第16話014「その後のお話 その1」
「ふ~、何だか色々あったな……ここまで」
春の日差しが降り注ぐ窓辺にて、コーヒーをすすりながらホッと息を吐くのは……クライブ・W・フォートライト。
ここはセンティエレメスト王国の王都センティスにある『センティエレメスト王立高等学院』の男子寮。クライブは今、その寮にある自分の部屋で入学式を終え一息ついていた。
「村の初等学院を卒業して半年――そして、今いるここは高等学院。クライブの夢を叶えたのはよかったが…………こりゃ~、思ってた以上に大変な学院生活になりそうだ」
そう言って、クライブは自分の『今の立場』と、ここでの『やるべきこと』を考えては『無理ゲー過ぎっ!!』と頭を抱えてはへこむのがここ最近の日課だ。
「だが、まあ…………やるしかないからな」
そして、そんな頭を抱えて落ち込んだ後は、気を引き締め覚悟を決めるのもまた日課となっている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――半年前
「ただいま、父さん、母さん」
「「クライブっ!!」」
夕暮れ時、アレイスターとの話を終え、屋敷から家に戻ると、
「……お前か? 私の息子に酷い事をしたという命知らずなガキは! 我が愛息ザボンはまだ高熱でうなされながらずっと寝込んでいるんだぞ!! どうしてくれるっ!!!」
激しく俺に詰め寄ったのはザボンの父親である村長……『バルダー・F・サンドラ』。バルダーは三人の従者を連れ、俺の家の中で踏ん反り返りながら居座り、横では両親が跪(ひざまず)かされていた。
「と、父さん、母さん!!」
「クライブ……何があったんだ?」
「村長さんの息子さんに何かしたの?」
跪いたままで俺に声をかける父さんと母さん……俺はそんな姿に目を見張り、そして、怒りが一気に膨れ上がる。そして、
「……おい、おっさん。父さんと母さんに何、跪かせてんだ?」
ゾワ……ッ!
「ひっ?! な、ななな、なな、なんだ、お前っ!? あと、そ、その……青い炎は……なんだっ?!」
俺の体に一瞬で『青の炎』が纏う。
同時に両親以外の腐れ外道どもには思いっきり『威圧』を当て、体を強張らせ動けなくした。
「ク、クライブ、お前……」
「ク、クライブ? あ、あなた……クライブなの?」
「父さん、母さん……」
二人が『青い炎』を纏った俺を見て、驚愕した表情を浮かべる。その時、
「やあやあ、バルダー君。ごきげんよう……そして、クライブ君のご両親、お久しぶりです」
そう言って家の中に入ってきたのは、領主アレイスター・Mt・クロムウェル。
「「「りょ、領主様ぁぁーーーーー!???!?!?」」」
俺の姿以上にこの場にいた者が驚きの声をあげる。
「な!? な、なぜ、領主様が……ここに?」
領主の姿を見て、特に一番驚き、且つ、あまりの困惑に顔を歪ませ青くなる村長のバルダー。
「ん? ああ、それは勿論…………お前を拘束するためだ、バルダー・F・サンドラ」
「え……?」
すると、アレイスターの言葉をきっかけに家の中に領兵たちが一気に押しかけ、あっという間にバルダーとその従者を締め上げる。
「こ、こここ、これは、どういうことですか、領主さ……っ!?」
「……黙れ、クズめっ!」
「ひっ!?」
アレイスターが低いドスの利いた声でバルダーを一喝。その言葉にバルダーが悲鳴を上げる。
「お前は村長という権力を利用し、これまで様々な罪を犯したことはわかっている。そして、今回もまた、このクライブ君を…………殺そうとしたこともな」
「「な……っ?! クライブを殺す……!?」」
父さんと母さんがアレイスターの言葉に顔を青ざめる。
「はい。二日前、クライブ君はバルダー……村長の息子であるザボン君にもう少しで殺されるところでした。いえ、ザボン君というより、ザボン君の復讐を父親であるこのバルダーが金でチンピラを雇い、クライブ君を森で殺そうとしました」
「「そ、そんな……っ?!」」
両親はアレイスターの言葉に愕然とする。
「バルダー! お前の今回の件は俺、自らが証拠を掴んだ。よってもはや、お前の罪が逃れることは絶対にないっ! 覚悟しろ」
「ふ、ふふふふ、ふざけるなぁぁぁーーーーっ!!」
すると、バルダーが息子と同じようにキレ出した。
「わ、わたしが、これまで、どれだけ……この村に貢献したと思ってるんだっ!?」
「貢献……? フン! 笑わせるな。俺はな~、お前みたいな弱者をいたぶるようなクズは……」
「ひぃ?!」
そう言うと、アレイスターはバルダーの髪を強引に掴み上げ、
「絶っっっ対に……許さんっ!」
バキィィィーーーーーっ!!!
