第14話012「蒼炎の悪魔持ち」
「ちょっと話は変わりますが……どうして『魔力縛り』は『平民』にしか発生しないんですか?」
「ああ、それは……これも長髪男からの話だが王族や貴族には『魔力縛り』で乗っ取ることができないらしい」
そう言って、アレイスターが話を始める。
「長髪男(やつ)が言うには、最初、何度もヴィセビア神を支える強力な側近たちを乗っ取りヴィセビア神に戦いを挑んだらしい……が、それらはすべて失敗に終わるのだが、その失敗した理由はヴィセビア神の側近といったヴィセビア神に忠誠を誓う者であればあるほど魔王の力を発揮することができなかったかららしい」
「え? それってどういう……?」
「どうやら、ヴィセビア神への忠誠が高い者ほど魔王の魔力を使うことが困難だったとのことだ。理由はヴィセビア神自身が創り上げた側近の人間、またはそれに近しい人間、あるいは忠誠心の強い人間には『加護』という形でヴィセビア神の権能の一部を付与しているのだが、この『加護』こそが魔王ゾルティゼアの魔力による乗っ取りを妨げている力となっているらしい。そして、その今言った『加護』こそが『王族や貴族』にだけあるものであり『平民』にはないものなのだ。これがどういう意味だかわかるか?」
アレイスターは俺を試すかのようにニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。
「は、はい。つまり……ヴィセビア神の『加護』を持たない平民にしか魔王ゾルティゼアの魔力で乗っ取ることができない……これが『魔力縛り』が平民にしか発生しないという理由ですね?」
「そうだ! さすがだな」
「あ、ありがとうございます」
「そんなわけで長髪男は今度は平民に何度か『魔力縛り』で乗っ取ろうとしたらしいが、今度は別の問題が浮上してうまくいかなくなった。理由は『平民』は魔力が弱すぎる為、『同化』が難しかった……」
「なるほど」
つまり、『魔力縛り』で相手を利用するには、その相手にもそれなりの『魔力が必要』ということか。これは歯痒かっただろうな。
「そんな中、俺の時代に『平民で高い魔力を持った蒼炎の悪魔持ち』が何人か現れた…………その一人が俺だ」
「えっ?! アレイスターさんが?!」
「言ったろ? 俺も『蒼炎の悪魔持ち』だと。しかも、俺は『この村』では初代だ! ん? どうだ? 偉いだろ? もっと敬ってもいいぞ!」
「そういうのはいいです……ていうか……あ、あれ? も、もしかして……すみません、アレイスターさんが『魔力縛り』に罹ったのって確か二十年前って…………え? ま、まさか、それって……?」
「お? さすが察しがいいな。そうだ、俺がこの村で初めて出た『忌み子』であり、『魔力縛りを克服した者』……『蒼炎の悪魔持ち』だ!」
「そ、そうだったんですね! 俺に『後輩』だとか『俺は先輩だ』とか言っていたのは『地球からの転生者』ということだけじゃなく、この村最初の『蒼炎の悪魔持ち』という部分も入っていたんですね」
「ハッハッハ! そういうことだ、後輩!」
アレイスターは満面の笑みを浮かべながら俺の頭をワシャワシャ荒っぽく撫でる。
「ちなみに当時の俺は『魔力縛り』で死んだことになっているから、俺がこの村最初の『忌み子』ってことは内緒だぞ」
今、何か、サラッと重要なことを言ったぞ、この人。
「え、えええええっ?! アレイスターさんが死んだことになっている? どゆこと?」
「まあ、いろいろとあるんだが…………要するに『一度、死んだことにしたほうが都合が良かった』ということだ」
「じゃ、じゃあ、当時は『アレイスター』という名前ではなかったんですか?」
「まあな。『アレイスター・Мt・クロムウェル』という名前は、一度俺が『魔力縛り』で死んだという形にしてしばらくした後、俺の父親である前領主が俺を改めて『養子』として招き入れた日に父親から付けてもらった名前だ」
