第13話011「魔王ゾルティゼア」



「ま、この話も『長髪男(やつ)』が言っていたことだからどこまで本当かはわからんが……」



 と付け加えてからアレイスターは話を始めた。


「この世界で語られている創生時代の歴史では『ヴィセビア神』がこの星で破壊の限りを尽くしてた魔王ゾルティゼアを葬り、平和な世界に導いた……となっているが、長髪男(やつ)が言うにはこの歴史はヴィセビア神によって作られた『嘘』……とのことだ」

「嘘? これまでこの世界で伝えられてきた歴史が……ですか?」

「ああ。実際は、魔王ゾルティゼアが元々この星で『皆が豊かで幸せに満ちた世界』を作っていたらしく、それを壊して、この世界に身分制度(カースト)を作り、世界を支配しようと目論んだのが『ヴィセビア神』とのことだ」

「え、えええええっ?! そ、それって、全く逆の話じゃないですかっ?!」

「ああ……長髪男(やつ)曰く、『事実をすり替えられた』と言っている。ただ、まあ、どっちが真実か未だわからないがな……」


 そんなことがあり得るのだろうか?


 世界をそんな簡単に騙せるものなのだろうか?


 俺はあまりにも壮大過ぎる話の為、『そんなバカな』と結論づけようとした……が、しかし、長い時間をかければ可能性は…………ある?


「個人的にではあるが、俺は奴の話を聞く限り、あながち間違っていないようにも感じるがな」

「ア、アレイスターさん……?」

「……とは言え、現在の世界の歴史がまさか『嘘の歴史』というのもいささか信じがたい。ただ……彼の話がもし本当だとしたら……ここまで壮大に計画して成功し今もなおその支配が続いているこの世界を創った『ヴィセビア神』は……まさに脅威だと思う」

「た、たしかに……」

「ちなみに現在、この世界の身分制度(カースト)のトップは『表向き』は国王や帝王といった『王族』や『貴族』となっている…………が実際は、ヴィセビア教のトップである『教皇』がこの世界の頂点に位置する権力者であることは間違いない」

「えっ?! 王族や貴族よりも……ですか?」

「ああ……。これまで領主として生きてきた俺はそんな場面を何度も遭遇したよ……嫌でも、な」


 そう言うと、アレイスターが苦い顔を浮かべた。何か過去にあったのだろうか?


「まあ、こういった世界のことを俺は領主になってからいろいろ知ったことなんだが、そんな事実を知っていくと長髪男(やつ)の話は真実なんじゃないかと考えるようになった。なんせ、長髪男(やつ)の話が真実だとして考えるとすべてに辻褄が合うからな」

「で、でも……」


 そう、でも……である。


 そんな壮大な計画を何千年も前から今まで継承してこれたというのがどうしても信じられない……だが、


「もちろん、まだ確証はない。だが、これからお前もこの世界で生きていくとわかると思うが、何も疑わずに生活していれば『ヴィセビア教』が裏で世界を支配しているなんてことは到底、思えんだろう…………奴らは実に『巧妙』だからな」

「……ヴィセビア教ですか。何だか話を聞いているとまるで地球でいう『秘密結社』みたいですね」

「ああ、その通りだ。『秘密結社』という感覚で間違いないぞ」

「……マジっすか」

「そんな現状があるからこそ……そんな『世界の裏』を知ると……長髪男(やつ)の言うことにますます信頼性を帯びてくるんだ」

「……なるほど」


 確かに、地球にいたときも歴史を学んでいくと裏の歴史というか、都市伝説や陰謀論のような歴史にも触れることがあったのだが、その時、学んだのは『裏で糸を引いて世界を支配する存在』は確実にいるということだった。そして、アレイスターが言っている『ヴィセビア教』の話を聞くと、まさに裏で世界を支配する存在……『秘密結社』のようなものだろう。


 世界は違えど……人間が形成する社会というのはそういった『支配する者』と『支配される者』という構造が作られるものなのだろうか?


 何となく、やるせなさを感じる。

 

「まあ、今のところ何が真実かはわからんがな。だから俺は今、古い文献や古文書からそれを調査している。だって知りたいだろ?…………真実を」

「アレイスターさん……」

「ちなみに現在、調査している中でわかったことがいくつかある。その一つが俺たちのような『魔力縛りを克服した者』のことを『蒼炎の悪魔持ち』と呼び、それは世界で数人しかいないと言われているのだが……」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」

「な、なんだよ! いきなり話の腰折りやがって……」

「い、今、『俺たちのような魔力縛りを克服した者』と言ってましたけど……お、俺って……『魔力縛り』はもう治ったんですかっ?!」

「はぁ?! 何を今さらっ!!…………お前、治ったから『青い炎』が出るようになったんだぞ?」

「そ、そうなんですかっ?!」

「長髪男(やつ)が『同化』してきたときがあっただろ?」

「は、はい……」

「あれで、お前と長髪男の魔力が同化し一つになったことで『魔力縛り』は克服でき、『青の炎』を纏えるようになったんだ。だから、お前も俺と同じ『蒼炎の悪魔持ち』になるんだよ」

「そ、そうなんですか……」


 一応、俺自身も治ったとは思っていたが確認のしようがなかったのでアレイスターに確認したのだが……まあ、これでやっとはっきりしたので少しホッとした…………と思ったが、今度は今度で、夢で起きたあの出来事が現実だったことと、『魔力縛り』を克服したことにより世界で数人しかいない『蒼炎の悪魔持ち』となったこと……など、自分の身にいろんなことが起こり過ぎていることにプチ混乱を起こしていた。


「とにかく! そんな、お前や俺といった『蒼炎の悪魔持ち』はヴィセビア教にとっては『最大の脅威』と捉えているだろうから、バレたらまず間違いなく……殺されるぞ?」

「!?……」

「ちなみに『蒼炎の悪魔持ち』なんて、普通の一般人や貴族は知らないからな?」

「えっ……?! そ、『蒼炎の悪魔持ち』て一般の人は知らないんですか?」

「当たり前だろが。そんな情報が明るみになれば、魔王ゾルティゼアの手の者が生きているということになるわけだ。そうなったら混乱が起きるのは目に見えるだろ? だから、この『蒼炎の悪魔持ち』というワードを知っている奴らが現れたとしたら、そいつは恐らく『ヴィセビア教の幹部連中』か『四大貴族』あるいは、それに近い『貴族』になるだろう。後は、まあ、『王族』の王様とその側近くらいか?……まあ、王族なんて普通に生きてて接する機会はほとんどないからそこは大丈夫だろう。まあ、いずれにしても、そんな奴らはまず間違いなく俺たちの……『敵』ということだ」

「な、なんだか、話が大きくなっているような……」

「ハッ! 何を今さらっ!! ちなみにお前を殺そうとしたザボンやあの場にいた連中は俺が記憶を消しておいた。だから、お前が『蒼炎の悪魔持ち』であることは外に漏れないから安心しなっ!」


 と、ニカッと笑いながらまた髪をワシャワシャするアレイスター…………そろそろ鬱陶(うっとう)しい。


 すると、ここでサラ先生が『コーヒーをお入れいたします』と言ってコーヒーを注いでくれた。俺もアレイスターも一度、ここで一息付いてコーヒーやお菓子を堪能する。そして、しばらくした後、今度は俺から質問を投げかけた。


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