第17話015「その後のお話 その2」
「領都の……クロムスへ?」
「わ、私たち親子が……ですか?」
「そうだっ! お前たちは親子揃って領都のクロムスで俺が面倒を見る! つまり、お前たち親子はこれからは『貴族』となるということだ! ワッハッハッハ!!」
ラルフとメリッサがアレイスターの言葉に茫然となる中、アレイスターの高らかな笑い声だけが室内に響き渡る。
「ア、アレイスターさん…………両親が引いてます」
「むむっ?」
アレイスターと両親の温度差に俺は軽く頭を抱えつつ、改めて、俺から二人に説明をした。
「ク、クライブ……そ、それって……貴族になるってどういうことなの?」
「ああ……うん。領都に住めるのは貴族以上で、それ以外の平民は貴族の『従者』としてしかそこで住むことはできない。でも……」
「うむ。そして今回、お前たちには『従者』ではなく『下級貴族』として領都に移り住んでもらう!」
「え、ええええええっ?! そ、そそそそそ、そんなっ?! き、貴族だなんて……い、いやいやいや、それは……?!」
ラルフがアレイスターの言葉に『無理です、無理です!』と抵抗の言葉を何度も叫ぶ。しかし、
「フッフッフ、ラルフ君? これは…………領主命令だっ!!」
ドーーーーーンっ!
というような効果音が聞こえるかのように人差し指をラルフに向け、ドヤ顔をするクロムウェル領の領主様。
「もちろん、下級貴族になったからといって何もしないでお金が入るということはないからな? 下級貴族になればラルフ、お前には…………この村の林業の事業拡大を任せるつもりだ」
「お、俺が?!…………ですかっ!」
「フン……話は聞いておるぞ、ラルフ? お前の仕事ぶりは…………なあ、ガリアっ!」
「……ああ。悪いがお前にはその責務をやってもらうぞ、ラルフ」
「!? ガ、ガリア親分っっ!!!」
ノソ……と、部屋に入ってきたのはラルフと同じくらいの巨体の男だった。すると、父さんが現状に軽く混乱しながら『と、父さんが働いている木こり仲間のボスだ』と説明してくれた。
「ガリアと俺はガキの頃からの親友でな……」
「フン! 悪友……の間違いだろ、アレイスター?」
「ハッハッハ! 似たようなもんだろ、そんなもん!」
「……まったく。お前という奴は…………相変わらずだな」
アレイスターの陽気に『やれやれ』という表情で呆れているガリアだったが、アレイスターに向ける言葉や態度を見るとお互いがとても信頼しているような空気を感じさせた。
「ラルフ……お前の能力は俺がよくわかっている。お前のような一度見ただけで『正確に木の材質を見極める目』や『目先の欲に惑わされず、広い視野で物事を把握する判断力』は俺には無いものだ。そして、その能力は林業の事業拡大の舵取り役に一番適していると俺は思うぞ」
「!? お、親分っ!!……そ、そんな……俺には……もったいないお言葉です」
ラルフはガリアの口から出る自分への思ってもみなかった高い評価に恥ずかしさと恐れ多さが混じり、顔を赤らめ、思わずガリアに跪こうとする。だが、
「そういうのはよい、ラルフ。お前にはこのアホ領主の無茶ぶりを……悪いが受け入れてもらうぞ! これは俺からの……頼みでもある」
「!? お、親分……」
「……やってくれるな、ラルフ?」
ガリアのその言葉に、ラルフはとうとう観念し、
「わ、わかりました。お、俺のできることであれば……必死にやってみせますっ!!」
「うむ……頼んだぞ、ラルフ」
そう言って、ニカッと笑ったアレイスターがラルフの肩を叩いた。
「……まったく! それにしてもお前は相変わらずやることが性急かつ強引過ぎるぞ、アレイスター!」
と、アレイスターに軽く毒づくが、アレイスターは『許せ、ワッハッハッハ!』と笑うだけでそれを見てガリアが大きなため息を吐く。すると今度は、
「……あと、クライブ君」
「は、はははは、はいっ!!」
強面のガリアがドスの利いた低い声で俺に話かけてきた…………こ、怖い。
「娘と……エマといつも仲良くしてくれてありがとう」