「『死んだ形にした』……て、バレなかったんですか?」
「『魔力縛り』で死んだことにしたのはちょうど十歳くらいだったからな。それから五年間は『ある場所』にいてな……んで、その五年後には十五歳で顔も身長も十歳の頃とはかなり変わったから問題はなかったぞ。特に身長なんて十歳の頃はお前くらいだったのに五年後には今と変わらない身長になっていたからな」
「ええーー!! そ、それは……わからないですね」
「だろ? まあ、そういう意味では運が良かったな」
「そ、そうだったんですね……」
「ああ…………昔の話だ」
アレイスターは少し遠くを見つめながらボソッと呟く。
それにしても、一度、『忌み子』として死んだことにした、と言っていたが、それって、つまり当時は『忌み子』への反発が凄かったんだということが推測できる。そして……『アレイスター・Мt・クロムウェル』としてこの村の領主になった後は、『忌み子』が今後現れても差別されないように『忌み子』を保護する方針を作ったらしい。
凄い人だ。
「ちなみに、お前も『蒼炎の悪魔持ち』である以上、高い魔力を持っていると思うぞ」
「えっ!? そうなんですか?」
「ああ。『蒼炎の悪魔持ち』になるには高い魔力が必要だからな」
「ち、ちなみに、それって……『地球からの転生者』だから、てことですか?」
「さあ、どうだかな。前に一人、『蒼炎の悪魔持ち』と会ったことがあったが、その時、そいつは否定していたな……まあ、あいつが『本心』で俺に答えたかどうかは怪しいところではあるが……」
「そ、そうなんですね……ていうか、他に『蒼炎の悪魔持ち』に会ったことがあるんですね?」
「ああ……。だが、俺はあいつのことは苦手だがな……」
「はあ……」
「とにかくだ。『蒼炎の悪魔持ち』はイコール『高い魔力を持つ者』であることはほぼ間違いない。ちなみに、俺のミドルネーム……わかるか?」
「ミドルネーム? あ、はい……『Мt』……つまり『複数の属性』を持っているということですよね?」
そう、クライブの記憶によると、このアレイスターのミドルネームである『Мt』とは……『マルチド(Мultid)』と読むもので、それは『複数の属性持ち』を意味する。ちなみに、それ以外にもう一つ『全属性持ち』を表す『トランセンデンス(Transcendence)』というものがあり、ミドルネームは『Ts』となる。
「そうだ。『複数の属性魔力』を持てるということ……それ即ち、魔力が高いということを示すのだ」
「なるほど」
そう、この『Mt』という『複数の属性持ち』というのは世界でも数えるほどしかいないと言われているほど珍しく、また『最強の一角』という『強者』として畏怖される存在である。当然、魔力の高さも量もケタ違いということだ。
「さて、そこで、だ。ここでお前の『属性』を調べてみようと思う」
「え? 属性……ですか? で、でも、俺の属性は『風属性』だけで……」
「それは……これまでの『クライブ・W・フォートライト』の話だろ?」
「え?」
「俺も転生前は『風属性』だけだった。だが、転生後、俺の父親である前領主が持っていたこの……属性を調べる水晶『属性水晶』で調べた結果、俺は『光と闇』以外の四属性すべてを持つ『複数の属性持ち』であることがわかった……」
と、アレイスターはサラ先生がスッと渡した緑色の水晶を手にしながら説明をする。
「というわけで! 早速、調べるぞ……クライブ!」
目をキラキラさせながらサッと俺の手を掴む、アレイスター。
「!? ちょ、ちょっと待って! な、なんだか、怖いんですが……」
「大丈夫、大丈夫、痛くないから。痛いのは最初だけだから」
「……」
アレイスターの言葉に『もうちょっと言葉選べよ』と心の中でツッコむ俺だった。
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