「ぐへぇぇあぁぁああああ~~~っ!!」
アレイスターの拳がバルダーの顔面に思いっきり入り、バルダーはそのまま吹き飛び、失神した。
「お前ら! バルダーとその従者共々、ひっ捕らえろっ!!」
アレイスターの号令に領兵が即座に動き、バルダーたちを連れて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やあ、久しぶりだな……ラルフ、メリッサ」
「りょ、領主様……ありがとうございます」
バルダーたちが連れ出された後、アレイスターが二人を跪いている床から抱え上げて声をかける。
「……まだまだコントロールが下手くそだな、クライブ。これは先が思いやられるよ、まったく」
「くっ!……ちくしょう」
アレイスターが苦笑いをしながらクライブに毒つく。
「「ア、アレイスター様?」」
両親が俺とアレイスターのやり取りを聞いて、何がどうなっているのかわからないという表情をアレイスターに向ける。
「ラルフ、メリッサ…………今日は二人に重要な話がある」
そう言って、アレイスターは俺の事と今後の話を始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「つ、つまり、領主様の援助で……『推薦枠』という形でクライブを高等学院へ進学させるということですか?」
「ああ、そうだ」
父親のラルフの質問に即答するアレイスター。
「で、ですが、『推薦枠』となれば、クライブとはもう離れ離れになるということですよね? それは……」
と、ラルフがアレイスターに『推薦枠』の話を蹴ろうとする。しかし、
「いや、具体的に言うと『推薦枠』というのは形式的なものだ。クライブを今後……在学中も卒業した後もお前たちから引き離すことは決してしない!」
「「えっ?!」」
アレイスターの力強い言葉に両親は呆気に取られる。
「俺とクライブとの関係は『主従関係』ではなく、あくまで、俺の右腕として今後、協力してもらうという『パートナー関係』みたいなものだ」
「パ、パートナー……ですかっ?!」
「そうだ。クライブには王都の高等学院に行ってもらい、将来の俺の右腕として動けるよう高等学院で励んでもらうつもりだ」
「そ、そこまで……クライブのことを……あ、ありがとうございます、アレイスター様……!」
母さんがアレイスターに感謝の言葉を告げる……しかし、その横で聞いていた父親のラルフが呟く。
「で、ですが、クライブには…………『魔力縛り』が……」
「ああ、『魔力縛り』か。それは…………もう、治っているぞ!」
「「ええっ!? な、治った?!」」
「ああ。詳細は言えんがクライブの『魔力縛り』は治っている」
「ほ、本当に……クライブの……『魔力縛り』が……ああ……」
「メリッサ……」
アレイスターの言葉に母親は感極まったのか号泣し、その横で父親のラルフも彼女の手を握りながら静かに涙を零していた。
「これから先、クライブには俺の右腕として存分に活躍してもらう予定だ。ただ、それには、高等学院へと通うことになる。そうなると、そこでは寮生活となる為、これまでよりもクライブと会う機会は減ってしまう。そういう意味では離れ離れになるような形になるのだが……構わんか?」
「も、もちろんです、アレイスター様! 私たち夫婦は初めからクライブを高等学院へ進学させるつもりでした!」
そう言うと、母さんはアレイスターへ進学へのお金を貯めていたことを話す。
「そうか。そこまでクライブのことを……クライブを進学させようと思っていたんだな。凄いな、お前たちは」
アレイスターが優しい眼差しで両親に言葉をかける。そして、
「それを聞いて安心したっ! いや、むしろ、二人とも素晴らしい人柄だっ! これなら自信を持ってこの話ができるっ!!」
「「え……? お話?」」
「……今度はクライブではなく、お前たち二人についてのお話だっ!」
両親がきょとんとする中、アレイスターはニカッと悪戯な笑みを浮かべながら説明を始めた。
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