生きていたいという希望よりも死にたくないという恐怖が始まりとなった。

恐怖によって人が変わる。

年を取った今なら分かる。そんな悲しい「正論」があることが。そんな解釈をしてしまう自分が。

そして、それは紛れもなく俺のことだということも。

その物語を見る自分とそれを後ろから見る自分。

どちらが本当の自分だなんて分かりきっているのに、俺はただ祈るだけだ。

少年よ、そのままでいて。

そしてあわよくば後ろを振り返らないでほしい。

そこで、夢は途切れた。

時計は5時を指している。カーテンの隙間からうっすらとした光を見つけた。

もう一度寝ようとして布団を深く被る。嫌な夢を見た。嫌なことばかり覚えているのは夢の悪い所だ。そういった「せい」にしてまた眠りにつく。

その心とは関係なく、時間はただ進んでいく。

ほら、また朝が来る。

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