「えっ!? エ、エマのお父さん…………なんですかっ!!」
クライブの記憶にもこの男の記憶はなかったので、まさか、エマの親父さんとは知らなかった俺は素でビックリした。
「そうだ。改めて初めまして、クライブ君。私の名は『ガリア・F・キャロライン』だ。これからも娘と仲良くしてやってくれ」
「そ、そんなっ!? お、俺のほうこそ、エマにはいつも仲良くしてもらってるし助けられてもいます!」
まさかの……まさかの展開だった。まさか、ガリアがエマの親父さんだっただなんて驚愕だ。
「本当かい? あいつは性格が私に似たのかお節介焼きなところがあってな、迷惑かけてなきゃいいが。まったく……」
「そ、そんなことないです!」
「そうか。ありがとう……」
そう言って親父さんははにかんだ笑顔を見せてくれた。
それにしても、親父さんと話しているとエマの口癖は親父さん譲りなんだなとわかり少しおかしくなる。
「コホン……よし、それでは改めて……」
と、ここでアレイスターが姿勢を正し、和やかな空気から威厳と緊張感を伴った空気へと変える。そして、
「フォートライト夫妻とその息子、クライブよ! お前たちを『平民』から『下級貴族』への身分昇格、及び、家長のラルフは林業の事業拡大の責任者である『指揮長』に任命する!」
「「「は、はいっ!!!」」」
アレイスターが領主としての『存在感』を示して、俺たち家族に言明する。
「……そして、クライブ・W・フォートライトよ」
「は、はいっ!」
「お前には高等学院までの半年間は私の家へ通い、そこで必要な知識や技術を学ぶこと! よいなっ!?」
「は、はいっ!」
「出発はクライブの初等学院の卒業式の日……約一ヶ月後となるのでそれまでに必要な準備をしておくように……以上!」
「「「かしこまりました!」」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――一ヶ月後、
俺たち親子は無事に領都クロムスへと居を移し、身分も『平民』から『下級貴族』へと昇格を果たした。
ちなみに『平民』が『貴族』へと身分を昇格することは生きていてほぼあり得ないものらしいので、領都へと移動するまでの一ヶ月間は父さんも母さんもすぐに現実を受け止められず、ため息ばかりついていた。
しかし、出発の日……初等学院の卒業式を終えた後、アレイスターがいきなり舞台に上がり、『前村長の犯罪と失脚』『新村長の任命』そして……俺たち家族の『身分昇格と領都への移動』を伝えた。
領主の発表にはじめは皆動揺していたが、次第に状況を把握した村人たちは俺たち家族に祝福の言葉をかけてくれた。その中にはこれまで両親と仲の良かった者だけでなく、これまで蔑んでいた者たちも『手のひらグル~ン』で近寄って祝福の言葉をかけていた。恐らく、将来のことを考えての『打算目的』の祝福の言葉だとすぐにわかったが、それはそれで両親は顔には出さず『ありがとう』と感謝の言葉を返していた。
しかし、この初等学院の『卒業式での発表』という突然のアレイスターの『サプライズ』により、両親は『本当に貴族になるんだな……』と現実をしっかりと受け止めたようだった。
ちなみに、新村長にはエマの父親であるガリアが任命されたのだが、ガリアは『寝耳に水』の任命だったようで、その後、アレイスターはガリアさんにかなり文句を言われたらしい。そりゃ、そうだ。
そんなアレイスターの無茶ぶりの村長職任命を最終的には『まあ、俺のできる範囲で最大限やってみるさ。はぁ~、まったく……』といつもの口癖とため息を入れつつもしっかりとした口調で村長職を受け入れてくれた。
こうして、『平民』から『下級貴族』へと身分(カースト)を一つ成り上がった俺は半年後、高等学院へ『下級貴族』として入学することとなる。そこではまた『新たな試練』が待ち構えていたのだが、それは次に話すとしよう。
俺の成り上がりはまだ始まったばかりである。
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